不起訴になった行為について、民事裁判で損害賠償が命じられることはあり得ます。不起訴は検察官が刑事裁判を求めない処分であり、民事の賠償責任とは別の問いだからです。
2026年9月3日、神戸新聞は、尼崎市議選での「私人逮捕」をめぐり、NHKから国民を守る党と党員2人に賠償命令が出たと報じました。本稿ではこの報道を入り口に、逮捕の条件、起訴猶予、民事責任を整理します。確認時点は同月5日です。
報道された判決と、立花氏の手続きを分ける
今回の報道では、賠償を命じられた対象と、立花孝志氏本人の訴訟手続きが区別されています。
神戸新聞の9月3日付記事によると、2025年6月の尼崎市議選をめぐる訴訟で、神戸地裁が同党と党員2人に計約76万円の支払いを命じました。立花氏については、破産手続き開始決定に伴い訴訟が中断し、別に期日が設けられるとされています。同記事は、立花氏らが暴行容疑で2025年12月に起訴猶予となったことも伝えています。
金額の表示には注意が必要でした。検索結果の一部には「約66万円」という古い表示が残っていましたが、9月5日に再確認した神戸新聞の直接ページは、見出しと本文の双方が「計約76万円」でした。本稿は直接ページの現行表示と動画内の新聞画面が一致する76万円を採用します。判決書を確認できていないため、公開直前にも直接ページを再確認します。
ここで扱っているのは、報道で確認できた範囲です。判決書全文を入手しておらず、控訴の有無や確定状況も確認できていません。したがって、判決が確定したという前提で話を進めることはできません。
また、民事の支払い命令を刑事の有罪判決と言い換えたり、手続きが分かれている人まで同じ賠償命令の対象に含めたりすると、記事の意味が変わります。まず、誰について、どの手続きで、何が判断されたのかを分けて読みます。
出来事を時系列で見る
この件は、刑事と民事の動きが別々に進んでいます。報道で追える範囲を並べると、次のようになります。
| 時期 | 報道・手続き |
|---|---|
| 2025年6月 | 尼崎市議選の街頭演説会場で、男性を「私人逮捕」したとされる出来事が起きた |
| 2025年11月28日付 | 兵庫県警が立花氏らを書類送検。神戸新聞が12月1日に報道 |
| 2025年12月 | 立花氏らについて起訴猶予となったと、今回の判決記事が報道 |
| 2026年9月3日 | 神戸地裁が党と党員2人に計約76万円の支払いを命じたと神戸新聞が報道。立花氏の手続きは中断中 |
この並びから分かるのは、捜査機関への送致、検察官の不起訴処分、民事裁判の判断が、それぞれ別の段階だということです。前の段階だけを見て、その後の法的評価を先回りしてはいけません。
日本ファクトチェックセンターは、この出来事の前後に広がった「ヤジを3回飛ばせば公職選挙法違反になる」との趣旨の説明を検証し、その回数を定めた規定は確認できないと指摘しています。これは第三者機関による検証であり、今回の民事判決そのものではありません。とはいえ、逮捕の根拠を考える際に、法律の条文と発信者の説明を区別する必要があることを示す材料です。日本ファクトチェックセンターの検証
私人逮捕は、名乗れば成立する制度ではない
一般人による逮捕にも、刑事訴訟法の現行犯逮捕の条件があります。
刑事訴訟法212条・213条は、現に犯罪を行っている人や行い終えた人などを対象に、誰でも逮捕状なしで逮捕できると定めています。212条2項には、犯行直後であることが明らかな一定の場合を現行犯人とみなす規定もあります。
つまり、相手を問題人物だと思ったことや、「私人逮捕する」と宣言したことだけで、その相手が法の定める現行犯人になるわけではありません。問題にしている行為が犯罪に当たるのか、現行犯逮捕の条件に合うのかを分ける必要があります。
同法214条は、一般人が現行犯人を逮捕したときは、直ちに検察官や司法警察職員へ引き渡す義務を定めています。逮捕した側に、独自に処罰する権限を与える仕組みではありません。なお、軽い罪については217条に追加の制限があります。
この一般論だけから、あらゆる演説への抗議が適法だとも、すべて選挙妨害だとも言えません。個別の場面で何が起きたかを抜きに、立場や呼び名だけで結論を出すべきではない、ということです。
不起訴は「適法と認められた」と同じではない
不起訴には複数の理由があり、起訴猶予もその一つです。
裁判所の手続案内は、嫌疑がない・十分でない場合だけでなく、嫌疑が十分でも、年齢、境遇、犯罪の軽重、犯罪後の事情などから起訴しない場合があると説明しています。この後者が起訴猶予です。刑事訴訟法248条に根拠があります。
そのため、「不起訴だった」という結果だけで、問題の行為がなかった、あるいは適法だったとは判断できません。不起訴の理由が公表されているのかを確かめる必要があります。
逆方向の飛躍にも注意が必要です。起訴猶予という処分を、刑事裁判で有罪が確定したことと同じに扱うこともできません。検察官の処分と、裁判所の判決は、判断する主体も手続きも違います。
「不起訴だから全面的に正しかった」「問題が指摘されたから有罪だ」。どちらも、実際の手続きが示している範囲を超えます。
民事裁判は、損害を賠償する責任を扱う
民事の損害賠償では、権利侵害によって生じた損害を誰が負担するかが問われます。
民法709条は、故意や過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害し、損害を生じさせた場合の賠償責任を定めています。これは、国が刑罰を求める刑事手続きとは役割が異なります。

図:刑事と民事が扱う問いの違い。個別事件の結論を示すものではありません。出典:刑事訴訟法248条、民法709条、裁判所の手続案内。2026年9月5日再確認。
両者の役割を踏まえれば、不起訴と賠償命令が並ぶこと自体を「矛盾」と決めつけることはできません。同時に、この説明は、どんな事件でも民事で必ず勝てるという意味ではありません。請求内容と証拠に基づき、それぞれの裁判で判断されます。
カネさんは動画で、「私人逮捕」という説明や拘束の仕方に疑問を呈しました。この記事で伝えたいのは、強い法律用語を使った人が正しいとは限らない、という点です。主張した内容と、その後の公的な判断を丁寧に読み分けることが、評価の出発点になります。
よくある質問
Q1.一般人が現行犯人を逮捕することはできますか。
刑事訴訟法213条に規定があります。ただし、212条の条件や217条の制限などを無視してよいわけではありません。逮捕後の引き渡しについては214条が定めています。
Q2.不起訴なら、損害賠償を求めることもできませんか。
不起訴だけを理由に、民事の責任が自動的に消えるわけではありません。民事では権利侵害や損害などを別に判断します。請求が認められるかは、個別の事実と証拠によります。
Q3.今回の報道は、立花氏への刑事の有罪判決を伝えたものですか。
いいえ。本稿で扱ったのは民事の賠償命令報道です。立花氏本人の訴訟手続きとも区別されており、別事件の刑事手続きと混同しないことが必要です。
まとめ
ニュースの中で「逮捕」「不起訴」「賠償命令」という言葉を見たら、同じ意味として扱わず、対象者と手続き、判断の段階を確認してください。今回の報道も、判決の対象と未確認の確定状況を分けて読むことで、法律用語による印象に引っ張られにくくなります。
日々の政治・法制度のニュースは、政経プラスチャンネルでも取り上げています。
参照資料
- 神戸新聞NEXT・尼崎市議選の私人逮捕をめぐる賠償命令報道(2026年9月3日)
- 神戸新聞NEXT・立花氏らの書類送検報道(2025年12月1日、11月28日付送検)
- 日本ファクトチェックセンター・「ヤジ3回で違反」説明の検証
- e-Gov法令検索・刑事訴訟法(212〜214条、217条、248条)
- e-Gov法令検索・民法(709条)
- 裁判所・検察官による起訴・不起訴の決定
- カネさんの2026年9月4日収録動画・精密修正版SRT(主に0分46秒〜2分53秒)
共同制作:カネさん × ChatGPT(GPT-5.6-sol/推論設定 xhigh)。動画の論点を基に、資料照合・制度説明・文章化を行いました。

