人がいなければ会社が止まる。人をつなぎ留めるために賃金を上げると、今度は会社の資金が尽きる。
人手不足倒産の増加は、日本がこの行き詰まりを解消できていないことを示している。
そこへ、文章作成、翻訳、情報整理などを担うAIが急速に入ってくる。人間の仕事の一部を減らせるようになる一方、人の手や判断を必要とする現場では、働き手を確保できない。
私は、この二つが同時に進むことに強い危機感を持っている。AIで仕事を効率化できても、その利益が一部に集中し、残る現場が安い労働で支えられるなら、社会の格差はさらに深くなる。
企業のAI活用と、仕事に必要な技能を学び直すリスキリングは、すでに待ったなしだ。同時に、その転換を誰の利益のために進めるのかが問われている。
240件の倒産が示す「人を雇い続けられない」現実
東京商工リサーチが2026年10月5日に公表した調査によると、2026年度上半期、つまり4〜9月の人手不足関連倒産は240件。前年同期の205件から17.0%増え、2013年の調査開始以来、年度上半期として過去最多となった。
このうち、人件費高騰による倒産は130件で、前年同期比75.6%増。求人を出しても応募が来ない問題に加えて、人を雇い続ける費用に耐えられない企業の問題が大きくなっている。
業種別では、サービス業他が91件、建設業が55件。この二つで全体の約6割を占める。人の働きが事業を支える分野で、経営の限界が表面化している。出典:東京商工リサーチ「2026年度上半期の『人手不足』倒産動向」
調査の対象は、負債1,000万円以上の全国企業倒産のうち、求人難、従業員退職、人件費高騰に関わるものだ。後継者難や、休廃業は含まれていない。
働く人にも生活がある。物価が上がるなかで、待遇を据え置けば人は離れる。私は、賃上げを支える取引価格と事業の仕組みに、この問題の核心があると考える。
AIで減らせる仕事と、人が足りない現場は一致しない
AIによる変化は、すでに事業の収益に影響し始めている。
東京商工リサーチの別の調査では、比較可能な翻訳業100社の2025年度の利益合計が、2022年度から70.7%減少した。同社は、AI翻訳の進展による価格競争を指摘している。
AIとの競合が破産の一因になった翻訳会社についても、関係者の説明を紹介した。調査は利益減少の全原因をAIに結びつけてはいないが、業態を見直す圧力が生じていることを伝えている。出典:東京商工リサーチ「翻訳業が苦境、利益は3年で7割減」
建設現場の作業員や介護の担い手を確保するには、資格、経験、勤務地、勤務時間、賃金などの条件を整える必要がある。翻訳や書類作成をAIで効率化しても、人がそのまま別の現場へ移れるわけではない。
国際労働機関(ILO)は2025年、世界の雇用の約4分の1が、生成AIの影響を受けうる職業に属すると推計した。仕事が丸ごと置き換わるより、仕事の中の個々の作業が変わることが主になるとみている。約4分の1という数字は、失業者数の予測ではない。出典:ILO「Generative AI and jobs: A refined global index of occupational exposure」
今後、AIが担える作業の範囲は広がる可能性が高い。会社は、従来の人数や役割分担をそのまま維持する前提では動けなくなる。
同時に、日本では働き手の土台になる人口が減っていく。国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、15〜64歳人口は2020年の7,509万人から2045年に5,832万人へ減る。
出生と死亡について「中位」の仮定を置いた推計だ。就業者数そのものの予測とは異なるが、人材確保が一時的な景気の問題にとどまらない背景を示している。出典:日本の将来推計人口・2023年推計
企業と社会が用意すべきなのは、移る先の仕事を学び、その間も生活を維持できる条件だ。AIで作業が減ることと、必要な現場へ働き手が移れることの間には、その準備が要る。
会社は給与に加え、社会保険料も負担する
人を雇う会社は、給与に加え、社会保険料なども支払う。
たとえば、厚生年金の保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担する。会社負担は、標準報酬月額や標準賞与額に対して9.15%。健康保険などの負担も加わる。出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
社会保険は、医療や老後の生活を支える仕組みだ。その保障を維持しながら、人を雇い、賃金を上げる企業の負担をどう支えるかが問題になる。
税の納付も含めた資金繰りが厳しくなれば、採用や教育、設備更新、AI導入に回す資金が削られる可能性がある。雇用を続けられるかは、こうした費用も含めて考える必要がある。今回の倒産調査では、税や社会保険料が倒産にどれだけ影響したかは示されていない。
経済産業省が公表した2026年3月の価格交渉促進月間の調査では、回答した受注側中小企業が、労務費の上昇分を取引価格に反映できた割合は50.0%だった。資料では、この割合を「労務費の転嫁率」と呼んでいる。賃金の支払い額を表す数字とは異なる。出典:経済産業省「価格交渉促進月間・2026年3月の調査結果」
賃上げを求めるなら、その費用が取引先や最終的な価格へ届く経路も整えなければならない。発注側が安さを求め続け、受注側だけに賃上げと投資を迫る関係は、いずれ事業の継続を壊す。
少数の高給層と、不安定な現場労働へ分かれる危険
私が懸念するのは、AIを使って事業を設計し、判断と利益を握る少数の人と、AIが担えない作業を低い待遇で引き受ける多数の人へ、雇用が分かれていくことだ。
私は、事務や調整の仕事が縮小し、残る現場の仕事が細かく分けられ、必要なときだけ契約する形へ変わるリスクを懸念している。企業が変化のリスクを働き手へ移そうとすれば、有期雇用や外部委託を増やす誘因は強まる。
これは今後についての私の見立てだ。今回の倒産調査が、そうした雇用の変化を示したものではない。
非正規雇用にも、社会保険の加入要件や、解雇・雇止めのルールが適用される。雇用形態を変えても、会社はそれぞれの要件に沿って保険料を負担し、契約終了のルールを守る必要がある。厚生労働省:社会保険の適用、労働契約の終了に関するルール
それでも、会社が長期の育成や雇用を引き受けず、契約終了や仕事量の減少のリスクを個人へ寄せるなら、働く人は将来の生活を見通しにくくなる。
現場の仕事には、熟練も責任もある。建設や介護などの仕事を、単に「手足として働くだけ」と扱う発想そのものが、人材を遠ざける。AIで置き換えにくく、社会に必要な仕事なら、その必要性が賃金と待遇に反映されてしかるべきだ。
AIを扱えるかどうか以上に、AIで生まれた利益を誰が持ち、誰が仕事の不安定さを引き受けるのか。その配分が格差を左右する。
リスキリングを、従業員の自助努力で終わらせるな
AIの利用を避け続ける方針では、コストと仕事の変化への対応が遅れる。私は、AIを使う技能を学び直すことと、会社全体の業務を組み替えることを、いま経営の中心に置くべきだと考える。
学び直した技能を仕事で使えるようにすることも、会社の役割だ。
従業員がAIで作業を速くしても、同じ内容を別の帳票へ転記し、古い承認手続きを回し続けていれば、会社全体の負担は十分に減らない。学んだ技能を使う場がなければ、研修も形だけになる。
経済産業省とIPAのデジタルスキル標準も、生成AIを個人の技能に加え、業務プロセスや製品・サービスへ組み込むことを対象としている。出典:IPA「デジタルスキル標準を改訂」
企業が急ぐべきなのは、次の転換だ。
- 経営者が仕事を棚卸しする。 AIで補助できる作業、人が判断する作業、そもそも廃止できる作業を整理し、受注から請求までの流れを組み直す。
- 勤務時間内に学べる条件をつくる。 正社員だけでなく、現場の担当者や非正規の人にも、必要な道具と学習時間を用意する。
- 実務の中で試し、効果を測る。 削れた時間に加えて、誤り、確認の負担、顧客対応の質を確かめる。機密情報の扱いと最終判断の責任も決める。
- 効率化の成果を、人の処遇へ返す。 配置転換、賃金、教育、現場の負担軽減に結びつける。会社が何へ還元したかを示す。
資格や経験の必要な現場へ移るには、学習と準備に時間がかかる。技能の習得と配置転換の準備は、仕事がなくなる前から始める必要がある。
AIの利益を、一部だけが受け取る社会にするな
AIは、経験の浅い人の力を引き上げる使い方もできる。
顧客対応担当者5,172人を対象に、2020〜2021年に導入されたAI支援を分析した研究では、時間当たりの解決件数が平均15%増えた。技能や経験が少ない人ほど改善が大きく、熟練者の改善は小さかった。一部の品質指標は低下した。
単一企業とその委託先の事例という範囲では、知識を共有して働く人を支える可能性が確認された。日本全体の雇用や賃金への影響は、この研究の対象外だ。出典:Brynjolfssonほか「Generative AI at Work」
AIが格差を広げるか、働く人の力を底上げするかは、導入の仕方と利益の分け方に左右される。
企業には業務転換と育成を求める。発注側には、人件費の上昇を取引価格に反映する責任を求める。政府には、税・社会保険の負担と保障を一体で検討し、学び直しと転職の間も生活を維持できる条件を整えるよう求めたい。
政府は、人を雇い、育てる企業に負担が偏っていないかを検証すべきだ。AI導入への支援では、導入件数や効率化した金額に加え、働き手の技能、賃金、労働時間がどう変わったかまで評価する必要がある。
小さな会社や非正規の働き手にも、学ぶ時間と費用を確保できる支援が要る。そこを本人や会社の努力だけに任せれば、AIを使って成長する側と、変化の費用を引き受ける側の距離は開いていく。
人手不足倒産を、弱い企業が退出したという話だけで片づけてよいのか。その地域で必要な建設やサービスが、適切な待遇で維持できるのかまで問うべきだ。
企業のAI業務転換とリスキリングは急務であり、待ったなしだ。人を雇い、育て、必要な現場を支える条件の見直しも、同じ速度で進めなければならない。
AIが広がる時代に、働く人の生活だけが不安定になっていく。その転換を、社会の進歩として受け入れるつもりはない。
資料確認日:2026年10月5日。将来の雇用構成や格差への影響に関する記述は、資料を踏まえた筆者の論評・見通しです。
執筆・検証:カネさん(政経プラスチャンネル運営)+ChatGPT

