自治体病院の赤字は税金で補う?繰入金と不採算医療をやさしく図解

自治体病院の決算で「赤字」「一般会計から10億円を繰入れ」と聞くと、経営の失敗を税金で穴埋めしているように見えるかもしれません。

しかし、一般会計から病院事業へ入るお金には、救急やへき地医療など、料金に当たる診療収入だけで負担することが適当でない経費への負担もあります。一方、公共的な役割があるからといって、全ての赤字や繰入額が自動的に妥当になるわけでもありません。

まず、どこからお金が入り、何に使われるかを分けて見ましょう。

自治体病院の主なお金の入り口。患者負担と保険からの支払いによる診療収入、救急やへき地などの公的役割に対する一般会計の負担、国・都道府県の補助金など、施設や医療機器に使い後で返済する企業債が、病院事業会計に入る。図の大きさは金額の割合を示さない。

図1:自治体病院の主なお金の入り口。出典:地方公営企業法第17条の2・第17条の3大阪府「地方公営企業」厚生労働省「公立病院の特性について」を基に独自作成。確認日:2026年9月5日。全ての収入を網羅した図ではなく、矢印やカードの大きさは金額の割合を表しません。

1.自治体病院も独立採算が基本なの?

自治体が地方公営企業として経営する病院は、病院事業会計という特別な会計を設けます。入院や外来などの診療収入を中心に経費をまかなう独立採算が基本です。

ただし、地方公営企業法第17条の2は、事業収入で負担することが適当でない経費や、効率的に経営しても事業収入だけで負担することが客観的に難しい経費を、一般会計などが負担する仕組みを定めています。災害復旧など特別の理由がある場合の補助については、第17条の3に規定があります。e-Gov法令検索「地方公営企業法」

一般会計は、住民税などの税金だけでなく、地方交付税なども扱う自治体の中心的な会計です。一般会計から病院事業会計へ負担金、補助金、出資金などを移すことを、まとめて「繰出し」、病院側から見て「繰入れ」と呼ぶことがあります。

総務省は毎年度、一般会計が負担する経費の考え方を「繰出基準」として自治体へ通知します。その一部は地方交付税の算定で考慮されます。ただし、これは国が病院へ同じ金額を直接振り込む制度という意味ではありません。大阪府「地方公営企業繰出金」

一般会計を支える地方税・地方交付税・国庫支出金などの違いは、自治体の財源を詳しく解説した記事で確認できます。

2.不採算医療とは、どんな医療?

不採算医療とは、地域に必要でも、診療収入だけでは必要な費用をまかないにくい医療を指すときに使われる言葉です。「役に立たない医療」という意味ではありません。

厚生労働省の資料では、公立病院が担う分野の例として、離島・山間地などのへき地医療、救急、小児、周産期、精神、結核、感染症、高度・先進医療、医師派遣や人材育成などが挙げられています。厚生労働省「公立病院の特性について」

救急では、いつ患者が来ても対応できるよう、人員や設備を確保する必要があります。患者が少ない時間帯にも費用がかかるため、一件ごとの診療収入だけでは維持しにくい場合があります。へき地の病院も、人口が少なくても一定の診療体制を残す役割があります。

もっとも、救急や小児科という名称だけで、全ての費用が公費負担になるわけではありません。どの機能に、どの計算方法で、いくら繰り出したのかを確認します。

3.繰入金があれば「赤字の穴埋め」なの?

繰入金があるという事実だけでは、赤字の穴埋めかどうかは判断できません。法令や繰出基準に基づく公共的な経費の負担と、経営悪化に対する追加支援を分ける必要があります。

市立旭川病院は、地方公営企業法と総務省通知に基づいて一般会計繰入金の算定要領を定め、決算書とともに公開しています。市立旭川病院「経営情報」

読むときは、まず繰入金の内訳を見ます。救急医療、へき地医療、建物や医療機器の整備など、何の経費に対する負担なのか。国の基準に沿うものか、自治体独自の支援か。予算額ではなく、決算で実際にいくら入ったのかを確認します。

「基準外」という表示があっても、直ちに違法や無駄という意味ではありません。自治体独自の政策や特別の事情が説明されている場合があります。ただし、根拠、期間、改善計画、一般会計への影響は、基準内の負担とは分けて示す必要があります。

鳥取県は外部委員による県立病院運営評議会を設け、繰出金が適正に使われたか、県立病院の役割を果たしているかを検証しています。鳥取県「県立病院運営評議会」

4.病院の「赤字」は、どの数字のこと?

病院の赤字を読むときは、対象となる収益・費用と期間をそろえます。

自治体病院で混同しやすい四つの数字。医業損失は本業の収益より医業費用が多い状態、当年度純損失はその年の総収益より総費用が多い状態、累積欠損金は過去からの損失の積み重ね、資金不足比率は制度上の資金不足を事業規模で割った割合。四つは同じ意味や同じ金額ではない。

図2:病院の「赤字」と呼ばれやすい四つの数字。出典:静岡県「地方公営企業会計決算の状況」広島県の地方公営企業決算資料群馬県「資金不足比率」を基に独自作成。確認日:2026年9月5日。会計処理や制度上の調整を省略した概念図で、四つを段階や因果関係として並べたものではありません。

医業損失は、診療など本業に当たる医業収益と医業費用を比べた数字です。当年度純損失は、医業外の収益・費用や特別損益なども含め、その年度全体で収益より費用が多かった額です。一般会計からの負担が収益に含まれる場合があるため、純損失がないことと、公費負担がないことは同じではありません。

累積欠損金は、過去の年度から積み上がった損失です。その年が黒字でも、過去の欠損がすぐ全て消えるとは限りません。広島県の用語説明

資金不足比率は、制度上の資金不足額を事業規模と比べた指標です。損益計算上の赤字をそのまま割る数字ではありません。群馬県「資金不足比率」

5.自治体病院の経営は、どの資料で確かめる?

赤字額だけでなく、病院が担う役割と、その役割にかかった費用、一般会計の負担、改善状況をセットで読みます。

見る内容 確認したいこと 主な公式資料
地域での役割 救急、へき地、小児、周産期、感染症など何を担うか 公立病院経営強化プラン
診療の実績 入院・外来患者、救急受入れ、病床利用、手術など 業務報告、病院年報
その年の損益 医業収支、経常収支、純損益がどう違うか 損益計算書、決算概要
一般会計の負担 項目、算定根拠、基準内・基準外、予算と決算 繰入金算定要領、決算書
現金と負債 手元資金、未払金、企業債、返済予定、資金不足 貸借対照表、資金計画
改善の進み方 数値目標、実績、未達理由、翌年度の対応 経営強化プラン点検結果

表:自治体病院の財政を読む六つの視点。病院の規模や役割が違うため、患者数や赤字額だけの単純な順位付けは避けます。同じ病院の経年変化と、計画で示した目標との差を確認します。

公立病院経営強化プランは、役割・機能、医師や看護師の確保、施設・設備、経営指標などを確認する入口です。国の資料では、プランの実施状況をおおむね年1回以上点検・評価し、結果を公表する枠組みが示されています。厚生労働省「公立病院経営強化の推進」

自治体全体の財政資料を探す方法は、決算カード・財政状況資料集の読み方も参考にしてください。

一般会計の予算が決まる手続きや、議会・住民の関わり方は、自治体の予算は誰が決める?首長・議会・住民の役割を解説で確認できます。

よくある疑問

一般会計から繰入れがある病院は、経営に失敗しているの?

繰入れがあるだけでは判断できません。救急やへき地医療など、一般会計が負担する仕組みの経費があります。項目別の金額と根拠を見たうえで、追加支援や経営改善の必要性を分けて考えます。

当年度が黒字なら、病院経営は安心?

黒字の中に一般会計負担や一時的な補助金が含まれる場合があります。累積欠損金、手元資金、企業債、施設更新、医師・看護師の確保も確認しなければ、将来の継続性は判断できません。

公共的な役割があれば、税金をいくら入れてもよい?

いいえ。どの役割に必要な経費か、金額をどう計算したか、実際に役割を果たしたか、他の方法と比べたかを説明する必要があります。病院側だけでなく、一般会計への負担も確認します。

まとめ:病院の役割と会計上の数字を分けて読む

  • 自治体病院は診療収入が基本ですが、公共的な役割には一般会計の負担があります。
  • 繰入金は全て同じ性質ではなく、項目、根拠、基準、決算額を確認します。
  • 医業損失、当年度純損失、累積欠損金、資金不足比率は別の数字です。
  • 公共的な役割と経営改善の両方を、計画と実績で確かめます。

「赤字だから不要」「公立だから赤字でも仕方ない」のどちらかで決めず、地域で担う医療と、その費用を誰がどの根拠で負担しているかを見ましょう。

制度・資料の確認日:2026年9月5日。この記事は主に地方公営企業として運営される自治体病院の基本を扱います。地方独立行政法人、指定管理者制度など、運営形態が異なる病院では会計や公費負担の表示方法が異なる場合があります。図解はAIを活用して制作し、ラベルと内容を確認しています。

制作:カネさん+ChatGPT(gpt-5.6-sol/xhigh)

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