海外株式に投資する投資信託は、円以外の資産を持つ手段になります。為替ヘッジがない商品の場合、円安は円換算の評価額を押し上げる要因です。実際の評価額は株価にも左右されます。
記事タイプ:制度解説・新NISAと為替リスク
「円の価値が下がるのが心配なら、新NISAでオルカンやS&P500を買えばいいのではないか」
円安や物価高を受け、海外投資を考える人もいるでしょう。この記事では、円で買う投資信託と為替の関係、新NISAの役割、オルカンとS&P500の投資先の重なりを説明します。
生活費や近く使う資金は、円で支払える状態を確保します。海外株式への長期投資には、当面使わないお金を充てるのが基本です。
前回は、円預金は本当に安全なのか――元本保証と購買力の違いを整理しました。今回は、その次の選択肢として海外投資信託を考えます。
NISAは運用益を非課税にする制度|リスクは投資先で変わる
新NISAは、株式や投資信託から得た売却益、配当、分配金を一定の範囲で非課税にする制度です。
金融庁によると、2024年からのNISAは非課税保有期間が無期限となり、制度も恒久化されました。つみたて投資枠と成長投資枠を併用でき、年間投資枠は合計最大360万円、非課税保有限度額は総枠1,800万円です。
NISAで非課税になるのは運用益です。投資した元本には値下がりのリスクがあり、その大きさや為替の影響は投資先によって変わります。
| 項目 | NISAがしてくれること | NISAがしてくれないこと |
|---|---|---|
| 税金 | 対象商品の運用益を非課税にする | 損失を補填する |
| 元本 | ― | 元本を保証する |
| 為替 | ― | 円高・円安の影響をなくす |
| 商品選択 | 対象商品の購入枠を提供する | 自分に合う商品を自動で選ぶ |
円で買う投資信託でも、中身が海外なら為替の影響を受ける
オルカンやS&P500連動型の投資信託は、日本の証券会社で円を使って購入できます。基準価額も円で表示されます。
円で購入しても、投資先が海外の資産なら、その外貨建ての価値を円に換算する際に為替が影響します。
- 全世界株式型は、日本を含む世界各国の株式に投資する
- S&P500連動型は、米国の主要企業の株式に投資する
- 海外株式部分の価値を円に換算する際、為替レートの影響を受ける
金融庁も、海外型の投資信託は、外国資産そのものの価格変動に加えて、基本的に外貨の円に対する為替変動の影響を受けると説明しています。
円安になると、なぜ評価額が押し上げられるのか
株価を固定し、為替だけが変わる場合を試算します。
米国株のドル建て価格が変わらなかったとして、為替だけが1ドル140円から154円になったとします。ドルの価値は円に対して10%上がっています。
この場合、1万ドル相当の資産は次のように変わります。
| 為替レート | 円換算した評価額 |
|---|---|
| 1ドル140円 | 140万円 |
| 1ドル154円 | 154万円 |
| 差額 | +14万円 |
株価が変わっていなくても、円安だけで円換算額は10%増える計算です。
反対に、1ドル154円から140円へ円高になれば、154万円だった評価額は140万円になります。約9.1%の低下です。
これは為替だけを動かした説明用の試算です。実際の投資信託では株価、配当、信託報酬、売買に伴う費用なども影響します。
評価額を見る際には、株価と為替のどちらが動いたかを分けて考えます。円安による押し上げは、円高になれば逆向きに働きます。
評価額は株価と為替の両方で変わる
海外株式には、少なくとも2つの大きな変動要因があります。
- 投資先の株価
- 円と外貨の為替レート
例えば、円が10%安くなっても、投資先の株価がそれ以上に下がれば、円換算の評価額は下がる可能性があります。
反対に、円高になっても、株価の上昇が為替によるマイナスを上回れば、評価額が増える場合があります。
オルカンやS&P500は、外国企業の成長に投資する株式商品です。為替の効果は、株価の動きと合わせて評価する必要があります。
短期の為替を予想して売買する方法と、NISAの無期限の非課税保有期間を使って長期投資する方法は、目的も判断基準も異なります。
オルカンとS&P500は何が違うのか
この記事では、一般に「オルカン」と呼ばれる全世界株式型の投資信託と、S&P500への連動を目指す米国株式型の投資信託を念頭に置いています。
違いを大づかみに整理すると、次のようになります。
| 比較 | 全世界株式型(オルカン) | S&P500連動型 |
|---|---|---|
| 主な投資地域 | 日本を含む先進国・新興国 | 米国 |
| 分散の考え方 | 世界の株式市場へ広く投資 | 米国の主要企業へ集中 |
| 為替の影響 | 海外資産部分が影響を受ける | 米ドル・円の影響を強く受ける |
| 主な特徴 | 国・地域を広く分散 | 米国経済・企業への比重が高い |
全世界株式型には米国株も含まれます。オルカンにS&P500を加えると、米国株の比重が高くなることがあります。
米国企業を多めに持ちたい場合には、その意図に合う配分です。
投資家が確認するのは、商品の本数に加え、投資先の国や企業がどこまで重なるかです。
どちらも株式中心の商品なので、株式市場全体が下がれば、両方の評価額が下がる可能性があります。国・企業の分散と、株式・債券など資産の種類の分散を分けて考えます。
「為替ヘッジあり」と「なし」は何が違うのか
外国資産に投資する商品には、為替変動の影響を抑える「為替ヘッジ」を行うものもあります。
為替ヘッジありの商品は、円高による評価額の低下を抑える効果が期待できます。一方で、円安による押し上げ効果も小さくなります。ヘッジにはコストもかかり、その大きさは日本と投資先の金利差などによって変わります。
為替ヘッジなしの商品は、円安の恩恵も円高の逆風も受けやすくなります。
| 種類 | 円安時 | 円高時 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 為替ヘッジなし | 円換算額を押し上げる要因 | 円換算額を押し下げる要因 | 為替変動をそのまま受けやすい |
| 為替ヘッジあり | 円安の恩恵が小さくなる | 円高の影響を抑えやすい | ヘッジコストがかかる |
購入前に、目論見書の「為替ヘッジ」の方針を確認します。
長期資産の通貨を分散する手段になる
海外資産を持つことは、円だけに偏った家計資産の分散に役立ちます。円安が進めば、その円換算額を支える要因になります。NISAは、この運用で得た利益を非課税にする制度です。
数年以内に使う教育費、住宅資金、税金、生活防衛資金は、必要な時期に使えることを優先します。株式投信では、その時期に株価が下がっている可能性があります。
新NISAの強みは、長期の資産形成で得た運用益を非課税で受け取れることです。
家計のお金は「使う時期」で分ける
家計のお金を、近く使う資金と、当面使わない資金に分けて商品を選びます。
近く使うお金
毎月の生活費、緊急時の予備費、数年以内に使う予定資金です。日本で円を使って暮らす以上、円預金が中心になります。
当面使わないお金
10年、20年先の老後資金などです。短期の値下がりを受け止められる範囲で、国内外の資産へ長期・積立・分散投資する余地があります。
金融庁は、投資信託などには元本割れの恐れがある一方、長期・積立・分散を組み合わせることでリスクと付き合いながら資産形成を行う考え方を示しています。J-FLECも、生活費や近く使う予定資金ではなく、「当面使う予定がないお金」で投資することを基本としています。
相場が下がったときも生活費を確保でき、長期資産を持ち続けられる配分を考えます。
私は少額保有だからこそ、長期で考えたい
私が保有するオルカンとS&P500は、ごく少額です。今のところ、評価額が大きく増えたという実感はありません。
私は日本円だけに資産を集中させず、海外企業の成長も取り込むために、長期・分散投資として保有しています。
私が重視するのは、生活費と分けて保有できること、無理なく続けられる金額であること、投資先の国や資産を理解していることです。
生活費を確保したうえで、長期資産の通貨と投資先を分散する
海外株式を持つ際は、株価と為替の両方による値動きを受け止められる資金配分が必要です。オルカンとS&P500を両方持つ場合には、米国株の比重も確認します。
生活防衛資金と近く使うお金は円で確保する。そのうえで、当面使わないお金を長期・積立・分散で運用する。
家計で使う時期を決め、長期資金の通貨・国・資産の種類を分散する。それが、新NISAを家計の備えに生かす使い方です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の金融商品や投資方法を推奨するものではありません。投資信託には元本割れや為替変動などのリスクがあります。商品の目論見書、手数料、リスクを確認し、ご自身の資産状況と目的に応じて判断してください。
参考にした一次資料
- NISAを知る(金融庁)
- 資産形成の基本――長期・積立・分散投資(金融庁)
- NISA制度等に関する一般的な情報(金融庁)
- 資産運用とは?(J-FLEC)
- 投資のはじめ方(J-FLEC)
- リスクを抑えた運用方法(J-FLEC)


