AIに調査や文章作成を任せれば、一人でも多くのコンテンツを作れます。
しかし、どこまで任せてよいのでしょうか。
文字起こし、要約、構成、見出し、SNS投稿まで、技術的にはAIで作れます。だからといって、作れる仕事をすべて自動化してよいとは限りません。
AIが整えた文章は自然に読めます。実在しない資料、古い数字、強すぎる断定が混ざっていても、文章の形だけでは気づきにくい。特に政治、行政、法律、事件を扱うメディアでは、小さな違いが記事全体の意味を変えます。
そこで政経プラスでは、仕事を「AIが作業する部分」と「人が判断する部分」に分けています。
結論は明確です。
AIには、集める、並べる、変換する、点検する仕事を任せる。人は、選ぶ、確かめる、表現を決める、公開の責任を持つ。
今回は、この境界を実例と公開前チェックリストで整理します。
AIに任せる基準は「間違ったとき、自動で気づけるか」
AIへ仕事を任せるとき、単に「できるか」で判断しないことが重要です。
見るべきなのは、間違ったときに、人がすぐ気づける仕事かどうかです。
例えば、見出し案を十個出してもらう仕事なら、不自然な案を人が選ばなければ済みます。箇条書きを表へ変換する仕事も、元の情報と見比べれば誤りを発見しやすいでしょう。
一方、存在するか分からない資料をAIに探させ、そのまま出典として公開するのは危険です。名誉を傷つける可能性がある表現や、法的な段階を断定する文章も、文章の自然さだけでは正しさを判断できません。
そこで、仕事を三段階に分けます。
| 区分 | 仕事の性質 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 緑:任せやすい | 元データがあり、誤りを見比べやすい | AIが作業し、人が完成物を確認する |
| 黄:確認が必要 | 要約や分類に判断が混ざる | AIは候補作成まで。一次資料と照合する |
| 赤:人が決める | 信頼、表現、公開、責任に関わる | AIの提案は参考にとどめ、人が最終判断する |
AIを使うか使わないかの二択ではありません。危険度に応じて、任せる範囲を変えます。
AIに任せやすい「緑」の仕事
次の仕事は、元データと完成物を見比べやすく、AIに任せやすい領域です。
1.大量の素材から候補を拾う
長い文字起こしから、特定の人物名、数字、論点、質問候補を抽出する。視聴者コメントを、質問、賛成、反対、訂正、企画要望に分類する。こうした作業はAIが得意です。
重要なのは、AIが見つけた候補を、そのまま事実として扱わないことです。
AIの役割は「ここを確認してください」と人に示すところまでです。
2.形式を変える
修正済みのSRTから、タイムスタンプ、概要欄、ブログの見出し候補、X投稿案を作る。箇条書きを表にする。文章を短くする。媒体別に並べ替える。
元データが確認済みなら、こうした変換は比較的安全です。
ただし、短くする過程で条件や例外が落ちることがあります。最終確認は必要です。
3.表記と構造を点検する
- 同じ人物名が異なる漢字になっていないか
- 日付の表記が統一されているか
- 見出しの順番に飛躍がないか
- 同じ説明を繰り返していないか
- 関連記事のリンクが抜けていないか
このような点検は、AIへ任せる価値があります。
人が内容を読みながら、誤字、構造、リンクをすべて同時に確認すると、見落としが増えるからです。
AIは候補までにする「黄」の仕事
次の仕事には、事実だけでなく解釈が入り始めます。AIを使えますが、出力を完成物として扱えません。
1.ニュースや一次資料の要約
要約では、何を残し、何を削るかという判断が行われます。
制度の原則は残っても、対象者、例外、経過措置、施行日が落ちることがあります。発言者の主張と、第三者が確認した事実が一つの文章にまとめられることもあります。
そのためAIの要約を読むだけでなく、採用する数字、条件、引用は元資料へ戻って確認します。
2.タイトルと見出しの作成
AIはクリックされやすい言葉を提案できます。しかし、注目を集めるほど、元資料より強い表現になりやすい傾向があります。
「疑惑」「違法」「確定」「全面禁止」といった言葉は、読者の印象を大きく左右します。
タイトル案はAIに複数作らせても、事実の範囲を超えていないか、本文の結論と一致しているかは人が判断します。
3.反対意見や別の見方の整理
自分と異なる立場の論点を探すとき、AIは便利です。ただし、実際には存在しない反論を作ったり、少数の意見を代表的な見方のように示したりする可能性があります。
反対材料も、発信者、資料、日付を確認できるものだけを採用します。
人が決める「赤」の仕事
次の領域は、AIに提案してもらえても、判断そのものは渡しません。
1.何を報じ、何を報じないか
話題になっているから扱うのか。生活や制度に影響があるから扱うのか。資料が不十分でも速報を優先するのか。確認できるまで公開を待つのか。
これはメディアの方針そのものです。
AIは注目テーマを並べられますが、誰に何を届けるかは決められません。
2.どの資料を信頼するか
公式資料だから必ず十分とは限りません。報道記事、当事者の説明、議会資料、第三者委員会報告書には、それぞれ異なる性質があります。
公開主体、作成目的、調査方法、対象期間、更新履歴を見て、資料の重みを判断するのは人の仕事です。
3.事実・主張・推測を分ける
「本人が否定した」は事実でも、否定した内容が真実とは限りません。「告訴された」と「犯罪が成立した」は別です。「批判がある」と「違法である」も同じではありません。
AIは滑らかな文章を作るため、この境界をつなげてしまうことがあります。
記事では、誰の説明なのか、何が資料で確認されたのか、どこからが筆者の評価なのかを人が分けます。
4.公開する表現と見送る表現
確認できない固有名詞を削る。断定を「可能性がある」に変える。短い映像だけで人物の内面を決めつけない。タイトルの刺激を弱める。
こうした修正は、単なる文章校正ではありません。
記事によって誰が影響を受けるかを考え、公開可能な表現を決める編集判断です。
5.最終的な公開可否と責任
AIは公開ボタンを押せても、公開後の説明責任を負えません。
訂正が必要になったとき、読者や取材対象者に説明するのは運営者です。したがって、最終原稿と公開可否は必ず人が確認します。
実例:文字起こしの強い断定を、そのまま記事にしなかった
選挙SNS規制を扱ったYouTube動画の文字起こしには、次の趣旨の表現がありました。
偽情報の投稿を、選挙の公正を損なう違法行為とみなします。
この文だけをAIに要約させ、そのままブログへ変換すれば、「偽情報は新法ですべて違法になる」という印象の記事になりかねません。
しかし、衆議院が公開している法案要綱を確認すると、発信者に置かれるのは、候補者について虚偽の事項を公にしたり、事実をゆがめたりして選挙の公正を害さないよう求める責務規定です。
大規模プラットフォーム事業者についても、法律がすべての偽情報の即時削除を直接命じる仕組みではありません。悪影響を軽減するための措置を求め、具体的な対応は指針や各社の運用に委ねられる部分があります。
そこでブログでは、文字起こしの表現をそのまま使わず、次のように整理しました。
- 発信者には、虚偽や事実のゆがめで選挙の公正を害さないよう求める
- 大規模事業者には、悪影響を軽減する措置を求める
- 生成AI画像・映像は全面禁止ではなく、一定の場合に表示を求める
- 実効性は、今後の指針と事業者の運用も確認する必要がある
AIは文字起こしを整え、関連箇所を探し、記事の構成案を作れます。
しかし、「元の発言は法案の内容を正確に表しているか」「どの言葉なら誤解を招かないか」を決めるのは人です。
この修正こそ、AIを使っても削ってはいけない編集工程です。
役割分担表|AIに任せるところ、人が確認するところ
| 工程 | AIに任せる作業 | 人が担当する判断 |
|---|---|---|
| 企画 | 話題、検索語、質問候補の整理 | 誰に何を届けるか、扱う価値があるか |
| 調査 | 関連資料、確認項目の候補抽出 | 資料の実在、最新版、信頼性 |
| 文字起こし | 字幕生成、誤認識候補の抽出 | 固有名詞、数字、発言の確定 |
| 要約 | 論点、条件、例外の候補整理 | 何を残し、どの意味で伝えるか |
| 構成 | 見出し、FAQ、比較表の候補 | 読者の疑問に合う構成か |
| 表現 | 言い換え、短文化、媒体別変換 | 断定の強さ、公平性、公開可否 |
| 公開 | リンク、タグ、設定の点検 | 最終原稿、公開時期、説明責任 |
| 改善 | 数字、コメント、修正点の分類 | 次に何を変えるか |
境界は「AIか人か」ではなく、AIが候補を作り、人がどの段階で確認するかです。
公開前7項目チェックリスト
AIを使った記事や動画を公開する前に、最低限、次の七項目を確認します。
1.出典は実在するか
資料名、URL、公開主体を実際に開いて確認します。AIが提示したURLを、開かずに掲載しません。
2.日付と版は最新か
法案と成立後の法律、改正前と改正後、速報値と確定値を混同していないか確認します。
3.事実・主張・意見が分かれているか
誰の発言か、資料で何が確認されたか、筆者がどう評価しているかを区別します。
4.固有名詞、数字、法的段階は合っているか
人名、組織名、金額、割合、日付に加え、告訴、捜査、送検、起訴、判決などの段階を確認します。
5.タイトルが本文より強くなっていないか
本文では条件付きなのに、タイトルだけが「確定」「違法」「全面禁止」になっていないか確認します。
6.反対材料と未確認事項を隠していないか
結論に都合の悪い情報を落としていないか、現時点で確認できないことを断定していないか確認します。
7.公開後に説明できるか
「なぜこの表現を使ったのか」「どの資料を根拠にしたのか」と聞かれたとき、自分の言葉で説明できるかを最後に考えます。
一つでも説明できない項目があれば、公開を急がず、元資料へ戻ります。
確認結果を三つの印で管理する
長い原稿を確認するときは、文章を読むだけでなく、情報ごとに状態を付けます。
| 印 | 状態 | 次の作業 |
|---|---|---|
| ○ | 一次資料で確認済み | 出典を記録して使用する |
| △ | 報道・当事者説明のみ、または条件付き | 主体と条件を明記する |
| × | 出典不明、矛盾、確認不能 | 削除するか公開を見送る |
AIには、数字、固有名詞、引用らしい箇所を一覧にしてもらえます。人は、それぞれに○・△・×を付けます。
この方法なら、文章全体を何度も読み直すだけより、未確認箇所を把握しやすくなります。
AIを使うほど、人の仕事は「判断」に集中する
AIを導入すると、人が不要になるわけではありません。
人がタイピング、整形、転記に使っていた時間を減らし、資料の確認、表現の調整、公開判断へ時間を移すことが目的です。
生成時間だけを測ると、AIは非常に速く見えます。しかし、誤りの修正に時間がかかれば、仕事全体は速くなっていません。
記録するなら、次の時間を分けます。
- AIへ入力を準備した時間
- AIが出力するまでの時間
- 事実確認にかかった時間
- 表現を修正した時間
- 公開可能な完成物になるまでの合計時間
改善すべきなのは、AIの出力速度ではなく、完成までの工程です。
まとめ
- AIに任せる基準は、間違ったときに人が気づきやすい仕事かどうか
- 収集、整形、変換、表記点検はAIに任せやすい
- 要約、タイトル、反対意見の整理は、AIに候補を作らせて一次資料と照合する
- 何を報じるか、どの資料を信頼するか、どう表現するかは人が決める
- 事実、主張、意見、法的段階を混同しない
- 公開前に出典、日付、固有名詞、断定、反対材料、説明責任を確認する
- AIを使う目的は、人の仕事をなくすことではなく、判断へ時間を移すこと
AIは、優秀な編集部員になれます。
しかし、何を伝え、どこまで確認し、どの表現で世に出すかを決める編集長にはなれません。
作業はAIと分担し、判断と責任は人が持つ。
これが、「ひとりAI編集部」を安全に回すための基本ルールです。
第4回では、AIと一次資料を探すとき、実在しない資料や古い版を混ぜないための調査手順を解説しています。
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