2026年9月30日更新/政経プラスチャンネル
山中竹春・前横浜市長が、10月18日投開票の市長選への立候補を表明した。職員へのパワーハラスメントを第三者調査で認定され、9月7日に辞職したばかりだ。私は、この出直し出馬はあり得ないと思う。問われているのは、候補者として名乗りを上げられるかではない。重大なパワハラが認定された人を、再び職員の人事権を持つ市長に戻してよいのか、という判断だ。
「第二の斎藤元彦を生んではならない」。これは両者の行為が同じだという意味ではない。問題を抱えた首長が出直し選挙で再選されることで、調査結果や被害を訴えた人への向き合い方が後景に退く。そんな政治の進め方を、横浜で繰り返してはならないという意味だ。
関連動画(政経プラスチャンネル/2026年9月30日公開)。
告発だけではない。市の第三者調査が重大なパワハラを認定した
横浜市が公表した第三者調査報告書は、調査対象の7事項の「ほとんどの項目について事実が存在した」と結論付けた。市長室で職員を怒鳴り、書類を机の上に投げつけた行為、「切腹」発言や銃で撃つまね、人格を否定する発言、勤務時間外の頻繁な連絡、市長室への「出禁」措置などを検討している。とりわけ報告書は、人事権を背景に職員を心理的に圧迫し、支配したこともパワハラに当たると評価した。
調査委員の総合評価は厳しい。個々の言動だけでなく、日常的・継続的な行為と組織への影響を見て、職員の尊厳を傷つけ職場環境を悪化させる「決して看過できない重大なパワハラ行為」があったと認定している。これはSNS上のうわさではない。横浜市が公表した調査の結論だ。
正確を期せば、告発内容のすべてが認定されたわけではない。2023年6月16日に机を叩いたという点や、写真展の会場で元市会議長の容姿を中傷したという点などは、事実の存否を認定するに至らなかった。だからこそ、認定されていない言動まで山中氏の行為として広めるべきではない。それでも、認定された事実だけで問題は十分に深刻だ。

746人を対象に調べた。それでも全容が確定したわけではない
報告書によると、特定の関係部署など746人を対象にした記名アンケートには294人が回答した。回答者のうち192人は、パワハラが疑われる行為を直接または間接に見聞きしたと答えている。この数字は全市職員に占める割合ではない。別の情報提供窓口にも244人から回答があったが、二つの経路を足して「回答者538人」とも扱えない。委員会は関係者57人への聞き取りと客観資料の確認も行った(報告書本文11~20ページ)。
調査期間は約4カ月半で、協力は任意だった。報告書自身、入手できなかった資料や十分に確認できなかった事実があり得ると記す。数字を大きく見せる必要はない。限界を示したうえでも、委員会の認定は重い。

深夜・休日の連絡は、職員の生活と周囲の仕事に波及した
時間外の連絡は「熱心な仕事」で片付けられない。報告書は、前人事部長とのやり取りについて、2025年8~10月に週末や午後10時以降の連絡が客観資料で確認できただけでも約15日あったと記す。緊急性の乏しい案件で対応を求め、その部長から部下にも作業が広がった。委員会は、職員に過度な負担を与えたパワハラと評価した(報告書本文54~62ページ)。
市長が一人に連絡しただけでも、部長が返答を整えるために別の職員を動かせば、負担は組織に連鎖する。勤務時間外の連絡をどこまで許すかは、市長本人の気分ではなく、緊急性と職員の休息を守るルールで決めるべきだ。
「出禁」と人事権への恐怖は、異論を言う機会を奪う
報告書は、市長室への「出禁」が存在し、特定の職員が案件について説明する機会を失った事例も認定した。一方、山中氏は部長級以上に説明者を絞ったのは効率化のためだと説明し、迅速な政策実行に役立ったという職員の見方も記録されている。問題は、会議人数を減らすこと自体ではない。特定の職員を理由や基準の見えないまま説明から外し、意見を届ける経路を狭めたことだ(報告書本文63~75ページ)。
さらに山中氏は、異動をめぐる「人事部からのジャブ」「粛清感」という発言をしたことを認めた。委員会は個々の異動をすべて「報復人事」と判定したわけではない。発言や複数の証言から不当な異動を推認し、人事権を背景にした心理的圧迫と職員支配を認定した(報告書本文75~82ページ)。任命権を持つ首長が、異論を述べる職員に異動の恐怖を感じさせた。この構造を見ないまま、謝罪だけで信頼を回復したとは言えない。
職員への影響を問う。因果が不明な数字は断定しない
報告書には、萎縮して異論を言いにくくなったこと、士気や人材育成への影響、病休などについて、職員側の証言や委員会の懸念が記されている。報告書は市民サービスへの影響も懸念する。ただし、個々の病休と山中氏の言動との医学的因果関係や、市民サービスが実際にどれだけ低下したかを数量で確定したわけではない(報告書本文89~91ページ)。
早期退職者は2023年度142人、2024年度173人、2025年度197人と増えた。報告書は、この増加の原因を一概に特定できないと明記する。この数字を「パワハラによって55人多く辞めた証拠」と使うのは誤りだ。一方、職員が市長の意向を先読みして口をつぐむようになれば、政策の問題点を早く見つける機会を失う。そこに市政のリスクがある。
市長を調査し、被害者を守る仕組みは整ったのか
横浜市には従来から職員向けのハラスメント対応指針や相談窓口があった。しかし報告書は、市長などの特別職が指針に明示されず、既存の調査委員会も一般職の事案を対象とするなど、首長を十分に調査・抑止する仕組みが弱かったと指摘した。副市長ら幹部の牽制も働かなかった(報告書本文21~24、87~88ページ)。「制度が何もなかった」のではなく、最も大きな権限を持つ人に制度が届いていなかった。
委員会は、特別職も対象にする条例、独立した相談窓口、相談・調査協力者への不利益取扱いの禁止、外部委員による調査と結果の公表などを提言した(報告書本文92~95ページ)。これらは提言であり、実施済みの救済措置ではない。市会は9月25日、被害職員の救済や組織運営上の課題分析を求める決議を全会一致で可決したと報じられた。決議と実際の救済も分けて見る必要がある。
柏原すぐる市議が公表した市からの回答によると、市は既存相談窓口を再周知し、特別職を対象とする条例化を検討している。ただ、同資料からは、独立した外部窓口の設置時期や一人ひとりへの救済が完了したことまでは確認できない。市長候補には、提言を「検討する」で止めず、実施主体と期限を示してほしい。
山中竹春・前横浜市長は、2026年9月29日の記者会見で横浜市長選への立候補を表明した。パワハラ問題で辞職した本人は、何を反省し、どう職員を守ると説明したのか。出馬会見の発言を、調査報告書の指摘と合わせて考えたい。
私が納得できないのは、「加害者だから対策ができる」という説明が、同じ市長の地位に戻る理由として語られている点だ。問題を起こした本人が反省を深めることと、再び職員への権限を持つことの間には、埋めなければならない隔たりがある。
山中竹春氏は出馬会見で何を説明したのか
9月29日の朝日新聞報道によると、山中氏は、ハラスメントを起こした理由を理解しているからこそ行える対策があると説明した。人を尊重する認識が足りなかったことを、問題の本質として挙げたという。
出馬の理由には、約束した政策をやり遂げる責任や、市民目線・生活者目線の市政を進めることを掲げた。政策を評価する有権者がいることまで否定するつもりはない。だが、政策への期待と、職員を率いるトップとして信頼を回復したかは、それぞれ確かめる必要がある。
同日の産経新聞の会見一問一答では、山中氏は今回の選挙を「みそぎ」にするつもりはないと述べ、謝罪も終わるものではないとの認識を示している。「選挙に出るから謝罪は済んだと考えている」と、本人の発言を逆に伝えてはいけない。
被害を受けた職員の苦痛や恐怖が、市長への復帰によって呼び起こされる可能性を問われた際には、真摯に向き合い、自分が直接対峙するのでなく、間に入る人を介する考えを示した。これは本人が述べた対応方針であり、職員がその方法に納得したことや、救済が済んだことを示すものではない。
「加害者だから対策ができる」は復帰の根拠になるか
山中氏が自身の行為を振り返り、再発防止に関わることには意味がある。ただ、その活動は市長に戻らなければできないのか。ここが、今回の動画で最も強く言いたかったことだ。
過去の言動を検証し、経験を踏まえて問題提起する方法は、市長の職以外にもある。同じ組織のトップに復帰すれば、被害を訴えた職員は、再びその人が強い権限を持つ職場で働くことになる。「自分なら理解できる」という自己評価だけで、その負担を職員に引き受けさせてよいとは思わない。
朝日新聞の同記事では、人事権を背景とする職員支配に関わる「粛清」という発言を問われ、報告書の内容を受け入れるとしながら、記憶がないと答えたことも伝えられている。ただし、報告書には、その言葉の使用自体は本人も認め、具体的な内容は覚えていないと説明した経過がある。会見での応答を、報告書の全面否認と扱ってはいけない。
記憶がないことだけで虚偽や反省の欠如を断定するつもりはない。それでも、本質を理解したと言うなら、自分が覚えていない行為についても、何を責任として引き受け、どう繰り返さないのかを説明してほしい。
被害を受けた人が復帰をどう感じるかを、私が一括して代弁することもできない。必要なのは、本人の再挑戦への意欲に、職員が同意しなければならない空気をつくらないことだ。
360度評価と外部チェックは、実施条件まで示してほしい
山中氏は、市長室への入退室や時間外連絡についてルールを設け、市長を複数の立場から見る360度評価や、外部の第三者によるチェックの必要性を述べたと報じられている。動画で扱った範囲では、これらは今後の仕組みに関する説明だ。設置済み、運用済みとして扱うことはできない。
私が懸念するのは、ルールがあっても、最も権限の強い市長を実際に止められなければ、職員が安心して使えないことだ。「外部の人に評価してもらう」だけでは、仕組みの働き方は見えてこない。
確かめたい点は具体的だ。評価者を誰が選ぶのか。市長に不利な評価も公表されるのか。相談や調査協力をした職員が、異動や仕事の割り振りで不利益を受けないよう誰が監督するのか。ルール違反が見つかったら、誰が是正を求め、対応の結果を確かめるのか。
横浜市の第三者調査報告書は、特別職を含む制度の整備、独立した相談窓口、不利益な取扱いの禁止などを提言している。本人の行動を縛るというなら、こうした提言との対応関係を示すべきだ。完成していない制度を完成済みのように評価せず、実施主体と期限を投票前の判断材料にしてほしい。
選挙の結果と、職員への責任を切り離さない
斎藤元彦・兵庫県知事は、2024年9月の県議会による不信任を受けて失職し、同年11月の知事選で再選された。兵庫県の第三者調査報告書が複数のパワハラを認定したのは、再選後の2025年3月である。この順序は間違えてはならない。
横浜では逆に、第三者調査の結論がすでに公表されたうえで、山中氏が辞職し、出直し選挙への出馬を表明した。兵庫の経過をそのまま重ねることはできない。だからこそ横浜の有権者は、投票前に報告書を読める。政策への賛否とは別に、職員の尊厳と市役所の意思決定を守れる人かを判断できる。
山中氏は、選挙をみそぎにしないと説明した。その言葉は、その後の行動を確かめる基準になる。仮に当選しても、調査で認定された行為や職員への説明・救済が消えるわけではない。
私は、この段階で山中氏が同じ地位へ戻ろうとすることに反対する。政策を続けたいという理由だけでは、再び職員に対する権限を預けてよいと判断できないからだ。報告書を受け入れるという説明、被害を訴えた職員への対応、市長自身を制約する制度を、別々に確かめなければならない。
横浜市長選は10月4日告示、18日投開票と市選挙管理委員会が案内している。有権者が知りたいのは、反省の強さを表す言葉の数ではない。報告書の指摘に何を答え、誰がどの権限で職員を守るのか。その答えを、投票前に示してほしい。
よくある質問
山中氏は選挙を「みそぎ」にすると発言したのか
動画内で確認した産経新聞の会見一問一答では、みそぎにするつもりはないと説明している。本稿は、その発言を踏まえ、選挙後も説明や職員への対応が続くかを問うものだ。
外部チェックや360度評価は、もう実施されているのか
今回確認した出馬会見の説明から、設置・運用済みとは確認できない。今後の仕組みに関する提案として扱っている。
職員への謝罪は終わったと説明したのか
本人は謝罪が終わるものではないとの認識を示している。仲介者を通じて向き合う考えも述べたが、職員の意向や救済の完了とは区別して確認する必要がある。
選挙で信任を得ることと、職員への責任を果たすことについて、noteでも考えました。無料記事「山中氏が戻っても、職員は安心して声を上げられるのか」をご覧ください。
出典・関連資料
- 横浜市「第三者による調査にかかる調査報告書」(2026年7月30日)。本文75ページの本人説明、93〜95ページの再発防止の提言を参照。
- 朝日新聞「立候補表明の山中竹春氏 パワハラ問題『私は加害者。本質を理解』」(2026年9月29日、関ゆみん・上野創)。記事本文を参照。
- 産経新聞「<横浜市長選・会見一問一答>『生活者目線の横浜を』 横浜市長選正式出馬の山中竹春氏」(2026年9月29日)。提供動画に表示された会見一問一答を参照。
- 横浜市選挙管理委員会「横浜市長選挙(令和8年10月18日執行)」。選挙日程を参照。
関連する制度と時系列は、横浜市長選2026|パワハラ辞職の前市長に再出馬要請、兵庫と何が違うのかで整理している。同記事は出馬表明前の経緯を扱っており、今回の正式表明は本稿で補っている。
共同制作:カネさん(政経プラスチャンネル)× GPT-6 Astra。最終編集・公開判断はカネさん。

