元県民局長の私的情報漏えい問題とは|第三者委員会の認定・懲戒処分・書類送検を時系列整理

兵庫県の告発文書問題をめぐっては、告発文書の内容だけでなく、文書を作成した元西播磨県民局長の私的情報が県議らに漏えいした問題も大きな争点となりました。

兵庫県が設置した第三者調査委員会は、元総務部長が元県民局長の私的情報を県議3人に漏らしたと認定。さらに、斎藤元彦知事と片山安孝元副知事の指示によって行われた可能性が高いと判断しました。

その後、元総務部長には停職3カ月の懲戒処分が科され、2026年2月には地方公務員法違反の疑いで書類送検されました。

ただし、刑事手続はそこで終わっていません。2026年3月に神戸地検が関係者3人を不起訴とし、4月にはその判断を不服とする検察審査会への申立てが行われています。

この記事では、第三者委員会の認定、懲戒処分、書類送検、不起訴、その後の検察審査会申立てまでを時系列で整理します。

※2026年7月18日時点の公表情報に基づいています。

この記事のポイント

  • 元総務部長による県議3人への情報漏えいを第三者委員会が認定
  • 委員会は知事・元副知事の指示による可能性が高いと判断
  • 斎藤知事は漏えいの指示を否定
  • 元総務部長には停職3カ月の懲戒処分
  • 2026年2月に地方公務員法違反の疑いで書類送検
  • 2026年3月、元総務部長は起訴猶予、知事と元副知事は嫌疑不十分で不起訴
  • 2026年4月、不起訴処分を不服として検察審査会への申立て
  • 第三者委員会の認定と刑事処分は、目的と判断基準が異なる

二つの情報漏えい問題を混同しない

兵庫県では、元県民局長の私的情報をめぐって二つの情報漏えい問題が調査されました。

一つは、元総務部長が県議に情報を伝えたとされる問題です。この記事で扱うのはこちらです。

もう一つは、県が保有していた情報と同一とみられる内容がインターネット上に流出した問題です。こちらについては別の第三者委員会が調査し、漏えい者は特定できなかったものの、現職の県職員が漏らした可能性が高いと判断しました。

兵庫県も、この二つを別々の第三者委員会で調査しています。したがって、「県議への漏えい」と「インターネット上への漏えい」は分けて考える必要があります。

兵庫県が設置した第三者委員会の全体像は、県の第三者委員会に関する公式ページで確認できます。

県議3人への私的情報の漏えい

第三者委員会の調査によると、当時総務部長だった井ノ本知明氏は、2024年4月19日から22日にかけて、二つの県議会会派に所属する県議3人に対し、元県民局長の私的情報を伝えたと認定されました。

漏えいの方法は、私的情報が記載された資料を印刷して見せ、口頭でも内容を説明するというものでした。

元県民局長の私的情報は、県が回収した公用パソコンなどから把握したものです。本来、職務上知り得た個人情報は、目的外で利用したり、関係のない第三者に伝えたりすることが厳しく制限されます。

第三者委員会は、この行為について正当な職務行為とは認められないと判断しました。

詳しい認定内容は、兵庫県が公開した秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会の調査報告書に記載されています。

第三者委員会が認定した内容

元総務部長による漏えい行為

第三者委員会は関係者約20人から聞き取りを行い、井ノ本元総務部長が県議3人に私的情報を伝えた事実を認定しました。

井ノ本氏は当初、漏えいを否定していましたが、2025年2月の聞き取りで説明を変更。県議に情報を伝えたことを認めたうえで、知事や元副知事から指示を受けた正当な業務だったという趣旨の説明をしています。

しかし、委員会は県議への情報提供を正当な職務行為とは認めませんでした。

知事・元副知事による指示の可能性

第三者委員会は、井ノ本元総務部長による漏えいについて、斎藤知事と片山元副知事の指示によって行われた可能性が高いと判断しました。

委員会は、情報提供の目的について、元県民局長や告発文書の信用性を低下させる狙いがあったと評価しています。

一方、斎藤知事は一貫して漏えいの指示を否定しています。

2025年5月28日の記者会見でも、斎藤知事は「漏えいを指示した事実はない」という立場を示しました。

ここで重要なのは、第三者委員会が「指示があった可能性が高い」と認定したことと、知事が指示を否定していることの両方を区別して記録することです。

第三者委員会の認定は重要な行政上の事実認定ですが、刑事裁判による有罪認定ではありません。

元総務部長への懲戒処分

兵庫県は第三者委員会の報告書を公表した2025年5月27日、井ノ本元総務部長を停職3カ月の懲戒処分としました。

斎藤知事は、懲戒権者として処分を了承したと説明しています。

県はこの時点で、井ノ本氏を刑事告発しない方針を示しました。すでに氏名が公表され、懲戒処分を受けるなど一定の社会的制裁を受けていることなどが理由とされました。

しかし、その後、県議や大学教授らによる刑事告発が別のルートで行われ、警察や検察の捜査へ進みました。

時系列で見る情報漏えい問題

2024年4月19日~22日

井ノ本総務部長が、二つの県議会会派に所属する県議3人に対し、元県民局長の私的情報が記載された資料を見せ、口頭でも説明したと第三者委員会が認定。

2024年10月

兵庫県が「秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会」を設置。

2025年3月31日

第三者委員会が兵庫県に調査報告書を提出。

2025年5月27日

兵庫県が第三者委員会の報告書を公表。同日、井ノ本元総務部長を停職3カ月の懲戒処分としました。

2025年6月10日

上脇博之・神戸学院大学教授が、井ノ本元総務部長、斎藤知事、片山元副知事を地方公務員法違反の疑いで刑事告発。

2025年8月

上脇教授の告発が神戸地検に受理されました。これとは別に、長瀬猛県議が井ノ本元総務部長を告発し、兵庫県警が受理しています。

2026年2月13日

兵庫県警が井ノ本元総務部長を地方公務員法の守秘義務違反の疑いで書類送検。警察は、容疑を認めているかどうかや、起訴を求める意見を付けたかどうかを明らかにしませんでした。

2026年3月27日

神戸地検が関係者3人を不起訴処分としました。

  • 井ノ本元総務部長:起訴猶予
  • 斎藤知事:嫌疑不十分
  • 片山元副知事:嫌疑不十分

井ノ本氏については、検察も正当な根回しの範囲を超えた違法な漏えい行為と判断したと報じられていますが、諸事情を考慮して起訴を見送る起訴猶予となりました。

斎藤知事と片山元副知事については、漏えいを指示したことを刑事事件として立証する証拠が不十分だったと判断されています。

2026年4月14日

上脇教授が不起訴処分を不服として、神戸検察審査会への申立て手続きを開始。

2026年7月18日時点で確認できる公表資料の範囲では、検察審査会の最終的な議決は公表されていません。

書類送検と不起訴の意味

書類送検とは、警察が捜査した事件の書類や証拠を検察に送る手続です。

書類送検されたからといって、有罪が確定したわけではありません。起訴するか不起訴にするかは検察が判断し、有罪か無罪かを最終的に決めるのは裁判所です。

今回、井ノ本元総務部長は起訴猶予となりました。起訴猶予は有罪判決ではなく、裁判所が犯罪を認定したものでもありません。

斎藤知事と片山元副知事については、嫌疑不十分とされています。これは、犯罪への関与を刑事裁判で立証するだけの証拠が十分ではないと検察が判断したことを意味します。

したがって、今回の結果を「第三者委員会の認定がすべて否定された」と理解するのも、「不起訴だが有罪が確定した」と理解するのも正確ではありません。

第三者委員会と刑事捜査で結論が異なる理由

第三者委員会と捜査機関では、調査の目的と判断基準が異なります。

第三者委員会は、県の組織内部で何が起きたのかを調べ、行政上の責任や再発防止策を検討するためのものです。

一方、警察と検察は、特定の人物を刑事責任に問えるだけの証拠があるかを判断します。起訴した場合には、刑事裁判で犯罪を立証しなければなりません。

そのため、第三者委員会が「指示があった可能性が高い」と判断しても、検察が「刑事裁判で立証できる証拠は不十分」と判断することはあり得ます。

行政上の責任、政治上の責任、刑事上の責任は、それぞれ分けて検討する必要があります。

問題の核心は私生活の内容ではない

私は、この問題を元県民局長の私生活の是非として消費すべきではないと考えています。

検証すべきなのは、県が職務上把握した個人情報が、誰の判断によって、誰に、どのような目的で伝えられたのかです。

告発を行った人物の私的情報が、その人物や告発内容の信用性を低下させる目的で利用されれば、将来、不正を知った職員が声を上げることをためらう原因になります。

「告発すれば私生活まで調べられ、外部に広められるかもしれない」という恐怖が生まれれば、公益通報制度は実質的に機能しません。

だからこそ、漏えいした情報の具体的内容を面白半分に拡散するのではなく、情報が扱われた経緯と組織の責任を検証する必要があります。

残された論点

今回の問題には、現在も複数の論点が残されています。

  • 漏えいを誰が発案し、どのような経路で指示したのか
  • 県内部の調査と懲戒処分は十分だったのか
  • 個人情報を扱える職員の範囲は適切だったのか
  • 告発者を特定し、私的情報を調査した一連の対応は妥当だったのか
  • 県議に伝えられた情報が、その後どこまで共有されたのか
  • 検察審査会が不起訴処分をどのように判断するのか
  • 同様の漏えいを防ぐため、県がどのような再発防止策を実施するのか

不起訴によって刑事手続の一段階は終わりましたが、県政上の説明責任や再発防止の問題まで解消されたわけではありません。

よくある質問

斎藤知事が漏えいを指示したと確定したのか

確定していません。

第三者委員会は、知事と元副知事の指示によって行われた可能性が高いと判断しました。一方、斎藤知事は指示を否定しています。

刑事手続では、斎藤知事と片山元副知事は嫌疑不十分で不起訴となりました。

井ノ本元総務部長は有罪になったのか

有罪にはなっていません。

地方公務員法違反の疑いで書類送検されましたが、神戸地検は起訴猶予としました。刑事裁判は開かれておらず、有罪判決もありません。

県議への漏えいとネット上への漏えいは同じ事件か

別の問題として調査されています。

県議への情報提供は井ノ本元総務部長によるものと認定されました。インターネット上への漏えいは、別の第三者委員会が調査しましたが、漏えい者は特定されていません。

不起訴処分は確定しているのか

検察による不起訴処分は出ていますが、上脇教授が検察審査会に申立てを行っています。

検察審査会は、くじで選ばれた11人の市民が不起訴処分の妥当性を審査する制度です。申立てが行われただけで不起訴処分が覆るわけではありません。

一次資料・参考資料

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