見通しを外し、ルールを変え、26億円を流用した――はばタンPayで問われる斎藤知事の財政責任

地方自治・兵庫県政

「物価高対策だから」「県民に喜ばれたから」で、行政の説明責任まで免除されるわけではない。

兵庫県のプレミアム付きデジタル券「はばタンPay+」第5弾をめぐり、県は当初、応募が予算を超えた場合には当選口数を4口から3口へ調整する考えを示していた。ところが応募後、斎藤元彦知事は全員を希望口数どおり当選とする方針を表明。その結果、当初約102.9億円だった事業費は約129億円に膨らみ、約26億円の不足が生じた。県はこれを、いったん歳出の「流用」で対応したと説明している。

これは「知事が法的手続きなしに勝手に予算を増やした」とまで確認できる話ではない。県はその後、6月補正で国の交付金へ財源を付け替える手続きを県議会に示している。だが、そこに問題がないという結論にはならない。

県民に示していた超過時のルールを後から変え、見通しを外した穴を流用で先に埋め、詳細な検証は後回しにした。 この政治判断の責任は、事業の最終決定者である斎藤知事から切り離せない。

何が起きたのか――数字で確認する

兵庫県は2025年12月、はばタンPay+第5弾の実施費として102.9億円を含む補正予算案を県議会に提出した。第5弾は、5,000円の購入で7,500円分を使える仕組みで、1人4口までを想定していた。

県が2026年3月に公表した実施概要には、重要な一文がある。応募が予算を上回った場合には、抽選を行い、当選口数を「4口から3口に調整」するという説明だ。予算には限りがある以上、これは当然の設計だったはずである。

しかし実際の応募は117万9,524人。県が予算編成時に見込んでいた93万1,000人を24万8,524人、約26.7%上回った。4口を希望した人まで全員を希望どおり当選させるなら、当初の枠では足りないことは明白だった。

それでも県は4月、重複などを除く全申込者を希望口数どおり当選とした。斎藤知事自身も会見で、必要額は約129億円となり、当初予算との差額約26億円について「一旦歳出を流用」して対応すると説明している。

項目県が示した内容
当初の第5弾事業費約102.9億円
予算編成時の利用者見込み93万1,000人
実際の申込者数117万9,524人
応募超過時の当初説明抽選・当選口数を4口から3口へ調整
全員希望口数当選に必要となった額約129億円
不足額約26億円
県の当面の対応歳出流用。その後、6月補正で財源更正

出典:兵庫県の2025年12月補正予算資料第5弾の実施概要2026年4月15日知事会見当選者数の発表

「勝手に増額」ではないとしても、勝手に見える政治である

ここは言葉を正確にしておきたい。

県が公表した資料を見る限り、知事が一人で、県議会も予算制度も無視して26億円を新たに支出したと断定する根拠はない。6月補正では、はばタンPay+第5弾について26億1,500万円の「財源更正」が示された。これは事業費の総額をさらに積み増す補正ではなく、国の重点支援地方交付金を財源に振り替える内容である。県は6月2日に補正予算案を県議会へ提出し、後に補正予算の成立を公表している。

だが、制度上の手続きが存在したことと、政治的に誠実だったことは別問題だ。

県民が見せられた順番はこうだ。まず「超過なら口数を減らす」と説明する。次に応募が予想を大きく超える。そこで本来の説明どおり口数を調整するのではなく、全員当選へ方針を転換する。そして生じた不足分をいったん流用で処理し、後から財源を整える。

これでは、予算は最初に県民と議会へ説明する約束ではなく、政治判断の後始末に使う帳簿のように見えてしまう。違法と決めつける必要はない。それでも、県民が「勝手に増額したのではないか」と感じるのは当然である。

最も重いのは、予測を外した後の「ルール変更」だ

斎藤知事が強調したのは、物価高で苦しむ県民に支援を届ける必要性だった。支援の必要性そのものを否定する話ではない。

しかし、支援策であるほど、運用は公正でなければならない。応募が多い場合に口数を調整するというルールは、限られた予算をどう分けるかという公平性の約束だった。希望者を増やす政治判断をするなら、当初から追加財源、事業規模、他施策への影響を明示し、議会と県民に選択を示すべきだった。

ところが実際には、93万1,000人という見込みを大幅に超えた後に、県は全員当選へと舵を切った。需要予測が外れたこと自体は起こり得る。だが、予測を外した行政がまず問われるべきは、「なぜ外れたのか」「どの選択肢を比較したのか」「なぜ当初ルールを守らなかったのか」である。

斎藤知事は5月の会見で、見込みと実績の差について「詳細な分析はまたこれから必要」と述べた。これは順番が逆だ。約26億円を動かした後に、需要予測の検証が「これから」では、財政運営としてあまりに無責任である。

「流用」は魔法の言葉ではない

流用は、予算制度の中で認められる場合がある。だから、この一語だけで不正支出と断じるのは正しくない。

しかし流用には、必ず本来その財源で予定していた支出がある。県民が知るべきなのは、抽象的な「財源更正」ではない。

  • どの歳出から、いつ、いくらを流用したのか。
  • その歳出の執行や県民サービスに影響はなかったのか。
  • 全員を希望口数どおり当選させる判断は、誰が、どの資料を基に、いつ決めたのか。
  • 当初示した「4口から3口への調整」を採らなかった理由は何か。
  • 93万1,000人という需要予測は、どのデータと仮定に基づいていたのか。

この説明なしに「交付金を活用した」「県民生活を支えた」と語っても、県民の不信は消えない。交付金は知事個人のお金ではない。国民の税金であり、使途と優先順位を説明する責任がある公金だ。

人気取りの後始末を、県民の財布で曖昧にしてはならない

はばタンPay+は、家計を助け、地域の消費を支える効果が期待される事業だ。だからこそ、斎藤知事は「配った」という結果だけで評価を求めるのではなく、そこに至る意思決定を全面的に公開すべきである。

本来なら、応募超過への対応には複数の選択肢があった。予定どおり口数を調整する。追加の財源を先に議会へ示して事業規模を広げる。次回以降の制度設計を見直す。それぞれの負担と効果を比較し、県民に説明した上で選ぶべきだった。

斎藤知事が選んだのは、全員当選という見栄えのよい結論を先に置き、不足財源を流用と財源更正で追いかける方法だった。これが「迅速な支援」と呼ばれるなら、予算の見通しも当初説明も、都合が悪くなれば後から書き換えられることになる。

政治は、配る瞬間の拍手で終わらない。誰の金を、どのルールで、何を後回しにして使ったのかを説明して初めて、県民の信頼を得られる。

斎藤知事が答えるべきなのは、「はばタンPayを実施したか」ではない。なぜ予測を外し、なぜ自ら示した調整ルールを変え、なぜ26億円を先に流用する形になったのか。 その一つ一つである。

※本稿は兵庫県が公表した資料・会見記録に基づく。知事が法的手続きなしに独断で予算を増額した、あるいは違法行為があったと断定するものではない。批判の対象は、応募超過後の全員当選という政治判断、流用を伴う事後対応、そしてそれらに関する説明責任である。

確認資料・参考リンク

本記事は、はばタンPay+第5弾の募集・申込結果・補正予算に関する兵庫県および兵庫県議会の公表資料を主な確認資料として作成しています。

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