立花孝志被告の発信をめぐっては、「県議から聞いた」「秘密の文書をもらった」という説明が繰り返されてきました。
では、その情報源は実際に誰だったのでしょうか。
公開資料で確認できるのは、少なくとも二つの別経路です。
一つは、竹内英明元県議を「黒幕」などとする内容を含んだ、作成者と真偽が確認されていない文書。もう一つは、兵庫県議会の百条委員会で非公開とされた証人尋問の音声データです。
兵庫県議会は2025年6月、この二つについて問責決議を可決しました。決議では、当時の岸口みのる県議が文書の提供に関わり、増山誠県議が許可なく録音した音声データを立花氏へ提供したと認定されています。
ただし、ここから先は慎重に分けなければなりません。
県議が情報を渡した事実と、渡された内容が真実だったかは別問題です。また、立花被告が現在起訴されている竹内元県議への名誉毀損事件について、起訴対象となった6件すべての情報源が公開されているわけでもありません。
この記事では、確認された情報提供、当事者の主張、今も分からないことを分けて整理します。
結論|「情報源」は一人ではなく、二つの提供経路が確認されている
まず、公開資料から確認できる内容を表にすると、次のようになります。
| 提供されたもの | 提供に関わったと公式決議で認定された県議 | 確認できること | 確認できないこと |
|---|---|---|---|
| 竹内元県議を「黒幕」などと記した文書 | 岸口みのる県議 | 民間人とともに立花氏と面会し、内容を事前に知りながら真偽不明の文書を手渡したと県議会が認定 | 文書の作成者、各記載の根拠、片山安孝元副知事の関与 |
| 百条委員会の非公開証人尋問の音声データ | 増山誠県議 | 委員として秘密会に同意しながら許可なく録音し、立花氏へ提供したと県議会が認定 | 音声内の発言が、そのまま事実として裏付けられたか |
この二つは混同されがちですが、文書と音声は別の資料で、提供経路も別です。
そして、県議や百条委員という肩書のある人物から渡された資料であっても、その内容が自動的に事実になるわけではありません。
2024年10月31日|増山県議から非公開音声が渡ったとされる
日本維新の会の調査内容を報じたFNNによると、増山県議は2024年10月31日、立花氏に自ら電話し、カラオケボックスで面会しました。その場で、百条委員会の非公開証人尋問を録音した音声をLINEで送り、自身の備忘録も渡したと説明しています。
増山県議は、斎藤元彦知事への批判的な報道が続く中、「真実を世間に知らせることが公益に資する」と考えたという趣旨を党の聞き取りに述べています。
しかし、兵庫県議会の問責決議は、増山県議自身が秘密会とすることに同意していたこと、許可なく録音したこと、音声に個人のプライバシーに関する発言が含まれていたことを指摘しています。そのうえで、データが広く拡散、悪用され、知事選期間中の混乱を招いたと認定しました。
公益目的を本人が掲げたことと、秘密会の情報を外部へ渡す行為が許されることは同じではありません。
2024年11月1日|「黒幕」と書かれた文書が立花氏に渡った
もう一つの経路が、竹内元県議について「黒幕」「主犯格」などと記した文書です。
TBS「報道特集」によると、立花氏は2024年11月1日、YouTubeで「秘密の文書をもらってきた」と発信しました。11月5日には文書の一部を黒塗りにして公開しています。
文書には、竹内元県議について「マスコミに一方的な情報のリーク」「黒幕(主犯格)は竹内」などとする記載があったと報じられています。元西播磨県民局長の私生活に関する記述も含まれていました。
立花氏は当初、「片山元副知事が会いたがっている」との連絡を受けてホテルへ行ったところ、岸口県議がいたと説明しました。立花氏と同席した市議も、岸口県議から文書を直接手渡されたと証言しています。
一方、岸口県議は2025年2月のTBS取材に、自分は文書を渡していないと否定しました。両者の説明は食い違っていました。
その後、日本維新の会の調査は、岸口県議が民間人と立花氏に面会し、民間人または岸口県議から文書が手渡された事実を認定。さらに兵庫県議会は6月の問責決議で、岸口県議が文書の内容を事前に知りながら手渡したと、より明確に記載しました。
ただし、県議会決議も、文書の中身を真実とは認定していません。決議が使った表現は「真偽不明の文書」です。
文書はYouTubeで公開され、発信の根拠として使われた
情報は、県議から立花氏へ渡っただけでは終わりませんでした。
文書の入手はYouTubeで公表され、一部が画面に示されました。そこから街頭演説、動画の切り抜き、SNS投稿、第三者の再投稿へと広がりました。
流れを単純化すると、次のようになります。
県議会内部の情報・真偽不明文書
↓
選挙候補者だった立花氏へ提供
↓
YouTube・街頭演説で発信
↓
切り抜き・SNS投稿で再拡散
↓
「県議から得た情報」として事実らしさが補強される
ここで生じたのが、「情報源が県議なら内容も正しいはずだ」という錯覚です。
実際には、情報源が特定できることと、情報の真実性が確認できることは別です。文書の作成者、作成日、根拠資料、反対当事者への確認が欠けたままなら、肩書のある提供者がいても裏付けにはなりません。
県議会と政党は、提供行為そのものを問題にした
兵庫維新の会は2025年2月、岸口県議を除名、増山県議を離党勧告としました。
県議会でも同年6月12日、両氏に対する問責決議が賛成多数で可決されました。
岸口県議については、百条委員会副委員長という立場で、委員を誹謗中傷する内容を含む真偽不明文書を渡し、知事選と委員会運営に影響を及ぼしたと指摘。増山県議については、秘密会の音声を許可なく録音して提供し、プライバシー情報を含むデータが拡散・悪用されたと指摘しています。
問責決議には議員を辞職させる法的拘束力はありません。それでも、情報提供を単なる「内部告発」や「個人的な助言」として片づけず、議会への信頼を損なった政治的・道義的責任として、県議会が公式に記録した意味は小さくありません。
立花被告の起訴事件と、二つの情報提供は同じではない
立花被告は現在、竹内元県議の生前と死後に行った計6件の発言・投稿をめぐり、名誉毀損罪で起訴されています。
一方、この記事で扱った文書と音声の提供は、2024年10月末から11月初めの出来事です。起訴対象として報じられている発言には、同年12月の「警察の取り調べを受けている」という趣旨の発言や、竹内氏の死後に発信した「逮捕される予定だった」という趣旨の投稿などが含まれます。
公開されている起訴報道だけでは、この二つの資料が起訴対象6件のそれぞれに、どこまで使われたのかは確認できません。特に「警察の取り調べ」「逮捕予定」という情報を、立花被告が誰から得たと説明するのかは、現時点の公開資料では明らかではありません。
したがって、岸口・増山両県議が、起訴対象となった全発言の情報源だったと断定することはできません。
裁判で見るべきなのは、発言ごとの情報源、入手時期、裏付け確認、発信時の認識です。
「人から聞いた」は、確認を省く理由にならない
政治家や内部関係者から情報を得ること自体は、報道や政治活動で珍しいことではありません。問題は、受け取った後に何をしたかです。
発信前に確認したいのは、次の5点です。
- 文書の作成者と作成日は確認できるか
- 記載内容を裏付ける一次資料はあるか
- 別の独立した情報源で確認したか
- 名指しされた本人に反論や説明の機会を与えたか
- 公的機関が否定した後、訂正・削除・再確認を行ったか
「県議からもらった」「関係者から聞いた」は、情報の出所を示す説明にはなります。しかし、それだけで内容が真実だったことや、拡散するだけの合理的な根拠があったことまでは証明できません。
今も確認できない四つの点
この情報提供問題には、公開資料だけでは埋まらない部分が残っています。
- 竹内元県議を「黒幕」などと記した文書を、最初に作成した人物
- 文書の各記載が、何を根拠に書かれたのか
- 片山元副知事が文書の作成・提供や面会設定に関与したのか
- 起訴対象6件の発言ごとに、立花被告が誰を情報源として挙げるのか
この四点は、分からないままです。
だからこそ、「県議から情報が渡ったことは確認された」と「発信内容の真実性は確認された」を一つにしてはいけません。
まとめ|問うべきは、誰が渡したかだけではなく、誰が確かめたか
立花孝志被告の発信をめぐる情報提供は、一人の匿名情報源だけで起きたものではありません。
- 岸口みのる県議が関わった、竹内元県議を「黒幕」などとする真偽不明文書
- 増山誠県議が提供した、百条委員会の非公開証人尋問の音声データ
- それらがYouTube、街頭演説、SNSを通じて拡散した経路
この三段階は、県議会の決議や報道で相当部分まで確認できます。
一方、文書の作成者、記載の根拠、後の「逮捕予定」情報の出所、起訴された6件との個別の関係は、まだ公表資料だけでは確認できません。
この事件から見えるのは、情報源の肩書が大きいほど、受け手の確認責任も重くなるということです。
「誰から聞いたか」は出発点にすぎません。公開前に何を確かめたのか、反証が出た後にどう対応したのか。そこまで見なければ、政治情報が事実として成立した過程は検証できません。
よくある質問
県議から渡された情報なら、真実だと考えてよいですか?
いいえ。情報源の立場と、情報内容の真実性は別です。今回の県議会決議も、岸口県議が関わった資料を「真偽不明の文書」と表現しています。作成者、根拠資料、独立した裏付けを別に確認しなければなりません。
岸口・増山両県議が、起訴された6件すべての情報源ですか?
公開資料からは確認できません。両県議による文書・音声の提供は確認されていますが、その後の「警察の取り調べ」「逮捕予定」などの発言を立花被告が誰から得たと説明するのかは明らかになっていません。
非公開音声が本物なら、音声内の話も事実ではないのですか?
音声が実際の証人尋問を録音したものでも、その中に含まれる個々の発言がすべて客観的事実だとは限りません。証言や伝聞は、他の資料や証言と照合して評価されます。録音の真正性と、発言内容の真実性は分けて考える必要があります。
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確認資料・参考リンク
- 兵庫県議会|岸口みのる議員に対する問責決議
- 兵庫県議会|増山誠議員に対する問責決議
- FNNプライムオンライン|維新県議による文書・音声データ提供の党調査
- カンテレ|岸口県議を除名、増山県議を離党勧告とした処分
- TBS NEWS DIG「報道特集」|立花氏の発信「情報源」文書の検証
- 神戸新聞|立花孝志被告を名誉毀損罪で起訴、生前・死後の計6件
- 兵庫県警の説明を報じた神戸新聞|取り調べ・逮捕予定との発信を「事実無根」と否定
※この記事は2026年7月23日時点の県議会決議、政党の調査に関する報道、起訴報道を基にしています。立花被告の有罪・無罪は確定していません。問責決議と政党処分は刑事裁判の事実認定ではなく、起訴内容は検察側の主張です。
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保釈判断、初公判までの流れ、死者への名誉毀損、情報拡散の経緯は、次の記事で続けて確認できます。


