斎藤知事の個人SNSに県職員の写真|公務との境界を検証

地方自治・兵庫県政

兵庫県の斎藤元彦知事は、個人で運用するX、Instagram、YouTubeなどで、秘書課をはじめとする県職員が公務中に撮影した写真を使用しています。

知事は一連の記者会見で、「県政のPRに資する」「問題ない」「適宜適切に活用している」と説明してきました。県職員が撮影した写真を知事が発信すること自体は、直ちに違法とは断定できません。

しかし、個人アカウントと県の公式媒体は同じではありません。誰が写真を選び、どの手続で渡し、どこまでを公務とし、将来の選挙運動や政治活動とどう区分するのか。公開資料を読む限り、その運用基準は十分に見えていません。

この記事では、問題を「SNSを使ってよいか」という単純な賛否ではなく、公的資源と個人発信の境界として整理します。

▶元動画はこちら
【配信より】斎藤元彦知事の特別職論法・そして公務中スマホ撮影は適正なのか

※元動画は2026年7月8日公開。今回扱う中心部分は6分27秒から9分51秒付近です。

結論|違法と断定できなくても線引きは必要

現時点で確認できる事実は、次の三つです。

  1. 写真の一部は、県職員が知事公務の記録用として撮影している
  2. 知事は自身のSNSを「個人として運用している」と説明している
  3. その個人アカウントで、県職員が撮影した写真を県政PR目的で使用している

問題は、この三つを接続する明文化された基準が見えないことです。

「県政PRになる」という目的があれば、どの写真でも個人アカウントへ移せるのか。県の公式媒体と個人媒体で、記録保存や削除、選挙期間中の利用、職員の作業範囲に違いはないのか。目的の説明だけでなく、運用の仕組みを示す必要があります。

発端|649枚中271枚との指摘

2026年4月9日の知事会見で、フリー記者がこの問題を取り上げました。

質問者は、情報公開請求で得た資料を調べた県民の集計として、2025年4月から11月までに公開された649枚のうち、271枚が知事個人のXやInstagramで使われていたと説明しました。また、県の広報媒体には使われず、知事の個人アカウントで使用されていたとも指摘しました。

この枚数と利用状況は、会見で質問者が示した内容です。県が独立した調査結果として公表した数字ではないため、その点は分けて読む必要があります。

斎藤知事は、公務に関する内容であり県政PRにもなるため、利用は「適切で問題ない」と回答しました。以後の会見でも基本的な説明は変わっていません。

県職員は何のために撮影しているのか

県側の説明では、秘書課などの職員が撮る写真は、知事公務や行事の「記録用」です。

4月22日の会見では、知事は通常の行事写真について、秘書課職員らの判断で撮影されていると説明しました。一方、県公館の桜を背景にした写真については、知事が自身の携帯電話を職員へ渡し、撮影を依頼したことも認めています。

この説明から分かるのは、少なくとも二つの撮影経路があることです。

  • 県の端末などを使い、職員が公務記録として撮影する写真
  • 知事個人の端末を職員へ渡し、県施設のPR目的で撮影してもらう写真

どちらも県政PRにつながる可能性はあります。しかし、端末の所有者、データの管理者、撮影を指示した人物が異なれば、写真の管理方法や公務記録としての扱いも変わり得ます。

個人アカウントと公務のねじれ

5月26日の会見では、個人と公務の区分がより直接的に問われました。

知事は、SNSについて「個人のアカウント」で県政に対する考え方を紹介していると説明し、「齋藤元彦として実施」していると述べました。同時に、秘書課職員らが撮影した写真を個人として発信する際に活用しているとも答えています。

つまり、知事自身の説明をつなぐと、次の構造になります。

アカウントの所有・運用は個人だが、掲載する素材には県職員が公務で作成した写真が含まれる。利用目的は県政PRである。

この運用が直ちに公私混同になるとは限りません。首長が個人名義のSNSで自治体の施策や地域の魅力を発信することは、他の自治体でも見られます。

ただし、個人アカウントは任期後も本人に残り得ます。政治活動や選挙運動にも使える一方、県の公式アカウントは自治体の管理下にあり、担当部署や引継ぎ、記録保存の対象が明確です。この違いを無視すると、県のための広報と個人の政治的利益が外から区別しにくくなります。

特別職は免責を意味しない

元動画では「特別職」という説明が論点になりました。

地方公務員法3条では、公選によって就く知事は特別職に分類されます。また同法4条2項により、地方公務員法の規定は、法律に特別の定めがある場合を除いて特別職には適用されません。

ここで注意が必要です。

「一般職に適用される規定の一部が、知事には同じ形で適用されない」という制度上の説明と、「知事なら公的資源を自由に個人利用できる」という結論は別物です。

特別職であることは、選挙で選ばれ、一般職員とは異なる任用・服務の仕組みに置かれているという意味です。県の財産、公文書、情報資産、職員の勤務時間をどう扱うかという問題まで消えるわけではありません。

むしろ、首長は自らを監督・処分する上司が通常の組織内にいないため、公開された基準と説明による統制が重要になります。

公文書の保存をめぐる論点

4月9日の会見では、2025年3月以前の写真が情報公開請求時に廃棄済みで、不存在だったとの指摘も出ました。その後の会見では、撮影写真は随行時の行程確認などに使う「ロジ業務の参考」で、基本的な保存期間は6か月だという秘書課の説明が紹介されています。

兵庫県には、公文書等の管理に関する条例と公文書管理指針があります。公文書は内容や用途に応じて保存期間を設定するため、知事の写真だから全て長期保存しなければならないとは限りません。

一方で、県の施策や公務の実績を後から検証するために必要な写真なら、単なる短期のロジ資料と同じ扱いでよいのかという疑問が残ります。

さらに、県側のデータは保存期間後に廃棄されても、個人アカウントに投稿された写真だけが残る可能性があります。行政記録の本体より個人SNS上のコピーの方が長く残る状態は、公文書管理と情報公開の観点から整理が必要です。

収益化より先に確認すべきこと

個人YouTubeについては、広告収入などの有無を気にする読者もいるでしょう。しかし、今回確認した県の会見録だけでは、問題となった動画やアカウントの収益状況を確定できません。

以前、私が配信中に斎藤知事の YouTube を確認したときも、収益化の設定はオフになっていることを確認した記憶があります。

収益化を確認しないまま、「県職員が個人の利益のために働いた」と断定するのは避けるべきです。

収益の有無にかかわらず確認できる論点はあります。

  • 撮影と画像処理に職員の勤務時間が使われたか
  • 写真の選定・受け渡し・投稿作業を誰が担当したか
  • 同じ素材を県公式媒体でも利用できる仕組みだったか
  • 個人アカウントに提供する際の承認記録があるか
  • 任期終了時や選挙期間中の利用ルールがあるか

この五つが明らかになれば、公務として合理的な広報なのか、個人発信への便宜供与に近いのかを、感情ではなく事実で判断できます。

2026年6月まで続いた説明

6月3日の会見でも、知事は、秘書課などが撮影した記録用写真を県政PRに資するものとしてSNSで活用していると説明しました。新開地のイベントを扱った個人動画についても、神戸や商店街の魅力を伝える目的だとしています。

6月17日の会見では、個人としてSNSを運用し、県産品や県内の場所を発信していると回答。6月24日の会見でも、個人として情報発信を続け、県内消費などにつながればよいとの考えを示しました。

2026年7月18日までに確認した県の公開資料では、写真の利用をやめたとの発表は見当たりません。一方、個人アカウントへの写真提供を定めた新たな公開基準や、県と知事個人との利用手続が公表されたことも確認できませんでした。

「適宜適切」から一歩進んだ説明へ

県政PRには即時性が必要です。県の公式サイトだけでは届かない層へ、知事本人のSNSを通じて情報を届ける効果も否定できません。

だからこそ、「県政PRになるから問題ない」で説明を終わらせるべきではありません。

必要なのは、発信を禁止することではなく、誰にでも確認できる共通ルールです。

  1. 個人アカウントへ提供できる素材の範囲
  2. 承認者と受け渡し記録
  3. 職員が担当できる撮影・加工・投稿作業
  4. 県公式媒体との役割分担
  5. 政治活動・選挙運動との分離
  6. 投稿後の保存と情報公開への対応
  7. 任期終了後の素材利用

ルールが公開されれば、知事への批判だけでなく、職員側の判断負担も減らせます。次の知事が同じ運用を希望した場合にも、同じ基準で判断できます。

よくある質問

県職員が知事の写真を撮ること自体が問題なのか

知事の公務記録や県政広報のために職員が撮影すること自体は、不自然ではありません。論点は、県の業務で作成した写真を個人所有のアカウントへ移す際の目的、手続、保存、政治活動との区分です。

個人SNSで県政を発信してはいけないのか

発信自体を否定するものではありません。個人アカウントには公式媒体とは異なる到達力があります。ただし、公的素材や職員の作業を使う場合は、アカウントの所有関係と利用基準を明確にする必要があります。

知事が特別職なら一般職員と扱いが違うのか

地方公務員法上の位置づけは異なります。しかし、特別職であることだけで、公文書や県の情報資産をめぐる説明責任がなくなるわけではありません。

現時点で違法なのか

公開資料だけから違法と断定することはできません。逆に、知事が「問題ない」と述べたことだけで、全ての手続が適切だったと確認できるわけでもありません。判断に必要な運用基準と記録の公開が不足しています。

まとめ

斎藤知事の個人SNSには、県職員が公務中に撮影した写真が使われています。知事は県政PRを目的とする適切な利用だと説明していますが、個人アカウントと県公式媒体の境界、職員の作業範囲、写真の保存と利用手続は十分に可視化されていません。

問うべきは、知事個人への好き嫌いではありません。同じ運用を別の知事が行っても問題ないと言える、公開された共通基準があるかです。

映像と音声での解説はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=6bD3z4GVVMU

法的論点のさらに深い読み解きはnoteで
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