地方議会の処分はなぜ軽く見えるのか|増山県議を辞めさせられない理由

地方自治・兵庫県政

兵庫県議会では2026年7月、自民党県議団が増山誠県議について、聞き取りや厳重注意などを行うよう議長に申し入れました。

増山県議は2025年にも、文書問題調査特別委員会(百条委員会)の秘密会を許可なく録音し、音声データを外部の政治団体党首へ提供したとして、県議会から問責されています。それでも議員を続けています。

ここで多くの人が感じるのが、「これだけ問題が続いても、なぜ辞めさせられないのか」という疑問です。

結論から言えば、地方議員は議会や政党に雇われた職員ではありません。選挙で選ばれた公選職です。そのため、「厳重注意」「離党勧告」「問責決議」「議員辞職勧告」といった強い言葉が並んでも、それだけで議員の身分は失われません。

ただし、「議会には何の権限もない」という説明も正確ではありません。地方自治法には、議員を除名する法定の懲罰があります。問題は、問責決議と除名がまったく別の制度であり、除名には対象となる行為、正式な手続、特別多数の賛成が必要だということです。

この記事では、増山県議の事例を入口に、地方議会の「処分」が軽く見える仕組みを整理します。

※2026年の動画発信問題と政倫審見送りの経緯は、関連記事「増山誠県議に厳重注意を申し入れ|無記名投票の発信と政倫審見送りを検証」で詳しく扱っています。

まず確認したい増山県議をめぐる3つの対応

増山県議をめぐっては、性質の異なる対応が重なっています。

時期 対応 効果
2025年2月 兵庫維新の会が離党勧告 政党上の処分。議員身分は失われない
2025年6月12日 兵庫県議会が問責決議を可決 議会の政治的意思表示。辞職の強制力はない
2026年7月16日 自民党県議団が議長に聞き取り・厳重注意などを申し入れ 申し入れの段階。条例違反や懲罰が確定したものではない

兵庫県議会の2025年6月の問責決議は、増山県議が秘密会にすることに同意しながら、その議事内容を許可なく録音し、政治団体党首へ提供したと認定しています。決議は、音声に個人のプライバシーに関する発言が含まれ、拡散や悪用により知事選挙期間中の混乱を招き、百条委員会の運営にも影響したと指摘しました。

表現は厳しいものです。しかし、決議の結論は「反省を求め問責する」であり、「除名する」ではありません。

2026年の動画発信問題は、この秘密会音声の提供とは別の事案です。過去に問責を受けているからといって、新しい事案で自動的に処分が重くなる「累積点数制」は、地方自治法にも兵庫県議会の政治倫理条例にもありません。新しい事案は、新しい証拠と手続で判断する必要があります。

2026年7月29日現在、兵庫県議会の公式名簿には、増山県議が西宮市選出、会派「躍動の会」の県議として掲載されています。総務常任委員会の委員名簿にも名前があります。

「処分」という一語に、違う制度が混ざっている

地方議員をめぐる報道では、すべてが「処分」と呼ばれがちです。しかし、誰が行うのか、議員身分に影響するのかは大きく異なります。

種類 行う主体 主な内容 議員を失職させるか
政党・会派の処分 政党、地域政党、会派 注意、役職停止、離党勧告、除名など いいえ
問責・辞職勧告決議 議会 責任を問い、反省や辞職を求める いいえ
政治倫理条例上の措置 政倫審、議長 警告、陳謝、役職辞任、出席自粛、議員辞職の勧告など 原則としていいえ
地方自治法上の懲罰 議会 戒告、陳謝、出席停止、除名 除名のみ失職
住民による解職請求 選挙区の有権者 署名後に解職投票 過半数の同意で失職
法定の資格喪失 法律、議会、選挙管理手続など 被選挙権の喪失、兼業禁止への該当など 要件を満たせば失職

「離党勧告」と「除名」が特に誤解されやすい言葉です。政党が議員を「除名」しても、それは党員資格を失わせる処分です。地方自治法上の「議会からの除名」とは違います。

政党公認で当選した議員であっても、議席は政党が貸しているものではありません。離党や党除名の後、無所属や別会派で活動を続けることができます。これが、党処分が重い言葉のわりに軽く見える理由の一つです。

問責決議には、なぜ強制力がないのか

問責決議は、議会として「政治的・道義的責任は重い」と表明するものです。事実認定や議会の評価を公式記録に残す意味はあります。

一方、地方自治法は「問責決議が可決された議員は失職する」と定めていません。議員本人が辞職を選ばない限り、問責決議だけで任期を終わらせることはできません。

辞職勧告決議も同じです。「辞職せよ」という要求は問責より直接的ですが、勧告は命令ではありません。

ここには制度上の理由があります。議会の過半数が、政治的に対立する少数派議員を「信頼できない」という理由だけで排除できれば、選挙で選ばれた反対派を多数派が次々と追い出せてしまいます。

そのため、政治的な非難と、議員身分を失わせる法的処分は分けられています。

議会には「除名」の権限がある

地方自治法134条は、法律、会議規則、委員会条例に違反した議員に、議会が議決で懲罰を科すことができると定めています。

135条が定める懲罰は、次の4種類です。

  1. 公開の議場での戒告
  2. 公開の議場での陳謝
  3. 一定期間の出席停止
  4. 除名

除名が可決されれば、議員はその身分を失います。

ただし、除名は通常の過半数では決められません。議員の3分の2以上が出席し、その出席議員の4分の3以上が同意する必要があります。懲罰動議の提出自体にも、議員定数の8分の1以上の発議が必要です。

さらに、国会の総務委員会で政府は、地方自治法134条の懲罰権について、議会という会議体の規律と品位を保つためのものであり、対象は地方自治法、会議規則、委員会条例に違反する「議会内における議員の行為」に限られると説明しています。裁判例でも、議会運営とまったく関係のない議場外の個人的行為を懲罰事由にすることには限界があると示されています。

つまり、世間の批判が強い行為なら何でも除名できるわけではありません。議会の規律に関係するどの規定に、どの行為が違反したのかを特定し、弁明の機会を含む手続を踏み、特別多数で議決する必要があります。

増山県議の2025年の行為は百条委員会の秘密会に関するもので、兵庫県議会の問責決議も重大な情報漏えいと評価しました。ただし、県議会が実際に可決したのは地方自治法上の除名ではなく、問責決議です。

したがって、正確な説明は「議会は増山県議を法的に絶対に辞めさせられない」ではありません。「県議会は問責を選び、除名を可決していない。問責には失職の効果がない」です。

なお、除名が適法に成立するかどうかは、対象行為、会議規則、提出時期、手続、証拠を個別に検討する必要があります。政治的に重いと評価されたことだけから、「除名できた」「除名すべきだった」と法的結論まで断定することはできません。

政治倫理審査会でも強制辞職はできない

兵庫県議会は、増山県議への問責決議を可決した翌日の2025年6月13日、「兵庫県議会議員の政治倫理に関する条例」を施行しました。

条例は、議員の品位や議会への信頼を損なう行為、人権侵害行為、地位の不当利用などを政治倫理基準として定めています。

ただし、政倫審は議長の判断だけで自由に始められる制度ではありません。審査請求には、議員定数の3分の1以上、かつ2以上の会派の議員による署名または記名が必要です。

政倫審が政治倫理基準違反を認めた場合、出席委員の3分の2以上の賛成で、口頭注意、文書警告、議場での陳謝、役職辞任、出席自粛、議員辞職の勧告などを求めることができます。

ここでも最も重い表現は「議員辞職の勧告」です。条例は、政倫審や議長に、議員を強制的に失職させる権限までは与えていません。

政倫審の役割は、刑事裁判や地方自治法上の懲罰に代わって議員を処罰することではありません。事実を調べ、本人に弁明の機会を与え、政治倫理上の評価と必要な措置を公表することにあります。

したがって、政倫審を開かなかったことは「問題なし」と認定したことを意味しません。審査開始の手続を取らなかったため、条例に基づく違反の有無が判断されていないという意味です。

住民が辞めさせる「リコール」は可能だが、ハードルは高い

地方議員については、住民による解職請求、いわゆるリコールの制度があります。

地方自治法80条によると、県議の解職請求は、その県議が所属する選挙区の有権者が必要数の署名を集め、選挙管理委員会に請求します。請求が有効なら解職投票が行われ、83条により過半数が解職に同意したとき、議員は失職します。

増山県議の選挙区は西宮市です。兵庫県選挙管理委員会の資料によると、2026年6月1日時点の西宮市の選挙人名簿登録者数は39万8,020人でした。

40万人以下では原則3分の1以上の署名が必要です。この人数を基に単純計算すると、必要署名数は少なくとも13万2,674人です。

しかも、署名はいつでも自由に集められるわけではありません。代表者証明書の交付を受け、法定の署名簿を使い、都道府県に関する直接請求では原則62日以内に集める必要があります。選挙が行われる期間には署名収集が制限されることもあります。集めた後には、選挙管理委員会による署名の審査もあります。

実際の必要署名数は、請求時点の有権者数に基づいて選挙管理委員会が確定します。13万2,674人は、2026年6月1日の登録者数を使った目安です。

制度上は可能でも、一つの選挙区で約13万人分の有効署名を約2か月で集め、その後の住民投票でも過半数の同意を得る必要があります。地方議員のリコールが現実には難しい大きな理由です。

刑事事件になれば自動的に失職するわけでもない

「違法行為なら逮捕や有罪で辞めさせられるのではないか」と考える人もいるでしょう。

しかし、疑惑が報じられた、告発された、捜査を受けたという段階で、議員が自動的に失職する制度ではありません。有罪判決でも、すべての刑で一律に失職するわけではありません。

地方自治法127条は、被選挙権を失った場合などの議員資格について定めています。公職選挙法違反による公民権停止、一定の刑の確定など、法律が定める要件に該当した場合に失職の問題が生じます。

道義的な非難、政治責任、刑事責任、議員資格は別々に判断されます。この区別が、外から見ると「何をしても辞めない」ように映る原因にもなっています。

結局、誰が地方議員を辞めさせられるのか

地方議員が任期途中で議席を失う主な経路は、次のとおりです。

  1. 本人が辞職し、議会または閉会中の議長が許可する
  2. 議会が地方自治法上の除名を特別多数で可決する
  3. 選挙区の住民が解職請求を成立させ、解職投票で過半数の同意を得る
  4. 被選挙権の喪失など、法律上の失職事由が生じる
  5. 任期満了後の選挙で再選されない

兵庫県議会議員の現在の任期は、2023年4月30日から2027年4月29日までです。上のような任期途中の失職がなければ、最終的には2027年の選挙で有権者が判断することになります。

地方議会の処分が「軽く見える」5つの理由

制度を整理すると、処分が軽く見える理由は五つあります。

1 同じ「除名」でも意味が違う

政党除名は党員資格を失わせます。議会除名は議員身分を失わせます。報道で同じ言葉が使われるため、効果が混同されます。

2 強い言葉と法的効果が一致しない

問責、厳重注意、辞職勧告は政治的には重い表現ですが、議席を失わせる強制力はありません。

3 選挙で得た議席を多数派が簡単に奪えない

除名には3分の2以上の出席と、その4分の3以上の同意が必要です。これは少数派や反対派を多数派が排除することを防ぐ安全装置でもあります。

4 責任を問う主体が分かれている

政党は党籍、議会は内部規律、政倫審は政治倫理、捜査機関と裁判所は刑事責任、有権者は選挙とリコールを担います。一つの機関がすべてを決める仕組みではありません。

5 「繰り返したら自動失職」という規定がない

過去に問責された議員が別の問題を起こしても、自動的に除名へ進む制度ではありません。事案ごとに証拠、根拠規定、手続が必要です。

処分を重くすれば解決するのか

ここからは編集上の評価です。

問責や厳重注意が繰り返されても、本人の説明、訂正、再発防止、議会側の検証結果が残らなければ、県民には「結局、何も変わらない」と見えます。この不信は当然です。

一方、議会の一時的な多数派が、気に入らない議員を簡単に除名できる制度も危険です。地方自治法136条は、除名された議員が再び当選した場合、議会はその議員を拒むことができないと定めています。最終的な選択を有権者に戻す考え方が、ここにも表れています。

必要なのは、「辞めさせやすさ」だけを競うことではありません。少なくとも議会は、次の事項を県民が確認できる形で残すべきです。

  • どの行為を、どの規定に照らして問題としたのか
  • 本人に何を質問し、どのような回答があったのか
  • なぜ政倫審や懲罰動議を選んだのか、または選ばなかったのか
  • 訂正、削除、謝罪、役職辞任など、何を求めたのか
  • 実行期限と確認結果
  • 再発した場合に、どの手続で判断するのか

処分名だけを発表して終われば、「厳重注意」も「問責」も儀式に見えます。制度上、辞職を強制できない場面でも、調査と判断の過程を記録し、有権者が次の選挙で使える情報を残すことはできます。

まとめ

増山県議が問責を受けても議員を続けられるのは、問責決議に失職の効果がないためです。政党の離党勧告や除名、政治倫理条例上の辞職勧告にも、議席を奪う力はありません。

議会には地方自治法上の除名権限があります。しかし、除名は問責とは別の法定懲罰です。対象となる規則違反、正式な手続、3分の2以上の出席、出席議員の4分の3以上の同意が必要です。

住民リコールも可能ですが、西宮市選挙区では現在の有権者数を基にすると約13万3,000人の署名が必要で、その後の解職投票でも過半数の同意を得なければなりません。

地方議会の処分が軽く見えるのは、単に議会が甘いからだけではありません。選挙で得た議席を守る制度上の安全装置と、責任を問う仕組みが複数に分かれていることが背景にあります。

だからこそ、議会には「辞めさせられない」で説明を終えず、何を調べ、なぜその対応を選び、どの結果を残したのかを公表する責任があります。最終的に判断する有権者へ、検証可能な材料を渡すところまでが議会の仕事です。

出典・確認資料

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