兵庫県議の増山誠氏は2026年10月3日、2023年の県議選に関する収支報告書に、支払う必要のなかった40万円を計上していたと説明し、その支出を削除修正したと発表しました。
本人が誤った報告を認めた以上、問題は領収書の見た目だけではありません。支払いを裏付けない書面が、なぜ選挙会計の報告に使われたのか。本人が作ったという「ひな形」と、中道一政氏が示した会話は、どう整合するのか。 そこに資料を伴う説明が必要です。
増山氏は金銭的利益が生じていないと主張しています。しかし、選挙の収支を正確に報告する責任は、本人がもうかったかどうかで消えません。説明動画を出して謝罪すれば十分だとする幕引きは、認められません。
本稿は2026年10月4日時点の公開資料に基づく批評です。本人の説明、当事者の否定、告発側の評価を区別して検証します。
本人の説明は「払わなくてよい40万円を計上した」
増山氏の説明動画「【お詫び】選挙運動用収支報告書の修正について」によると、2023年の兵庫県議選で借りた事務所について、家賃20万円を支払った一方、別途40万円の支出を報告していました。
机、椅子、コピー機、テレビ、受付カウンター、インターネット環境なども使えたため、増山氏自身が、それらを借りる費用を約40万円と見積もり、受け取る領収書のひな形を作成した、という説明です。
ところが貸主から、それらの費用は20万円の賃料に含まれると回答され、追加の支払いは不要になった。それでもひな形を破棄せず、他の領収書に紛れて出納責任者の手元に残り、急いで報告書を作成した際にも気づかなかった、としています。
また、この計上で税負担が減ったり、誰かから収入が得られたりすることはなく、純粋な誤計上だったと主張し、貸主と支援者らに謝罪しました。これが本人の説明です。
対象は、政治団体が毎年提出する「政治資金収支報告書」ではなく、選挙ごとに提出する「選挙運動費用収支報告書」です。政治の金をめぐる問題でも、書類と制度を取り違えて批判してはいけません。
県の公式公報には「選挙事務所費60万円」
追加で確認した兵庫県公報・2026年9月4日号外の72頁には、2023年4月9日執行の県議選について、増山氏の第1回報告の要旨が載っています。
- 家屋費60万円。その内訳として選挙事務所費60万円、集合会場費0円。
- 支出総額212万5,007円。
- 報告対象期間は2023年2月24日から4月23日。受理日は同年4月24日。
- 出納責任者は増山亜希子氏。
この公式資料によって、問題となった費用区分に60万円が報告されていたことを確認できます。ただし要旨には、個々の支払先や20万円・40万円の内訳、添付領収書はありません。「家賃20万円とは別に不要な40万円を計上した」という説明の根拠は、ここでも本人の動画と区別しておきます。
公報には「支出のうち公費負担相当額」として、ビラ12万円、ポスター85万円の計97万円も記載されています。これは支出総額の内数です。この記載から、問題の40万円を公費で受け取ったとはいえません。
訂正については、西脇亨輔氏が10月3日の動画の25分台で、選管で閲覧したとする書面の訂正前後の画像を示し、40万円の削除と「R8.10.2訂正」の表示を報告しています。本人の説明とは別の閲覧報告ですが、本稿では選管の訂正原本や受付記録を直接取得していません。訂正の報告があることと、その原本を独立確認したことを混同しません。
公開された書面には、金額だけでなく受領文言と第三者の名義がある
中道氏が10月1日に公開した領収証の画像も確認しました。画像には40万円、日付は令和5年4月10日、但し書きは「事務所設営費」とあり、受領を示す文言と、株式会社リノメゾン・代表取締役森健人という名義が記載されています。宛名欄は空白で、公開画像の範囲では見本やひな形との表示は見当たりません。
これはSNSで公開された画像の確認であり、選管保管の原本確認ではありません。また、各欄を誰が記入したか、名義や手書き部分について森氏の承諾があったかも、この画像だけでは確定できません。
それでも、本人が作ったという見本が、金額・日付・受領文言・相手方の会社と代表者名を備えた書面になり、実際の領収書と一緒に扱われたという説明には、具体的な裏付けが必要です。単なる空欄の用紙が紛れたという話とは、確認すべき点が違います。
さらに森氏は10月4日、子守康範氏から「2023年の選挙時に増山氏から領収書のひな形の提示はなかったのか」と問われ、記憶ではなかったと回答しています。質問の原投稿と合わせて読む必要があります。
森氏は記憶に基づく回答だと留保しています。増山氏が自分で作った見本を森氏には示していなかった可能性もあり、この回答だけで両者の説明が矛盾すると断定はできません。だからこそ、作成日、誰に示したか、誰が各欄を記入したか、なぜ廃棄されなかったかを、書面の経緯として説明すべきです。
「ひな形が紛れた」は、会計管理の失敗を認める説明だ
支払いを予定していた段階の見本と、実際の支払いを証明する書面は、役割が違います。本人の説明どおりなら、追加40万円の支払いが不要だと分かった後も、その見本が実際の領収書と区別されず、報告の根拠になってしまったことになります。
これは、ひな形という言葉で軽くなる問題ではありません。見本の作成、保管、帳簿への記入、報告書への転記、提出前の確認という過程で、どのような確認が行われたのか。40万円という金額に対応する出金記録を、誰も確かめなかったのか。説明すべきなのは、その具体的な経路です。
公職選挙法は、第185条で出納責任者に収入・支出の帳簿への記載を求め、第189条で報告書と証拠書面の写し等の提出を定めています。第189条第3項の、真実の記載を誓う文書の添付も出納責任者の義務です。候補者も第188条で、自ら選挙運動費用を支出した場合に領収書等を徴収し、出納責任者へ直ちに送付する義務を負います。公職選挙法(e-Gov)
ここで法律上の注意点があります。第179条第3項は、お金を交付した場合だけでなく、交付の約束も「支出」に含めます。未払いという一事だけで、支出の記載が虚偽だったとはいえません。 問われるのは、40万円を支払う実在の約束があったのか、それとも本人の説明どおり、追加の支払いが不要となった見積もりにすぎなかったのかです。契約や合意の経緯と、受領を示す書面との整合を明らかにする必要があります。公職選挙法第179条
報告期限が短いという事情は、確認が抜けた経緯の説明にはなっても、正確な報告への責任を免除する理由にはなりません。
出納責任者に法定の役割があることと、候補者本人に政治的な説明責任があることも、別です。増山氏は自ら見積もり、ひな形を作ったと説明しています。作成者として、書面が報告に使われるまでの経緯を、確認できる資料とともに示すべきです。
中道一政氏の告発は、説明の整合性を問うている
領収書の名義人とされた西宮市議の森けんと氏は、10月1日の投稿で、領収書を作成しておらず、40万円も受け取っていないと否定しました。詳細は増山氏本人が説明するとして、その説明を待つよう呼びかけています。
中道一政氏は、森氏への取材を踏まえて増山氏に弁明を求め、10月4日には、森氏から増山氏との話し合いの録音データを受け取り、森氏が40万円を受領していないと判断したとして、必要な範囲で公開すると発表しました。
一連の投稿では、増山氏が会話の冒頭で「落としどころ」を考えることを提案し、森氏に「領収書を切らして」と言った記憶があると述べる場面だ、と中道氏は説明しています。
また、森氏が「事務所設営費」という名目には無理があると説明する場面も、別の投稿で示されています。
さらに、今回提示された10月4日の投稿について、中道氏は、増山氏が領収書の「事務所設営費」という名目に合わせた説明を試みている場面だと評価しています。
その後の10月4日15時17分の録音付き投稿で、中道氏は、森氏がまっとうな対応を提案した一方、増山氏は40万円を支払ったことにする提案をした、とさらに踏み込んで指摘しました。
この「支払ったことにする」は中道氏による会話の要約・評価です。録音の直接発言の逐語引用でも、支払偽装が立証されたという意味でもありません。会話が事後の支払いを提案したものなのか、過去の支払いとして扱う提案だったのか。会話全体、収録時点、当時の支払約束を示して説明すべき争点です。
この指摘は重い。事実に合う費目を記載したのか、それとも書面にある費目を説明するために話を組み立てたのか。本人は、中道氏の指摘が誤っているなら、会話の前後と当時の資料を示して反論すべきです。
ただし、ここで確認できるのは中道氏の公開投稿と会話の抜粋です。録音全体、収録日時、編集の有無の独立確認まではできていません。「落としどころ」という一語だけで口裏合わせを認定したり、中道氏の評価をそのまま確定事実にしたりはしません。本稿でいう告発は公開の問題提起を指し、刑事告発の提出や受理を確認したという意味でもありません。
それでも、増山氏の説明動画だけを取り上げ、これらの指摘を抜かして疑問が解消したと扱うことはできません。ひな形の作成について、森氏に何を依頼し、いつどのような返答を得たのか。動画の説明と会話をつなぐ経緯が必要です。
「利益がない」は、誤った報告への回答にならない
増山氏が金銭的利益を否定したことは、落とさず伝えるべきです。支出欄に40万円があるというだけで、本人が40万円を横領したと結論することはできません。
しかし、利益がなかったという主張は、報告内容が正確だったことも、故意がなかったことも、それだけでは証明しません。
公職選挙法第246条には、報告書や添付書面への虚偽記入に関する罰則があります。少なくとも、その条文は本人の金銭的利益を要件として列挙していません。一方、個別の犯罪成立は、誰が何を認識して記入・提出したか、故意や重大な過失があったかなどを確かめる必要があります。第250条第2項には、第246条の罪について重大な過失を扱う規定もあります。本稿の資料だけで増山氏の犯罪成立を認定することはできません。公職選挙法第246条
政治的な評価は、刑事責任の確定を待たなければ何も言えないわけではありません。本人の説明を前提にしても、追加の支払いは不要だったと本人が説明する40万円を報告したという、看過できない会計管理の失敗が残ります。
県民が知りたいのは、自分は得をしていないという弁明だけではありません。選挙会計の数字を信頼できる根拠は何か。誤りをどの範囲まで調べ直したのか。 そこに答えるべきです。
問責を受けた県議が、また信頼を問われている
増山氏は2025年6月12日、百条委員会の秘密会の議事を無断で録音し、知事選候補者だった政治団体党首へ音声を提供したとして、県議会から問責決議を受けています。県議会は、議会の名誉と県民の信頼を傷つけたとして反省を求めました。
その決議は今回の会計問題の不正を証明するものではありません。しかし、既に公的な信頼を厳しく問われた議員が、自分の選挙会計でも誤った報告を認めた。その政治的な重さを、本人は受け止めなければなりません。
今、増山氏に求めるのは次の説明です。
- 修正前後の報告書、修正した日と箇所を、確認できる形で示すこと。
- 20万円の契約・支払いと、備品利用料がそこに含まれるという説明の根拠、40万円の支払約束の有無を示すこと。
- 40万円のひな形の作成日、各欄の記入者、相手方への提示・承諾の有無、保管・転記・提出の経路を説明すること。
- 中道氏が示した会話と説明動画の関係に答えること。
- 他の支出についても、実際の支払いと帳簿・証拠書面・報告書を照合したのかを示すこと。
個人情報を必要に応じて伏せても、会計の経緯は説明できます。
「今後はしっかり行う」という抽象的な再発防止で済ませてはいけません。何を改め、誰が確認し、同じ混入をどう防ぐのか。県民が確かめられる形で示すべきです。
私は、今回の誤報告と、説明動画だけでは資料でたどれない経緯を、厳しく批判します。ひな形だった、利益はない、修正した。この三つを並べても、会計への信頼は回復しません。 根拠を示さずに終わらせようとするなら、県議としての責任と適格性を厳しく問われて当然です。
10月4日追記:県公報の要旨、公開書面の記載、森氏の追加回答、中道氏の追加投稿、西脇氏の訂正閲覧報告を確認し、法令上の「支出」と責任主体の説明を補強しました。
出典・関連資料
- 増山誠氏の説明動画(2026年10月3日)
- 森けんと氏の作成・受領否定(10月1日)
- 中道一政氏の当初の問題提起(10月1日)
- 中道氏の録音公開の告知(10月4日)
- 中道氏の会話紹介:落としどころ・領収書作成(10月4日)
- 中道氏の会話紹介:事務所設営費の名目(10月4日)
- 今回提示された中道氏の投稿:名目に合わせた説明との指摘(10月4日)
- 兵庫県公報・2026年9月4日号外72頁(公式の報告要旨)
- 森氏のひな形提示に関する回答と質問
- 中道氏の追加録音付き投稿(10月4日15時17分)
- 西脇亨輔氏の訂正書面の閲覧報告(10月3日)
- 公職選挙法(e-Gov法令検索、第179・185・188・189・246・250条)
- 兵庫県議会・増山誠議員に対する問責決議(2025年6月12日)
- 10月1日時点の争点を整理した前の記事

