記事種別:一次資料検証・論評|公開日:2026年6月12日|最終更新:2026年8月27日
筆者が懸念するのは、知事による刑事告訴が、記者の質問を萎縮させることです。この記事では、6月3日・10日の会見録と報道から経緯を整理し、発言の適否、知事の説明、取材への影響を検討します。
政経プラス公式動画|28分19秒
- 会見映像と議会論戦を動画で確認する
- 事実・主張・分析・未確認事項の区分
- 斎藤元彦知事が菅野完氏を刑事告訴
- 6月3日の会見では、処分を「受け入れた」という説明が問われた
- 不適切な発言と犯罪の成立は別の問題
- 刑事告訴が記者の質問を萎縮させないか
- 記者会見は、県民に県政の判断と根拠を伝える場
- 会見の質問と、知事のSNS広報をどう使い分けるか
- 称賛と厳しい批判の両方に耳を傾ける必要がある
- 「嘘八百」「公務員失格」との整合性
- 自分が発した強い言葉と、受けた批判への対応は一貫しているか
- 県政の成果を三つ求めた質問に、知事は何を答えたか
- 刑事告訴によって何が問われるのか
- 一次資料・確認先
- noteで刑事告訴の論点を読む
- 関連して読む
- 更新履歴
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会見映像と議会論戦を動画で確認する
2026年6月3日の会見発言、10日の知事側の説明、刑事告訴と犯罪成立の違いを、会見映像と制度資料を照らし合わせて整理します。
事実・主張・分析・未確認事項の区分
確認済み事実:兵庫県の6月3日会見録では、発言の一部が「不適切な発言」として削除されています。6月10日の会見で、知事は法的手続きを進めていると説明しました。
報道で確認した事項:告訴状が6月9日に生田警察署で受理されたとの情報は報道に基づきます。兵庫県警が公表した資料は、現時点で確認できていません。
当事者の説明:知事は、公人としての受忍限度を超える発言だったとの趣旨を述べています。
政経プラスの分析:刑事手続きが記者会見の質問や権力監視に萎縮効果を及ぼす可能性は、法的結論ではなく政治的・編集上の評価です。
未確認事項:犯罪の成否、捜査の進行状況、今後の司法判断、告訴と会見参加をめぐる対応との因果関係は確認できていません(2026年8月27日時点でも、捜査の進展に関する公式発表は確認できていません)。
斎藤元彦知事が菅野完氏を刑事告訴
報道によると、斎藤元彦知事は、2026年6月3日の定例記者会見で発言した菅野完氏を、名誉毀損容疑で刑事告訴しました。
告訴状が6月9日に生田警察署で受理されたという情報は、報道に基づきます。県警の公表資料まで照合した情報ではありません。
斎藤知事は翌6月10日の定例記者会見で、問題となった発言について、公人としての受忍限度を超える極めて不適切な発言だったという趣旨の説明をし、法的な手続きを進めていることを明らかにしました。
告訴状の受理は、警察が告訴を受け付けた段階です。犯罪の成立や有罪は、その後の捜査や裁判で判断されます。
この記事では、その後の捜査や司法判断の結論は確認できていません。
6月3日の会見では、処分を「受け入れた」という説明が問われた
問題となった6月3日の会見では、しんぶん赤旗の記者が、元西播磨県民局長に対する懲戒処分について質問していました。
斎藤知事は、元県民局長から処分に対する不服申し立てがなかったことを理由に、結果として処分を受け入れたものと認識しているという趣旨の説明を繰り返しました。
これに対し、記者は、元県民局長が残した文書の内容を紹介しました。
その文書には、元県民局長が、かつての同僚である兵庫県職員を訴えることにためらいがあり、不服申し立てをできるだけ待っていたという趣旨の記述があったと説明されています。
元県民局長は、不服申し立ての期限を迎える前に亡くなりました。
知事が「結果的に不服申し立てはされなかった」と説明した後、会見のフリー記者が強い言葉で発言しました。
兵庫県の公式会見録では、菅野氏の発言として、次の部分が掲載されています。
死んだやんけ、死んだからできんかったんやろ。人の死を愚弄するな。
この後に続いた表現について、県の公式会見録では「不適切な発言」として削除されています。
報道や動画内で紹介された資料によると、削除された部分には「人殺し」という表現が含まれていたとされています。
斎藤知事は、この発言の撤回を求めました。しかし、菅野氏は撤回しないと述べて、会見場を退出しました。
不適切な発言と犯罪の成立は別の問題
記者が発言する際にも、会見の進行を守り、根拠を示す必要があります。
怒りがあったとしても、「人殺し」という表現は非常に強い言葉です。表現の方法として適切だったのかという問題は残ります。
会見にふさわしい表現かという評価と、名誉毀損罪などが成立するかという法的な判断は、それぞれ検討する必要があります。
動画内で紹介したXの投稿では、菅野氏の発言について、具体的な事実を示したというよりも、「人を死に追い込んだも同然だ」という意見や論評として発せられたものではないか、という指摘がありました。
これは投稿者による、発言の意味への見解です。犯罪の成立について、捜査機関や裁判所が示した結論とは区別します。
実際に名誉毀損罪などが成立するかどうかは、発言全体の文脈や意味、事実の摘示に当たるのか、公共性や公益目的が認められるのかなどを踏まえて、捜査機関や司法が判断することになります。
刑事告訴が記者の質問を萎縮させないか
動画で最も大きな問題として取り上げたのは、選挙で選ばれた現職知事が、自分に向けられた批判的な発言を理由に、刑事告訴という手段を選んだことです。
知事にも名誉や人格権があり、侵害されたと考えた場合には法的な手続きを取る権利があります。
一方で、法的手続きを取る権利があることと、その対応が政治的に妥当かどうかは、別の問題です。
政治家は、公的な権力を行使する立場にあります。そのため、一般の個人よりも広い範囲で批判や論評を受けることが想定されています。
その政治家が、記者会見で自分に向けられた強い批判に対して刑事告訴を行えば、ほかの記者や参加者が質問をためらう可能性があります。
「この言葉を使えば告訴されるのではないか」
「強く追及すれば、法的措置を取られるのではないか」
そのような空気が広がれば、記者会見における質問や権力監視の機能が弱くなりかねません。
刑事告訴が法律上認められた手続きであることと、それが言論空間に与える萎縮効果は、分けて検討する必要があります。
補足:県警の管理は公安委員会。知事の個別捜査指揮とは区別
動画内で紹介した意見の中には、「知事が警察権力を使って批判を抑えようとしている」という趣旨の表現がありました。
警察法38条3項は、都道府県公安委員会が都道府県警察を管理すると定めています。48条2項では、その管理の下で、警察本部長が所属職員を指揮監督すると定めています。
知事が告訴することと、警察が捜査し判断することは、制度上の役割が違います。個別の捜査を知事が指揮する権限の説明ではありません。
一方で、現職知事が自分への批判を理由に県警へ刑事告訴するという構図が、記者や県民にどのような印象や萎縮効果を与えるのかは、別途考える必要があります。
記者会見は、県民に県政の判断と根拠を伝える場
動画では、ライター・編集者の松本創氏によるXへの投稿も紹介しました。
松本氏は、斎藤知事の記者会見について、質問に正面から答えず、同じような説明を長く繰り返すことで時間を消費しているという趣旨の批判をしています。
また、記者が回答を遮った場合に、斎藤知事が県政記者クラブの幹事社に対応を求める場面についても、問題を指摘しています。
松本氏は、定例記者会見について、知事が県政を一方的に宣伝する場所ではなく、記者からの質問に答え、説明責任を果たす場所だという考えを示しています。
私も、質問に答えることを会見の中心に置くべきだと考えます。
記者会見では、広報に加え、県政への疑問に知事が答える必要があります。
県政に疑問や問題があれば、記者が質問し、知事がその判断や根拠を説明する。そのやり取りを県民が確認するための場です。
質問が厳しいからといって、記者を敵視したり、会見への参加を困難にしたりすれば、会見の本来の役割が失われてしまいます。
会見の質問と、知事のSNS広報をどう使い分けるか
松本氏は、斎藤知事がメディアを、自分の言動や権力行使を監視する存在ではなく、自分を宣伝してくれる存在として見ているのではないか、という趣旨の批判もしています。
これは、松本氏による斎藤知事への評価です。
動画では、斎藤知事の公式YouTubeチャンネルに投稿された「ぶらり。芦屋」という動画も取り上げました。
斎藤知事が芦屋市内を歩き、カフェでアイスコーヒーを飲む様子などを映した動画で、画面には「第一話:待ち合わせ」という表示がありました。
コメント欄には、次のような好意的な反応が並んでいました。
- 「芦屋に来られていたんだ。会いたかった」
- 「芦屋の街並みの中の知事もすてき」
- 「トレンディードラマのようなサムネイル」
- 「我が県の知事は躍動している」
これらは、動画が紹介した好意的なコメントです。支持者の評価として扱い、県民全体の意見を示す調査とは区別します。
しかし、厳しい質問が行われる記者会見を避け、自分に好意的な反応だけが集まるSNSやYouTubeを主な発信の場にしていけば、県政に対する批判や疑問が本人に届きにくくなります。
称賛と厳しい批判の両方に耳を傾ける必要がある
動画では、「雲中、雲を見ず」という言葉も紹介しました。
雲の中にいる本人には、雲の全体像が見えない。つまり、ある状況の真っただ中にいると、自分が置かれている状況を客観的に見ることが難しくなるという意味で使われる言葉です。
斎藤知事は、過去にこの言葉を座右の銘として紹介していたとされています。
しかし、自分を支持する声ばかりに囲まれ、批判的な意見を敵対的なものとして退けるようになれば、本人が最も避けるべき「雲の中」に入り込んでしまうことになります。
自分に対する称賛だけでなく、厳しい批判にも耳を傾けることは、権力を持つ立場の人にとって特に重要です。
「嘘八百」「公務員失格」との整合性
今回の刑事告訴を考えるうえで、避けて通れないのが、斎藤知事自身の過去の発言です。
斎藤知事は2024年3月27日の記者会見で、元西播磨県民局長が作成した告発文書について、次のような趣旨の発言をしました。
嘘八百を含めて文書を作って流す行為は、公務員としては失格です。
元県民局長の主張について、十分な調査が行われる前の段階で、「嘘八百」「公務員失格」という非常に強い表現を使ったことになります。
斎藤知事は後に、強い表現を使ったことについて「反省している」と述べています。
動画では、明確な撤回は確認できないと紹介しています。
動画内の会見映像では、記者が斎藤知事に対し、「公務員失格」「嘘八百」という言葉もひどい言葉ではないかと問いかけています。
しかし、斎藤知事は公益通報者保護法に関する従来の見解を繰り返し、記者から「きちんと答えてもらっていない」と指摘されても、質問に直接答えないまま次へ進もうとしました。
ここで動画が指摘したのは、対応の一貫性です。
自分に向けられた「人殺し」という言葉については、公人としての受忍限度を超えているとして刑事告訴する。
一方で、自分が元県民局長に向けた「嘘八百」「公務員失格」という言葉については、表現が強かったと反省しながらも、明確には撤回しない。
この違いを、県民に納得できる形で説明できるのかが問われています。
自分が発した強い言葉と、受けた批判への対応は一貫しているか
動画では、この場面について、次のような問題提起をしました。
菅野さんに自分が言われたときだけは反論する。
二つの発言は、状況と対象が異なります。筆者が比較したいのは、強い言葉に対してどんな説明をしたかです。
筆者は、自分が受けた強い言葉への法的措置と、自分が職員に発した強い言葉への対応に、基準の違いがないかを問います。
権力を持つ側には、自分に向けられた言葉に敏感になるだけでなく、自分が発した言葉が相手に与えた影響についても、同じように向き合う姿勢が必要です。
県政の成果を三つ求めた質問に、知事は何を答えたか
動画の後半では、「県政は本当に前に進んでいるのか」という問題も取り上げました。
記者は、県政を前に進めているという斎藤知事の説明に対し、具体的に何が前に進んだのか、三つの事例を示すよう求めました。
斎藤知事は、主に次のような内容を説明しました。
- 金利上昇なども踏まえた財政運営
- 検討委員会などを設置し、将来へ問題を先送りしないこと
- 県庁舎の整備について、建設費だけでなく運営費も含めて見直すこと
- 財政面で約100億円程度の積み上げがあること
これらは、斎藤知事が県政運営について示した説明です。
動画では、記者が求めた具体的な成果三つに、回答が十分に対応しているかを問題にしました。筆者も、実施した内容と、県民生活への成果を分けて説明してほしいと考えます。
検討委員会を設置したことや、見直しを始めたことは、行政上の取り組みではあります。
成果を評価する資料は、県民生活にどんな変化が生まれたかを示す数字や結果です。
「県政を前に進める」という言葉を繰り返すのであれば、何を実施し、どのような数字や結果が出たのかを、より具体的に説明する必要があります。
刑事告訴によって何が問われるのか
この記事では、今回の刑事告訴に関する司法の結論は確認できていません。
菅野氏の発言が不適切だったのか、名誉毀損罪などが成立するのかについては、今後の捜査や司法判断を見守る必要があります。
筆者は、菅野氏の発言とともに、知事の説明と取材への影響を検討します。
問われているのは、権力者が批判的な言論にどう向き合うのかという姿勢です。
自分への批判に対して刑事告訴を選ぶ一方、自分が過去に使った強い言葉については明確に撤回しない。その姿勢に一貫性があるのか。
記者会見を説明責任の場として維持できているのか。それとも、自分に都合のよい発信だけを行う場へ移ろうとしているのか。
そして、「県政を前に進める」という言葉に見合う、具体的な成果を県民に示すことができているのか。
今回の刑事告訴をきっかけに、斎藤知事の言論に対する姿勢と、記者会見のあり方が、改めて問われています。
一次資料・確認先
- 兵庫県・2026年6月3日知事記者会見録――問題となった発言と、県が削除した部分の扱い
- 兵庫県・2026年6月10日知事記者会見録――知事による法的手続きの説明
- e-Gov法令検索・警察法――都道府県警察と公安委員会の制度
本記事は動画字幕の整理と構成補助に生成AIを使用しました。固有名詞、日付、制度説明は運営者が一次資料と照合しています。確認できない意図や因果関係は断定しません。
関連して読む
更新履歴
- 2026-08-27 8月27日時点で捜査状況に関する新たな公式発表がないことを確認。更新日表記を整理。
- 2026-07-27 6月3日・10日の県会見録、警察法を追加。告訴の事実、当事者の説明、政経プラスの分析、未確認事項を区分し、対応動画へのCTAを追加。
- 2026-06-12 初版公開。
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