福岡県は、未着手・契約前のワンヘルス事業と、着手済み事業の一部を当面見合わせます。建設中のセンターの工事は続けます。
服部誠太郎知事は2026年8月、TNCの単独インタビューで、未着手のワンヘルス関連事業を当面凍結し、政策を「根底から見直す」と表明しました。5年間で約58億円にのぼった関連予算はなぜ膨らみ、何が止まり、何が続くのか。この記事では、凍結表明の中身を一次情報と報道に基づいて整理します。
ワンヘルス政策とは何か
ワンヘルスとは、人と動物、環境の健康は互いにつながっているという考え方に基づき、感染症対策などに一体的に取り組む理念です。福岡県では、世界獣医師会会長も務める蔵内勇夫・県議会議長が旗振り役となり、2021年就任の服部知事も県政の柱として推進してきました。理念自体は国際的にも広く共有されているものです。
一方、福岡県での「事業」としてのワンヘルスには批判が集まってきました。TNCが2026年7月に実施した世論調査では、ワンヘルス政策について「予算の使い方が不適切」または「予算を投じる必要がない」と答えた人が約7割を占めたと報じられています。
5年で約58億円|予算はなぜ膨らんだのか
報道によれば、県のワンヘルス関連予算はこの5年間で約58億円にのぼります。この点について服部知事は、インタビューで注目すべき説明をしています。イノシシから田畑を守る防護柵の設置や有害鳥獣の捕獲経費など、「主たる目的は別にある事業」に「ワンヘルスという冠」を付けて区分・公表してきた結果、額が膨らみ、「ワンヘルスと言えば予算が付く」といった疑念や誤解を生んでしまった。知事自身が「これは我々の過ちであった」と述べています。
つまり約58億円という数字は、純粋なワンヘルス固有の事業費というより、既存事業への「冠付け」で集計が膨らんだ面があるというのが知事の説明です。ただし、どの事業が「冠付け」でどれが固有事業なのか、内訳の詳細な検証はこれからの課題として残っています。
批判が集まった事例|3億円モニュメントと1年で閉園したパーク
個別事業への批判も相次ぎました。報道で取り上げられた代表例は二つあります。
一つは、蔵内議長の地元・筑後市の公園に整備されたワンヘルスのモニュメントで、投じられた金額は約3億円とされます。もう一つは、福岡市の舞鶴公園に約6,000万円を投じて整備された「ワンヘルスパーク」です。目玉だった馬術体験の利用者が1日平均1人にとどまり、赤字のまま1年で閉園したと報じられています。
モニュメントについて蔵内議長は「将来評価される」「ワンヘルス発祥の地にはシンボルが必要」と意義を強調しており、評価は分かれています。
約58億円は関連予算の総額、約1億3,000万円は見直し対象
福岡県が説明した「5年間で約58億円」は、ワンヘルス関連として整理された複数事業の総額です。既存事業にワンヘルスの名称を付けて集計したものも含まれるため、すべてが新規の施設整備や啓発事業に使われた、という意味ではありません。
約1億3,000万円は、2026年8月21日の知事会見で示された見合わせ対象の総額です。8月12日に発表した未着手・契約前の事業約1,800万円に、着手済み事業のうち見合わせが可能な部分を追加しています。58億円全体の削減額ではありません。
約58億円は政策関連事業の予算集計、約1億3,000万円は今回の見合わせ対象です。実際に使った金額は執行額で確かめる必要があります。
確認した一次資料
関連解説:福岡県政の予算を一次資料で読む/行政改革と事業見直しの論点
何が凍結され、何が続くのか
見合わせの対象は、未着手・契約前の事業と、着手済み事業の一部です。建設中のセンターの工事は続きます。
県は有識者による行政改革審議会に政策の評価を諮問し、提言が出るまでの期間、事業を見合わせるとしています。8月21日には、ワンヘルスの森づくり推進費に含まれる森林浴ガイドシステムの開発、愛玩動物との触れ合いスペースの工事、仮設管理事務所の設置についても見合わせを発表しました。すでに完成したモニュメントは対象に含まれません。
継続されるのは、みやま市で建設が進む「ワンヘルスセンター」(総事業費約200億円)です。老朽化した県保健環境研究所の移転などを含む施設で、工事は続きます。ただし服部知事は名称について「仮称のレベル」とし、「県民から見て納得いかないような名前にこだわる必要はない」と変更の可能性に言及しました。地元のみやま市議会は2026年8月、政策の必要性・妥当性の検証を県に求める意見書を全会一致で可決しています。市は用地(7〜8億円相当と報じられる)を県に無償譲渡した経緯があり、地元にも不安の声があるためです。
今後の方向性について知事は、感染症や薬剤耐性菌対策など「人の命を守る」分野に絞り込む考えを示しています。
▼関連記事:ワンヘルスセンターはいくら?約204億円の整備費と100億円ボンドを分けて検証
知事は議長への過度な配慮を認め、関係の見直しを表明
今回のインタビューでもう一つ注目されたのが、服部知事と蔵内議長の関係の変化です。知事は「蔵内さんに対する過度な配慮というものが、私も含め執行部側にあった」と認め、「忖度が生じるような関係は一切断っていく」と述べました。これに対し蔵内議長は「福岡県から発信したワンヘルスは、すでにもう国策となっている」と従来の立場を崩していません。政策を共に推進してきた二人の認識の違いが、はっきりと表面化した形です。
この背景には、県議会をめぐる金銭授受疑惑や高額な海外視察など、一連の問題で県政への視線が厳しくなっていることがあります。ワンヘルスの見直しは、単独の政策論ではなく、県政と議会の関係全体の見直しの一部として進んでいると見ることができます。
▼関連記事:蔵内勇夫の人脈を可視化|県議会・獣医師会・ワンヘルスをつなぐ人物と組織/蔵内勇夫議長とは何者か|経歴・ワンヘルス・金銭授受疑惑と辞意を整理
次に公表が求められる、事業評価・予算内訳・センター運営
県に公表を求める内容は、次の三つです。
- 事業評価:行政改革審議会が、どの事業を固有のワンヘルス事業と認め、どこを削るよう提言するか。
- 約58億円の内訳:主目的が別の既存事業にワンヘルスの名称を付けた分は、どの事業でいくらか。
- センターの名称と運営計画:約200億円の施設をどう運営し、県民の理解を得るか。
審議会の提言や県の公表があり次第、この記事も更新します。
よくある質問
Q1. 福岡県のワンヘルス事業は中止になったのですか?
建設中のワンヘルスセンターの工事は続きます。見合わせるのは未着手・契約前の事業と着手済み事業の一部で、行政改革審議会の提言が出るまでの当面の措置です。服部知事は感染症対策など「人の命を守る」分野への絞り込みを示しています。
Q2. ワンヘルスに5年で58億円も使われたのはなぜですか?
服部知事の説明によれば、防護柵設置や有害鳥獣捕獲など主目的が別の既存事業に「ワンヘルスの冠」を付けて区分・公表してきたため、集計額が膨らんだとされます。知事は「明確な基準もなく」「我々の過ちであった」と述べています。詳細な内訳の検証は今後の課題です。
Q3. ワンヘルスという考え方自体が問題なのですか?
理念自体は国際機関も採用する広く認められた考え方です。問題視されているのは、福岡県での事業の進め方、つまり予算の付け方の基準の曖昧さや、モニュメントなど費用対効果の説明が難しい支出です。理念と事業運営を分けて見る必要があります。
事業の一部は見合わせ、センター工事は継続
- 服部知事は2026年8月、未着手・契約前の事業の凍結と政策の根本的な見直しを表明し、21日には着手済み事業の一部も見合わせ対象に追加した
- 5年間で約58億円の関連予算は、既存事業への「冠付け」で膨らんだ面があると知事自身が説明し、「我々の過ち」と述べた
- 約3億円のモニュメントや1年で閉園したワンヘルスパークなどに批判が集まり、世論調査では約7割が予算の使い方を疑問視したと報じられている
- 建設中のワンヘルスセンター(約200億円)は継続だが、名称変更の可能性があり、地元みやま市議会は検証を求める意見書を可決した
- 知事は蔵内議長への「過度な配慮」を認めて関係を見直す姿勢を示しており、議長との認識の違いが表面化している
行政改革審議会の答申と予算内訳の公開が、次の大きな節目です。続報が出次第、更新します。
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