医療費はまた上がる?2026年8月「高額療養費」見直しで変わる上限額と年間上限

高額療養費制度を示す病院窓口と年間上限のイメージ 経済・暮らし

2022年に公開した政経プラスチャンネルの動画では、75歳以上の一部で、病院窓口の負担が1割から2割になる制度変更を取り上げました。見出しとしては「医療費2倍」ですが、正確には、一定所得以上の後期高齢者について窓口で払う割合が1割から2割になるという変更でした。

いま、次の制度変更が近づいています。2026年8月から予定されているのは、窓口負担割合を一律に倍にする話ではありません。高額な治療を受けたときに一カ月の自己負担を抑える高額療養費制度の上限額を、所得に応じて見直すものです。

月ごとの上限が上がる人がいる一方、長期治療を受ける人のために年単位の上限も新設されます。「負担増」だけでも「救済」だけでも制度の実像はつかめません。誰の、どの負担が変わるのかを分けて見ます。

▼前回の動画
75歳以上の後期高齢者は22年10月から医療費2倍!対象になる人は?

2026年8月の高額療養費制度見直しの3つのポイント
単月の上限は上がる一方、年間上限が新設され、多数回該当は据え置かれます(政経プラス作成)

図表で見る医療費制度の時系列

時期 何が変わる・検討されるのか 現在の位置づけ
2022年10月 75歳以上の一定所得者の窓口負担を1割から2割へ 実施済み
2026年8月 高額療養費の月額上限を引上げ、年間上限を新設 実施予定
2027年8月 高額療養費の所得区分をさらに細分化 実施予定
2027年度予算編成 高齢者の窓口負担、3割負担となる所得基準などを検討 検討段階

大切なのは、2022年の「1割から2割」と、2026年の「高額療養費の上限引上げ」は別の制度変更だという点です。さらに、2027年度予算編成で検討される高齢者の窓口負担も、現時点で全員3割と決まったわけではありません。

今回変わるのは「3割・2割・1割」ではない

医療保険では、診察や薬の費用のうち、患者が窓口で払う割合が年齢や所得によって1割、2割、3割などに決まります。しかし、それとは別に、高額な医療が続いたときの家計を守る仕組みが高額療養費です。

保険診療の自己負担が一カ月の上限を超えた場合、超えた分が支給されます。2026年5月29日に成立した医療保険制度改正法に基づき、この月額上限を医療費の伸びと所得に応じて見直し、同時に「年間上限」を設けることになりました。

つまり、今回の焦点は「窓口で払う割合」ではなく、一カ月・一年を通じて最終的に負担する額の上限です。75歳以上だけの制度変更でもありません。会社員の健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療の加入者に関わる仕組みです。

月額上限はどう上がるのか

厚生労働省が示した2026年8月からの所得区分を、現行制度と比較します。月額上限は、同じ月に保険診療を受けた場合の自己負担の上限です。

年収目安別・2026年8月からの上限額

年収目安別に見た高額療養費の月額上限と年間上限
年収は目安です。実際の区分は標準報酬月額や課税所得などで判定されます(政経プラス作成)
年収の目安・所得区分 現行の月額上限 2026年8月から 月額の増加幅 新しい年間上限
約1,160万円以上 25万2,600円+1% 27万300円+1% 定額部分+1万7,700円 168万円
約770万~1,160万円 16万7,400円+1% 17万9,100円+1% 定額部分+1万1,700円 111万円
約370万~770万円 8万100円+1% 8万5,800円+1% 定額部分+5,700円 53万円
約370万円以下の課税世帯 5万7,600円 6万1,500円 +3,900円 53万円※
住民税非課税・70歳未満 3万5,400円 3万6,900円 +1,500円 29万円
住民税非課税・70歳以上 2万4,600円 2万5,700円 +1,100円 29万円
住民税非課税で所得が一定以下・70歳以上 1万5,000円 1万5,700円 +700円 18万円

※年収約200万円以下の課税世帯に該当することが確認できた人には、年間41万円の上限を適用し、2027年8月以降に差額を払い戻す予定です。

表の「+1%」は、保険診療の総医療費が区分ごとの基準額を超えた部分の1%を加えるという意味です。患者が窓口で払う3割分に、さらに1%を上乗せするわけではありません。

ここでいう年収は、制度を理解するための概算です。実際の区分判定は、会社員などの健康保険では標準報酬月額、国民健康保険では旧ただし書所得または課税所得、後期高齢者医療では課税所得などを使います。同じ年収でも、加入制度や世帯構成によって区分が異なることがあります。

医療費100万円なら、窓口負担はいくら残るのか

70歳未満・3割負担で、年収約370万~770万円の人が、一カ月に総額100万円の保険診療を受けた場合で比べます。

計算段階 現行 2026年8月から
病院窓口での3割負担 30万円 30万円
高額療養費適用後の最終負担 8万7,430円 9万2,940円
現行との差 +5,510円

2026年8月からの計算は「8万5,800円+(100万円-28万6,000円)×1%」です。いったん30万円を支払う場合でも、限度額適用の仕組みや後日の払い戻しによって、保険診療分の最終負担は9万2,940円になります。

70歳以上で年収約370万円以下の人には、外来だけに適用する個人上限もあります。現行の月1万8,000円から、2026年8月には月2万2,000円へ上がる予定です。ただし、外来分には年21万6,000円の上限が設けられます。住民税非課税の70歳以上では月8,000円から1万1,000円へ上がりますが、年間上限は9万6,000円で、毎月上限まで負担する人の年間総額が増えない設計です。

数字だけを見ると、上限額は上がります。高額療養費に一度だけ該当する人、あるいは治療が年内に数回で終わる人は、従来より多く負担する場合があります。ここは「年間上限ができたから全員の負担が下がる」とは言えません。

図解|窓口負担から年間上限までの流れ

① 医療機関・薬局の窓口
年齢や所得に応じて、保険診療費の1割・2割・3割を支払います。

② 一カ月分を集計
同じ月の対象となる自己負担を、世帯合算などのルールに沿って集計します。

③ 月額上限を適用
所得区分ごとの上限を超えた分が、高額療養費として支給されます。

④ 直近12カ月で4回目以降なら「多数回該当」
例:年収約370万~770万円は、4回目以降の上限が4万4,400円です。

⑤ 2026年8月から「年間上限」
8月から翌年7月までの自己負担を合計し、年間上限を超えた後は、それ以上の対象医療費を負担しません。

新設される「年間上限」は誰を守るのか

一方で、今回の見直しには、年単位の上限という重要な変更があります。

これまでの高額療養費は基本的に月単位でした。がん、難病、透析などで高額な治療が長期化し、月ごとの上限に何度も達する人は、月が替わるたびに負担が積み上がります。

2026年8月以降は、月ごとの対象となる自己負担を一年間で合計し、所得区分ごとの年間上限を超えた後は、それ以上の対象医療費を負担しない仕組みが導入される予定です。年収約770万円以下の課税世帯なら基本は年間53万円、住民税非課税の70歳未満または70歳以上なら年間29万円が上限です。年収約200万円以下の課税世帯は、確認後に年間41万円が適用される予定です。

厚生労働省が示した年収約370万~770万円のモデルでは、これまで多数回該当に届かなかった長期療養者の年間負担が57万3,000円から53万円へ、別の高額治療の例では76万7,000円から53万円へ下がります。つまり、単月では上限が上がっても、治療が長く続く場合には年間上限によって負担が下がるケースがあります。

また、直近12カ月で高額療養費に4回以上該当した場合に上限が下がる「多数回該当」は維持されます。たとえば年収約370万~770万円の区分では4回目以降の月額上限は4万4,400円です。

ここで注意が必要です。年間上限と多数回該当は、どちらも長期療養者の負担を抑える仕組みですが、同じものではありません。自分にどちらが適用されるかは、治療の時期、世帯・所得区分、保険者によって変わります。個別の支払額を記事中の簡易計算だけで断定することはできません。

なぜ見直すのか――政府が示す理由と、残る論点

政府は、高齢化や高額な薬剤の普及で医療費が増えるなか、高額療養費制度を将来にわたり維持するための見直しだと説明しています。厚生労働省は、2026年8月施行分で実効給付率が約0.22%低下し、機械的な試算では給付費が約850億円減るとしています。

一方、必要な受診まで控えられないかは、制度を評価する上で外せません。高額療養費は、病気になった後の家計を守る最後の安全網です。月額上限を上げるなら、年間上限や多数回該当だけで、本当に治療継続が必要な人を守れるのかが問われます。

政府側も、年間上限によって負担が下がる人がいるため、上限引上げの影響を受ける人数を単純には示せないと説明しています。だからこそ、「制度全体で何百億円削減できるか」だけでなく、所得区分ごとに、何回の治療で、年いくら変わるのかを公表し続ける必要があります。

2027年以降に検討される「3割負担」論とは分けて考える

今回の2026年8月改定と、今後議論される高齢者の窓口負担は混同しやすい論点です。

政府の2026年度予算資料では、高齢者医療の窓口負担割合について、2027年度予算編成の過程で具体的な制度設計を検討し、結論を得るとしています。そこでは、外来特例の対象年齢や、自己負担を3割とする「現役並み所得者」の判断基準も検討対象です。

これは、直ちに「75歳以上が全員3割になる」と決まったという意味ではありません。反対に、「議論中だから関係ない」とも言えません。医療費の負担は、窓口の1割・2割・3割、月額上限、年間上限、保険料、薬の給付範囲が重なって決まります。一つの見出しだけを追うと、どこがすでに決まり、どこが検討段階かが見えなくなります。

自分の負担を確認する3つの手順

制度変更の影響は、年齢だけでは判断できません。確認する順番は次の三つです。

  1. 加入している保険を確認する。会社員は協会けんぽ・健康保険組合、自営業や退職後は国民健康保険、75歳以上は後期高齢者医療が基本です。
  2. 所得区分を確認する。年収目安ではなく、保険者から届く限度額適用認定や資格情報、自治体・保険者の案内を確認します。
  3. 過去12カ月の高額療養費該当回数と、外来・入院の別を確認する。多数回該当や外来特例が関係するためです。

受診や服薬を自己判断でやめることは避け、支払いに不安があれば、治療中の医療機関の相談窓口、加入する保険者、自治体の窓口に早めに相談してください。高額療養費の対象外になる差額ベッド代、食事代、先進医療の費用などもあるため、治療費全体と制度上の上限は同じではありません。

まとめ

  • 2026年8月から予定されるのは、窓口負担割合を一律に倍にする変更ではなく、高額療養費の月額上限の見直しです。
  • 所得区分ごとに月額上限は上がる予定で、一度・短期間の高額治療では負担が増える場合があります。
  • 同時に年間上限が新設され、長期療養で月額上限が何度も積み上がる場合に負担が軽くなるケースがあります。
  • 「75歳以上の3割負担」は今回の確定した改定とは別に、2027年度予算編成過程での検討課題です。

「医療費2倍」という言葉は、何の負担が、誰に、いつから変わるのかを隠してしまいます。窓口負担の割合なのか、高額療養費の月額上限なのか、保険料なのか。制度ごとに分けて確認することが、煽りではなく家計を守る第一歩になります。

出典・確認資料

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