はばタンPayは全員当選、介護は59%――兵庫県の物価高対策は誰を優先したのか

地方自治・兵庫県政

兵庫県の物価高対策で、二つの「応募超過」が起きた。

一つは、県民向けのプレミアム付きデジタル券「はばタンPay+」第5弾だ。当初は予算を超える申込みがあれば当選口数を4口から3口へ調整するとしていた。ところが県は応募後、希望者全員を希望口数どおり当選とし、当初約102.9億円だった事業費に約26億円の不足が生じたとして、いったん他の歳出を流用し、後に国の交付金を財源に付け替えた。

もう一つは、介護事業所等のサービス継続支援だ。燃料費、暑さ・寒さ対策用品、非常用電源、備蓄品などを補助する事業で、県は申請額が予算を超過したため、補助上限額を当初の59%に減額して交付決定した。20万円の枠なら11万8千円、50万円の枠なら29万5千円になる。実質41%のカットである。

同じ県が、同じ物価高への対応で、なぜ一方では不足額を財源操作で埋め、もう一方では現場の上限額を削ったのか。

ここで「はばタンPayのお金を介護から回した」「介護を切って商品券を優先した」と断定するのは正確ではない。二つの事業は制度と財源が同一であるとは確認できず、県が介護事業の予算をはばタンPayに直接流用したという資料も見当たらない。

それでも、二つの対応を並べて問うべきことはある。予算が足りなくなったとき、兵庫県は誰の負担を減らし、誰に不足分を負わせるのか。 その判断基準である。

二つの応募超過、二つの結論

まず、県が公表した経過を比べる。

はばタンPay+第5弾介護事業所等サービス継続支援
目的家計支援・個人消費の下支え介護サービスを止めないための燃料費、温度対策、防災備蓄等の支援
応募超過時の当初の扱い当選口数を4口から3口へ調整公表資料上、上限額に基づく補助制度
応募超過後の県の対応希望者全員を希望口数どおり当選補助上限額を当初の59%に減額して交付決定
不足への対応約26億円をいったん歳出流用、後に交付金への財源更正申請額・不足額の総額は県の公表ページで示されず、事業所ごとの上限を圧縮
影響を受ける人アプリで申し込んだ県民訪問介護、通所介護、訪問看護、特養などの事業所と、その利用者・家族

はばタンPayは、2025年12月補正予算で102.9億円が計上された。県が2026年3月に示した資料では、予算超過時には抽選で当選口数を「4口から3口に調整」すると明記されていた。

しかし申込者は約118万人に達し、県の当初想定である約93万人を大きく上回った。斎藤元彦知事は4月15日の会見で、県民生活への影響を理由に全申込者を希望口数どおり当選とすると説明した。その結果、所要額は約129億円となり、約26億円が不足。知事は他の予算から流用し、直近の補正で財源更正を行うと述べた。

県議会資料には、6月補正で、はばタンPay+第5弾について26億1,500万円を国の重点支援地方交付金へ振り替える「財源更正」が記載されている。ここで重要なのは、県が「予算が足りないから希望口数を減らす」という当初の選択を採らなかったことだ。

一方、介護事業所等への支援は、県が必要だと認めた支出そのものを削った。県の説明では、対象は訪問・送迎の燃料費、有料道路通行料、熱中症・防寒用品、スポットクーラー、発電機、蓄電池、飲料水、簡易トイレなどだ。ぜいたく品ではない。訪問を続ける、猛暑を越える、停電時にも利用者を守るための費用である。

それでも県は、申請額が予算を超えたことを理由に、上限を59%に下げた。

「全員当選」と「一律41%カット」の間にあるもの

県は、はばタンPayについて、物価高が県民の家計を直撃していることを全員当選の理由として挙げた。その事情は理解できる。5,000円で7,500円分が使える券は、日々の買い物を助ける。希望口数が減れば不満も生じるだろう。

だが、介護事業所が削られた補助を使おうとしていた先にも、同じ物価高がある。

訪問介護の車が走らなければ、買い物券を使う高齢者の自宅にもサービスは届かない。夏の熱中症対策や非常用電源が不足すれば、在宅や施設で暮らす人の安全が揺らぐ。介護の補助金は事業者のためだけのものではない。利用者と家族が地域で暮らし続けるための基盤である。

だから問題は、「商品券か介護か」という乱暴な二者択一ではない。必要な支援が応募超過になったとき、県がどのような優先順位で追加財源を探し、どの段階で議会に選択肢を示し、誰に負担を負わせるのかという行政運営の問題である。

はばタンPayでは、当初ルールを変えてでも希望口数を守った。介護では、申請した全事業所を対象にしながら、必要額の41%を切り落とした。後者についても、補正予算、国の重点支援地方交付金、制度の追加配分、次年度へのつなぎ支援といった選択肢をどこまで検討したのか。県は説明していない。

介護の不足額を、なぜ県民は知ることができないのか

介護事業の県ホームページは「申請額が予算額を超過したため、補助上限額を59%に減額」と示している。しかし、肝心の数字がない。

  • 申請した事業所は何か所だったのか。
  • 申請総額はいくらだったのか。
  • 予算をいくら上回ったのか。
  • どのサービス類型で需要が大きかったのか。
  • なぜ59%という率になったのか。
  • 追加財源を確保しないと判断したのは、いつ、誰が、どの資料に基づいてか。

県が59%という結論だけを通知し、計算の前提を示さないなら、事業所は「一律だから公平だ」と受け入れるしかない。しかし公平さは、数字を隠した一律カットからは生まれない。申請の実態と不足額を示して初めて、県民も議会も、その判断が妥当だったかを検証できる。

はばタンPayでは、県は申込者数、当初想定、所要額、不足額を知事会見で説明した。介護では、現場の上限を大幅に下げる決定をしながら、同じ水準の説明が見当たらない。この差は小さくない。

斎藤知事が答えるべき六つの問い

これは、知事が一人で違法に予算を動かしたと断定する記事ではない。はばタンPayの財源更正は県議会資料に記載されており、制度上の手続きは取られている。

それでも、県政の最終的な説明責任は知事にある。斎藤知事は次の点を明らかにすべきだ。

1. はばタンPayは追加の財源対応を選び、介護は上限圧縮を選んだ判断基準は何か。 2. 介護事業の申請総額と不足額を、いつ公表するのか。 3. 59%という率の算定過程を、サービス類型別に示せるのか。 4. 重点支援地方交付金などを介護事業の不足分に充てる可能性を、どこまで検討したのか。 5. 50万円の上限が29万5千円になった訪問介護事業所が、見送る支出と利用者への影響を県は把握しているのか。 6. 次の猛暑・災害期にも同じことが起きた場合、事業所の上限を再び削るのか。

物価高対策は、配る瞬間ではなく、止めない仕組みで評価される

プレミアム付き商品券は目に見えやすい。アプリに残高が入り、店で使え、政策の効果も実感されやすい。

介護の燃料費、空調、発電機、備蓄品は目立たない。だが、それが足りなくなったときに失われるのは、買い物の得ではなく、訪問、入浴、食事、見守り、そして家族の生活である。

県が家計支援を行うこと自体を否定する必要はない。問題は、限られた財源の中で一方の不足には追加対応を選び、もう一方の不足には現場への一律カットを選んだとき、その理由を十分に説明していないことだ。

「予算が足りなかった」で終わらせてはならない。物価高対策は、人気のある事業に全額を配り切ることではなく、社会を支えるサービスを止めないことまで含めて設計されなければならない。

兵庫県が本当に問われているのは、はばタンPayを実施したかどうかではない。不足が出たとき、県民の暮らしを支える優先順位を、誰に、どんな根拠で示すのか。 その政治の姿勢である。

※本稿は兵庫県の予算資料、知事会見、県議会資料、介護支援事業の公表資料に基づく。はばタンPayと介護支援が同一の予算から支出された、または介護予算が直接はばタンPayへ流用されたと断定するものではない。批判の対象は、応募超過時の対応の差と、その判断基準・説明責任である。

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確認資料・参考リンク

本記事は、以下の兵庫県・兵庫県議会の公表資料を主な確認資料として作成しています。

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