働いている高齢者の介護保険料は上がるのか――2027年度の高所得者引き上げ案を読む

2026年9月16日時点の情報。制度案は審議前で、対象者と増額幅は決まっていない。

厚生労働省が、2027年度から65歳以上の高所得者の介護保険料を引き上げる方向で検討に入った。働いている高齢者にとっては、仕事を続けた結果、保険料がどう変わるかが気になるところだ。共同通信の9月16日付報道によれば、年間所得720万円以上の人などを対象にする案があり、9月18日の社会保障審議会介護保険部会で議論を始め、所得区分と増額幅の目安を年内に決めたいという。ここで重要なのは「720万円以上」は決定した新しい線ではないことだ。

720万円は、現行の標準区分でも最高段階の境目

65歳以上の人が納める第1号介護保険料は、市区町村が介護サービスの見込みなどから基準額を定め、本人や世帯の課税状況、本人の所得に応じて段階別に設定する。国が示すのは標準の所得段階と乗率で、実際の保険料額は市区町村ごとに異なる。厚労省の制度説明も、具体額は居住地の市町村に確認するよう案内している。

2024~26年度の第9期計画では、国の標準段階が9段階から13段階へ増え、高所得層の標準乗率が引き上げられ、低所得層の標準乗率が引き下げられた。むつ市の現行保険料表では、本人の合計所得金額720万円以上が第13段階で、基準額の2.4倍とされる。市区町村は標準より細かい区分や独自の乗率を設けられるため、「年収720万円なら全国一律でいくら増える」とは計算できない。また、報道の「年間所得」と自治体が判定に使う「合計所得金額」を、給与の額面年収や年金の受取額と同一視してはいけない。

厚労省が公表した第9期の保険料基準額は、全国加重平均で月6,225円。これは所得段階別の保険料の全国平均でも、2027年度の見込額でもない。参考として2024~26年度の地域差を見ると、厚労省の集計結果には大阪市の基準額月9,249円、小笠原村の月3,374円が載る。同じ標準乗率を使っても、基準額だけで金額が大きく変わる。

なぜ、また負担を変えるのか

報道が挙げる理由は、高齢化に伴う介護給付費の増加を見込み、支払い能力のある人により多く負担してもらうことだ。厚労省の介護保険部会の開催情報にも、9月18日の議題として「第1号保険料の在り方」「持続可能性の確保(給付と負担)」が掲げられている。ただし、この記事の時点で新たな増額幅、対象人数、低所得層への還元額を示す公式案は確認できない。目的を掲げるだけでは、負担増の妥当性は評価できない。

介護保険料と介護サービス利用時の自己負担も分けて考えたい。今回報じられたのは、65歳以上の人が納める保険料の所得段階の見直しであり、サービスを使った際の1割・2割・3割負担がこの報道だけで変更されたわけではない。働いている高齢者だけが対象と決まったわけでもない。所得には就労以外の所得もあり得る。40~64歳の第2号被保険者についても、この報道から新たな保険料額は導けない。

もう一つの争点は、非課税から課税に移る人

共同通信は、年金額の上昇などで住民税非課税世帯から外れ、介護保険料が急増するケースへの緩和策も検討すると報じた。高所得層への追加負担と、境目にいる人への配慮を一緒に議論する構図だ。ただし「課税になった世帯」への引き下げが、どの段階・どの期間・どの程度に及ぶのかは未決定である。

この境目は制度の公平さを試す。前年より所得が少し増えただけで、税と保険料の判定が変わり、手取りの増加より負担増が目立つ場合、本人には「収入が上がったのに苦しくなった」と映る。公平な制度を名乗るなら、高所得者の乗率を何倍にするかと同じ精度で、この急変をどれだけ和らげるか示す必要がある。これは私の評価であり、今回の個別案による損得を試算したものではない。

2027年度の金額を判断する前に確認したい四点

第一に、国の標準段階を増やすのか、現在の段階の乗率を上げるのか。第二に、「720万円以上」が対象の入口なのか、より高い所得層も分けるのか。第三に、非課税から課税へ移った人の経過措置をどう定めるのか。第四に、市区町村が新しい標準をどう条例と第10期事業計画に反映するのか。

2027年度は第10期介護保険事業計画の開始年に当たる。厚労省の計画資料は、制度改正を第10期に反映させることを念頭に置いている。いま手元の保険料通知から2027年度の負担を断定することはできない。議論の進行に合わせ、まず国の案、次に居住地の市区町村が公表する保険料表を確認したい。

負担能力に応じた配分には理由がある。しかし「制度を維持するため」で議論を閉じるべきではない。引き上げが必要な規模、負担が急変する人への対策、地域による違いを数字で示して初めて、賛否を判断できる。

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