兵庫県の介護支援はなぜ「上限の59%」に削られたのか――物価高対策の予算不足を現場に転嫁する設計

地方自治・兵庫県政

兵庫県は、物価高や猛暑・災害に備えるための「介護事業所等サービス継続支援事業」で、申請額が予算額を超えたとして、補助上限額を当初予定の59%に減額して交付決定した。

これは「59%を減らした」という意味ではない。事業者が受け取れる上限が、当初示された額の59%になったということだ。言い換えれば、実質41%のカットである。

たとえば、当初20万円の上限だった事業所は11万8千円に、50万円の上限だった訪問介護事業所は29万5千円に下がる。補助の目的が、燃料費、暑さ・寒さ対策用品、非常用電源、備蓄品といった「サービスを止めないため」の費用であることを考えれば、これは単なる事務的な調整では済まない。

介護の物価高対策で申請が殺到した事実は、現場がどれほど支援を必要としていたかを示している。同時に、必要額を見誤った予算設計のしわ寄せを、介護事業所に負わせる構図でもある。

何が起きたのか――上限額は当初の59%へ

県の公表ページは、介護事業所等サービス継続支援事業について「申請額が予算額を超過したため」、補助上限額を一覧表の59%に減額して交付決定したと明記している。

対象になるのは、訪問介護、通所介護、訪問看護、訪問リハビリ、福祉用具貸与、小規模多機能、グループホーム、居宅介護支援、特養、老健など幅広いサービスだ。補助対象経費には、次のようなものが含まれる。

  • 訪問・送迎に伴う燃料費や有料道路通行料
  • ネッククーラー、熱中症対策用品、防寒・雪害対策用品
  • スポットクーラー、ヒーター、加湿器、給湯器、遮熱カーテンなど
  • 飲料水・食料の備蓄、ポータブル発電機、蓄電池、簡易トイレ、衛生・医療用品

つまり、対象は豪華な設備投資ではない。利用者宅へ向かう車を動かす費用、猛暑や厳寒の中で利用者と職員の環境を守る物品、停電や災害時にも介護を継続するための備えだ。

県は、交付決定通知の日付以降から8月20日までに購入した物品等を対象としている。交付決定後に、削られた上限の範囲で調達計画を組み直さなければならない事業者も出る。

いくら減るのか――現場の上限額を具体的に見る

県が公表した減額後一覧では、補助上限額は次のようになっている。

類型・当初上限減額後の上限減少額
一般的な20万円枠11万8千円8万2千円
30万円枠17万7千円12万3千円
40万円枠23万6千円16万4千円
訪問回数が多い訪問介護の50万円枠29万5千円20万5千円
定員100人の施設系サービス(6千円×定員)35万4千円24万6千円

訪問介護は、同一建物減算のある集合住宅併設型を除けば、月間の延べ訪問回数に応じて30万~50万円の上限が設定されていた。移動を伴う在宅サービスほど燃料費の影響を受けやすいという制度設計だったからだ。

ところが、最も大きい50万円枠でも交付上限は29万5千円になる。20万5千円の不足分で、蓄電池を見送るのか、スポットクーラーを減らすのか、備蓄品を後回しにするのか。現場はその選択を迫られる。

「介護施設等」の食材料費支援とは別枠である

ここは混同してはならない。

県の制度には、設備・備品・燃料・防災用品などを対象とする「介護事業所等サービス継続支援事業」と、入所施設等の食材料費を対象とする「介護施設等サービス継続支援事業」がある。

後者は、特養、老健、介護医療院、短期入所、養護老人ホーム、軽費老人ホームなどに対し、定員1人当たり1万8千円を上限に食材料費を支援する枠だ。県の今回の告知で59%への減額が明記されているのは前者、すなわち設備・備品・燃料等の「介護事業所等」枠である。食材料費の別枠まで同じ割合で削られた、と読むのは誤りだ。

それでも、利用者の食事だけを守れれば十分ではない。訪問できる車、夏を越す空調、停電時の電源、衛生用品がなければ、在宅・通所・施設のどのサービスも不安定になる。

予算はいくらだったのか――県議会資料から見える規模

兵庫県議会の福祉部資料は、この「介護事業所等サービス継続支援事業補助」の予算額を11億700万円、想定件数を4,800か所としている。国庫補助事業として計上された金額である。

厚生労働省の資料では、この事業は国が4分の3、都道府県が4分の1を負担する仕組みで、兵庫県の所要見込額は国費8億3,000万円、県負担2億7,700万円、計11億700万円と示されている。

59%という一律の圧縮率から逆算すると、仮に予算11億700万円を全額使い、全申請に同じ比率を掛けているなら、当初上限ベースの申請総額は約18億7,600万円、予算超過分は約7億6,900万円に相当する計算になる。

ただし、これは公表された予算額と59%という比率からの試算であり、県が申請総額そのものを公表したわけではない。申請額には実費額や個別の調整もあり得るため、「実際の申請総額が18億7,600万円だった」と断定してはならない。

むしろ問題は、県が現在の公表ページで、申請件数、サービス類型別の申請額、予算超過の正確な額、59%という率の算定経過を示していないことだ。4,800か所を想定していた制度で、どのサービスがどれだけ申請し、どれだけ不足したのか。県民にも事業者にも説明する責任がある。

なぜ問題なのか――「申請が多かった」は免罪符にならない

申請が予算を超えたとき、全対象者を一律に圧縮する方法には、一見すると公平さがある。抽選で落とすよりは、少額でも広く配る方がよいという考え方もあり得る。

しかし、それは予算不足の責任を消す説明にはならない。

この制度は、県自身が「物価高騰や猛暑、厳寒、災害等」の中で介護を継続するために必要だと位置付けたものだ。しかも補助対象には、夏の温度管理や非常用電源、備蓄品といった、後回しにすれば利用者の安全に関わる費目が並ぶ。

需要が予算を大幅に上回ったなら、第一に確認すべきなのは「現場が不必要な申請をしたのか」ではない。むしろ、当初の予算見積もりが現場の実態から離れていなかったかである。

国も、介護分野が物価・賃金上昇に直面する厳しい状況にあるとして、この事業を緊急措置に位置付けた。厚労省は、今回の国庫補助事業と、自治体が物価高対策に使える「重点支援地方交付金」は趣旨が異なり、双方を活用できるとしている。

もちろん、県に自由に使える財源が残っていると決めつけることはできない。しかし、少なくとも県は次の問いに答えるべきだ。

1. 申請総額はいくらで、予算をいくら上回ったのか。 2. 申請件数は想定4,800か所に対していくつで、サービス類型別・地域別にはどうだったのか。 3. 59%という率は、どのような計算と調整で決めたのか。 4. 重点支援地方交付金、県の補正予算、国への追加要望などで不足分を補う検討をしたのか。 5. 今年度に埋められないなら、次の猛暑・災害期までに、何をどこまで恒久化するのか。

補助金の縮小は、いつか利用者と家族の問題になる

介護事業所が購入を見送るのは、帳簿上の数字だけではない。

発電機や蓄電池がなければ、停電時の対応力は落ちる。空調・暑熱対策が不足すれば、利用者と職員の負担は増す。訪問の移動経費が重ければ、採算の厳しい地域ほど事業継続は難しくなる。

介護の物価高は、最終的に高齢者、家族、そして働く人の暮らしへ跳ね返る。サービスが減れば、家族が担う時間と負担が増え、地域で暮らし続ける選択肢が狭まる。

「予算を超えたから59%」で終わらせてはならない。今回の事態は、介護現場の支援需要が、行政の見積もりを大きく上回ったという警報である。

必要なのは、減額後の通知だけではない。申請と不足の全体像を公開し、どこまで補填できるのかを示し、次回に同じ事態を繰り返さない予算設計へ改めることだ。介護を止めないための予算が足りないなら、その事実をまず隠さず、正面から県民に説明すべきである。

確認資料・参考リンク

本記事は、介護事業所等へのサービス継続支援に関する兵庫県・兵庫県議会・厚生労働省の公表資料を主な確認資料として作成しています。

数値を読む際の注意

  • 「59%」は、当初の補助上限に対する交付上限の割合です。本記事では実質41%減として表記しています。
  • 約18億7,600万円の申請相当額、約7億6,900万円の不足相当額は、県の予算額11億700万円を59%で割った試算です。県が実際の申請総額として公表した数値ではありません。
  • 59%への減額は、県の告知で明示された「介護事業所等サービス継続支援事業」が対象です。食材料費を対象とする別枠への適用は、同告知からは確認できません。

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