ワンヘルスセンターはいくら?約204億円の整備費と100億円ボンドを分けて検証

地方自治・議会

福岡県のワンヘルス政策には、「約3億円」「約204億円」「100億円」という大きな数字が並びます。しかし、三つは別の支出です。混ぜて批判すれば実態を見失い、分けずに説明すれば県民は判断できません。何に、いくら使うのか。県と県議会の公表資料、報道をもとに整理します。

2026年9月10日追記: 以下の従来説明に、センター総事業費221億円との報道、2022年基本計画の概算内訳、県とみやま市の見直し状況を追記しました。既存の約204億円は公表資料上の二施設の見込額です。221億円との費目・時点の違いは未確認のため、一括して置き換えていません。今回の追記以外の記述は、従来の情報基準日に基づくものです。

この追記で扱う221億円の報道と見直しの論点は、9月10日の解説動画で取り上げています。金額の範囲や当事者の説明を文章で確かめたい方は、note「221億円で『後戻りできない』? ワンヘルス事業を見直す理由」もあわせてお読みください。

▼動画で見たい方はこちら

結論|三つの金額は同じ事業の総額ではない

最初に結論を示します。

金額何の費用か確認できる範囲
約3億円筑後広域公園のモニュメントテレビ西日本が報道。蔵内勇夫・福岡県議会議長は「2億数千万円」と説明
約204億円ワンヘルスセンターを構成する二施設の移設統合事業費福岡県議会Q&Aでは、保健環境研究所約163億円、動物保健衛生所約41億円
100億円福岡県が発行予定のワンヘルスボンドセンターだけでなく、河川、道路、防災公園など複数事業の資金調達
約58億円過去5年間の関連予算をまとめた報道上の集計複数年度・複数事業の合計。分類範囲の確認が必要
約1億3000万円8月21日時点で凍結・見合わせの対象と報じられた事業費センター費用から差し引く数字ではない

つまり、「3億円のモニュメントに100億円を使う」わけではありません。「ワンヘルスセンターの建設費が100億円」という説明も正確ではありません。

福岡県議会が示した二施設の事業費を足すと約204億円になります。ただし、これは県議会が公表した移設統合事業費です。情報システムや供用開始後の運営費など、ワンヘルス関連支出すべてを合算した最終総額と同じとは限りません。

ワンヘルスセンター約204億円の中身

ワンヘルスセンターは、単なる展示施設ではありません。福岡県は、老朽化した保健環境研究所と筑後家畜保健衛生所をみやま市へ移転し、人、動物、環境を一体的に調査・研究する拠点として整備しています。2027年度中の供用開始を目指しています。

福岡県議会のQ&Aに記載された移設統合事業費は、次のとおりです。

  • 保健環境研究所:約163億円
  • 動物保健衛生所:約41億円
  • 合計:約204億円

県議会は、両施設とも建設から50年以上が経過し、ワンヘルス政策の有無にかかわらず建て替えが必要だったと説明しています。みやま市から土地と一部建物の無償譲渡を受け、経費を抑えたともしています。

施設の老朽化と感染症対策の必要性は、整備を考える正当な理由です。それで約204億円の支出が自動的に妥当になるわけではありません。事業費が当初計画からどう変わったのか、入札と契約は適切だったのか、完成後にどの成果を測るのかまで示して、初めて県民は費用に見合うかを判断できます。

9月10日追記:221億円報道と約204億円は単純に差し引けない

動画で紹介した西日本新聞の配信記事は、センターの総事業費を2026年度時点で221億円と報じています。今回確認したのは動画内に表示された記事本文で、報道原本との全文照合はできていません。

一方、福岡県の8月31日更新資料には、保健環境研究所約163億円、動物保健衛生所約41億円という見込額が示されています。合計は約204億円ですが、221億円との差について、対象経費と積算時点をそろえる資料は今回確認できていません。

したがって、差の17億円をそのまま追加工事費や浪費とみなすことはできません。221億円も最終決算や支払済額ではなく、報道上の総事業費として扱います。

2022年の約69億円は、研究棟と関連工事の概算

2022年基本計画の第8章・印刷35頁では、概算工事費の内訳は次のとおりです。

費目2022年基本計画の概算
研究棟新築67.4億円
付属施設1.2億円
外構・舗装0.3億円
計画に示された合計約69億円

約69億円は研究棟本体だけの金額ではなく、付属施設などを含む概算です。センター全体の総事業費とも異なります。

西日本新聞の同記事は研究棟の概算工事費が約127億円になったと説明していますが、2022年と同じ積算範囲かは未確認です。「69億円のセンターが221億円になった」という比較にはできません。

また、本記事の次の節に出てくる「2026年度当初予算ベースでセンターに69億円を充てる」という説明は、ワンヘルスボンドの充当先について報じられた数字です。ここで示した2022年の概算工事費とは、年次も意味も異なります。同じ69億円という数字でも、同一の費用として重ねないよう注意が必要です。

県には、当初概算、現在の計画額、契約額、支払済額を同じ費目で並べた説明を求めます。建設を続ける判断にも、仕様を見直す判断にも、その比較が必要です。

100億円のワンヘルスボンドは建設費の総額ではない

ワンヘルスボンドは、福岡県が機関投資家向けに発行する市場公募債です。発行予定額は100億円。県にとっては寄付金ではなく、将来返済する借金です。

福岡県の発表では、調達資金の主な充当先として次の四つが挙げられています。

  1. ワンヘルスセンターの整備
  2. 生物の生息・生育環境に配慮した河川改修
  3. 自然環境を活用した道路整備
  4. 防災拠点となる公園整備

100億円はセンターだけに投じられる金額ではありません。複数の事業を束ねた資金調達です。「ワンヘルス」という名称が付いていても、実際の使途は施設、河川、道路、公園に分かれます。

確認すべきなのは、看板の名前ではなく資金の流れです。100億円のうち各事業へいくら充当したのか。県債の償還期間と利率はどうなったのか。既存の通常県債ではなく、ワンヘルスボンドとして発行することで、県民にどの利益が生じたのか。発行後の実績を一覧で公表する必要があります。

その後の動きとして、テレビ西日本は2026年8月20日、服部誠太郎知事がワンヘルス関連事業を根本から見直すと表明する一方で、県が8月にワンヘルスボンドで100億円を調達する予定だと報じました。県の担当者は充当先を「やらなければいけない事業」と説明し、2026年度当初予算ベースでワンヘルスセンターに69億円を充てるとされています。見直しの対象と、ボンドで資金を充てる事業の線引きは、今後の公表資料で確認が必要です。

約3億円のモニュメントは何を生んだのか

テレビ西日本は、筑後広域公園に約3億円をかけてモニュメントが建設されたと報じています。蔵内勇夫・福岡県議会議長は記者団に「2億数千万円かかっています」と述べ、「将来、評価されると思う」「発祥の地にはシンボルが必要」と説明しました。

福岡県も、県民からの「3億円は無駄ではないか」という意見に対し、公園のメインエントランスに置く象徴的なランドマークだと回答しています。

私は、この説明だけでは足りないと思います。

約3億円を使った理由が「シンボルが必要だから」で終わるなら、費用の妥当性を検証できません。来園者数や公園内の回遊性は増えたのか。地域経済への効果はあったのか。維持管理費はいくらか。より低い費用で同じ効果を得る案はなかったのか。完成後の数字で答えるべきです。

ワンヘルスの理念には、人獣共通感染症への備え、動物の健康、環境保全という政策的な意義があります。理念に意義があることと、個々の支出が妥当であることは同じではありません。政策を守りたいのであれば、批判を「理解不足」で片づけず、契約と成果を開示する方が筋です。

年18億円から約5億円へ|予算の数え方も変わった

福岡県議会のQ&Aは、ワンヘルス関連予算の範囲を見直したことも明らかにしています。従来は、有害鳥獣の侵入防止柵や研究所の建て替えなど、本来は別の目的で計上すべき事業まで関連予算に含めていたと説明。整理後は、一昨年度の約18億円から昨年度の約5億円になったとしています。

支出そのものを14億円近く削った、という意味ではありません。何を「ワンヘルス関連予算」と呼ぶか、集計基準を変えた結果です。

この変更は、ワンヘルスの数字を読む際の注意点を示しています。同じ道路や研究所の整備でも、集計の仕方によって「ワンヘルス予算」に入ったり外れたりします。県は年度ごとに対象事業、当初予算、決算、財源、成果を同じ形式で公開すべきです。名称ではなく、事業単位で追える資料が必要です。

約58億円と約1億3000万円の意味

報道では、福岡県がワンヘルス関連として整理した過去5年間の予算が約58億円に上るとされています。約58億円は一つの施設や事業の費用ではなく、複数年度・複数事業を合算した報道上の集計です。

福岡県議会のQ&Aは、従来の関連予算に、有害鳥獣の侵入防止柵や研究所の建て替えなど、本来は別の目的で計上すべき事業まで含めていたと説明しています。整理後の関連予算は、一昨年度の約18億円から昨年度の約5億円になりました。支出を一度に13億円減らしたという意味ではなく、集計範囲を見直した結果です。

8月21日、服部誠太郎知事は、未着手・契約前の事業に加え、着手済みの「ワンヘルスの森づくり」関連事業の一部も見合わせると表明しました。凍結・見合わせの対象は総額約1億3000万円と報じられています。県は8月25日の行政改革審議会で、ワンヘルス施策を正式に諮問する予定です。

約1億3000万円は、約204億円のセンター整備費から単純に差し引く金額ではありません。事業の凍結は必要性と費用対効果を再審査する手続であり、不正支出が認定されたという意味でもありません。

9月10日追記:県は諮問を実施、みやま市は一部事業を見直し

上記で予定として記載した行政改革審議会への諮問は、8月25日に行われました。県の公表内容は、これまでの施策の必要性・妥当性の検証、施策の整理、今後の方向性を審議会に求めるものです。諮問の実施は、支出の不正を認定したという意味ではありません。県の公表資料

松嶋盛人・みやま市長も9月7日の見解で、11月開催予定のワンヘルスフェスティバルを中止すると公表しました。市民から事業への疑念が寄せられ、協力する学校や団体への批判を懸念したためです。

準備の整った啓発事業は実施し、今後の開催は関係者と協議します。教育、ゼロカーボン、食育・地産地消、有害鳥獣対策など、市が主体の事業は続けるとしています。

市のイベント中止は、県のセンター建設を中止する決定ではありません。県の施設整備と、市の推進事業では実施主体も対象も違います。見直しを評価する際は、どの事業を、誰が、どう変更したのかを個別に確認する必要があります。

よくある質問

Q1.ワンヘルスセンターの建設費は100億円ですか?

いいえ。福岡県議会のQ&Aでは、保健環境研究所約163億円と動物保健衛生所約41億円、合計約204億円の移設統合事業費が示されています。100億円は、センターを含む複数事業に充当する県債の発行予定額です。

Q2.約3億円はセンターの建設費ですか?

違います。約3億円は、筑後広域公園のモニュメントについて報じられた金額です。蔵内勇夫議長は「2億数千万円」と説明しています。現段階では報道値として扱い、契約額や内訳は県の原資料で追加確認する必要があります。

Q3.ワンヘルス政策そのものが不要ということですか?

この記事は政策全体を不要と決めつけるものではありません。感染症対策や老朽施設の更新には具体的な必要性があります。問うているのは、各事業の費用、契約、成果が県民に検証できる形で示されているかです。

まとめ

  • 約3億円は筑後広域公園のモニュメントについての報道値
  • 約204億円は、県議会が示した二施設の移設統合事業費の合計
  • 100億円はセンター、河川、道路、公園などに充当する県債の発行予定額
  • 年約5億円という数字は、関連予算の集計基準を整理した後の額
  • 問うべきは「ワンヘルス」という看板ではなく、事業ごとの契約と成果

三つの金額を分けると、議論すべき場所が見えてきます。理念を信じるか疑うかではありません。約3億円、約204億円、100億円のそれぞれについて、県が使途と成果を説明できるかが問われています。


政経プラスチャンネルでは、地方議会、公金、政治と制度の問題を一次資料から解説しています。
https://www.youtube.com/@okaneplus

動画では触れきれない資料や経緯はnoteでも整理しています。
https://note.com/poliplus

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確認資料


情報基準日:2026年8月24日
執筆・編集:政経プラス編集部/ワンヘルス事業の凍結とは|何が止まり、何が続くのか

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