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「9秒で起立多数」は有効か|地方議会の起立採決と、記名投票・押しボタン式への切り替えルール

地方議会のしくみ 「9秒で起立多数」 起立採決は誰がどう数える? 地方自治・議会

2026年10月25日の再確認:福岡県の公式例規集(内容現在:2026年9月15日)の県議会会議規則(議事の進め方を定める規則)43〜45条・48条・54条を照合しました。国の法律と、参議院・東京都議会・福岡市議会の規則も読み直し、それぞれの条件を分けて説明しています。

福岡県議会で2026年8月17日、蔵内勇夫・前議長(公式表記は「藏内勇夫」)への辞職勧告決議案(辞職を求める議案)の採決(議案の賛否を決める手続き)を中止する緊急動議(議事の進め方を急いで決める提案)が、起立採決(賛成する議員が立つ方法)で「賛成多数」とされ可決されました。この議事運営について、金銭授受疑惑を告発した吉松源昭県議は9月10日、大島道人議長あてに抗議文を提出しています。

TNCテレビ西日本によると、吉松県議は「起立を求めてから『賛成多数』と決するまで約9秒、最後の起立者が立ち上がってからはわずか4秒でした」と指摘し、今後は賛成・反対の人数と氏名を公表するよう求めました。

起立採決の適否は、議長の多数認定と、異議が出た場合の手続きを合わせて判断します。9秒という長さだけで無効とは判断できません。記名投票(氏名を記した票で賛否を示す方法)に切り替えるのは、議長が必要と認めるか、起立採決に対し出席議員の5分の1以上が異議を申し出た場合です。表決(議員が賛否を示すこと)・議決(議会としての決定)と採決という言葉の違いは、別の記事で解説しました。本記事は2026年9月の報道と9月30日までに確認した条文をもとに、議長の認定と、記名投票に切り替える手続きを説明します。

関連動画:林泰輔県議の裏アカ中傷問題・問責案を大島道人議長が直接受け取らず 吉松県議が抗議

三つの採決方法と、福岡県議会の記名投票への切り替え条件を比較する図。起立採決では賛成する議員が立ち、議長が起立者の多少を認定する。県議会の記名投票は氏名を記した白票が賛成、青票が反対。参議院の押しボタン式では議席の賛否ボタンを押し、議員ごとの結果を公表する。県議会の切替条件は議長が必要と認める場合、または起立採決に対し出席議員の五分の一以上から異議がある場合。2026年9月30日に原条文確認。
福岡県議会会議規則43〜45条・48条と参議院の現行公式資料を基に、採決方法を比較しました。県議会の起立採決は議長が起立者の多少を認定し、記名投票は氏名入りの白票・青票で賛否を示します。県議会で記名投票に切り替えるのは、議長が必要と認めたとき、または起立採決に対し出席議員の5分の1以上が異議を申し出たときです。押しボタン式(議席の賛否ボタンで投票する方法)は参議院の制度として示しており、福岡県議会で使える方式と同一視していません。 出典:福岡県例規全集・福岡県議会会議規則43〜45条・48条(内容現在2026年8月14日、9月30日確認) / 参議院規則137〜140条の3(2026年9月30日確認) / 参議院・押しボタン式投票(2026年9月30日確認)(2026年9月30日確認)
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起立採決の結論は「議長の認定」で決まる

地方議会の議事は、原則として出席議員の過半数で決まります。地方自治法(自治体の組織や議会などの基本を定める法律)116条1項は、次のとおりです。

この法律に特別の定がある場合を除く外、普通地方公共団体の議会の議事は、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。(地方自治法116条1項)

ただし、地方自治法は「どうやって賛否を数えるか」までは定めていません。その方法は、各議会が定める会議規則に委ねられています。

福岡県議会会議規則ではどう定めるか

この事案に直接適用されるのは、福岡県議会会議規則です。第43条は採決方法を起立と記名投票と定め、第44条は、賛成する議員を起立させ、議長が起立者の多少を認定して可否を宣告すると定めています。

福岡県例規全集の「福岡県議会会議規則」第43~45条を確認しました(2026年9月19日)。

注目したいのは「起立者の多少を認定」という部分です。起立採決では、議場を見渡し、起立者が多いか少ないかを議長が「認定」し、その結果を宣告します。明らかな差があれば数秒で判断できますが、差が小さい場合には、この認定そのものが争いになり得ます。

起立採決では、賛否の記録が残りにくい

起立採決の結果として会議録に残るのは、多くの場合「起立多数」「起立少数」といった結論です。誰が起立し、誰が座っていたのかは、記名投票と違って記録上は明らかになりません。

8月17日の動議について、報道各社は賛成49人・反対35人とする議員別の一覧を伝えましたが、これは議会の公式な記録として公表されたものではありません。吉松県議が「起立者の人数も名前も公表されていない」と問題視したのは、この点です。

福岡県議会で記名投票に切り替える条件

福岡県議会会議規則第45条では、議長が必要と認めたとき、または起立による採決に対して出席議員の5分の1以上から異議の申出があったとき、記名投票で採決します。東京都議会の「10人以上」、福岡市議会の「3人以上」は、それぞれ別の議会の規則です。なお、福岡市議会80・81条では、所定の異議や要求があった場合の方法を「記名又は無記名の投票」としています。3人の異議で必ず記名投票になるという意味ではありません。福岡県議会の異議申出の人数を示す根拠にはなりません。

同規則第48条によれば、記名投票では賛成議員が氏名を記した白色票を、反対議員が氏名を記した青色票を投じます。記名投票にするには、議長の判断、または起立採決への所定数の異議申出が必要です。事前に一定数集めることだけで切り替える制度とは区別します。

出席議員の人数によって必要な異議申出人数は変わります。本記事では8月17日の採決時に何人が出席していたかを確定していないため、必要な実人数は示しません。

※補足:8月17日の臨時会(必要に応じて開く定例会以外の議会)で、動議の採決に対して記名投票の要求や異議の申立てがあったかどうかは、当日の会議録と映像を照合する必要があります。本記事では、報道で伝えられた範囲を超えて、当日の手続きの適否を断定するものではありません。

国会では「押しボタン式投票」(議席の賛否ボタンで投票する方法)も使われている

起立採決の曖昧さを避ける方法として、電子的な投票もあります。参議院規則は、起立採決について次のように定めています。

議長が起立者の多少を認定し難いとき、又は議長の宣告に対し出席議員の五分の一以上から異議を申し立てたときは、議長は、記名投票又は押しボタン式投票により表決を採らなければならない。(参議院規則137条)

参議院では、議員が投票機の賛成ボタンか反対ボタンを押すことで投票します(参議院規則140条の3)。結果は議員ごとに記録されるため、誰がどう投票したかがすぐに分かります。

地方議会でも電子採決を取り入れているところがあります。導入には設備費がかかりますが、議員ごとの賛否を記録し、ホームページで公表しやすくなる利点があります。

採決の透明性を高める3つの提案

今回の問題から見えてくるのは、次の3点です。

1. 重要な議案は最初から記名投票にする

議員の辞職勧告決議案や、その採決を止める動議のように、県民の関心が高く、議員個人の判断が問われる案件は、最初から記名投票で採決するルールを設ける方法があります。

2. 起立採決でも人数を記録・公表する

起立採決を続ける場合でも、議会事務局が起立者を記録し、人数と氏名を会議録や議会だよりで公表することは可能です。吉松県議が抗議文で求めたのも、この点です。

3. 採決を回避する動議の扱いを会議規則に明記する

元の原稿は、FBS福岡放送の報道として、吉松県議が、今後同様の手法で議案の採決が回避されないよう、会議規則に明文化することも求めたと紹介しています。この要求の元報道は今回再読できていません。大島議長は就任時に「議会自身のあり方を見直します」と約束しており、会議規則の改正はその具体策の一つになり得ます。

起立採決の適否は、認定と異議申出の手続きで判断する

  • 地方議会の議事は出席議員の過半数で決まるが、賛否の数え方は各議会の会議規則が定める
  • 起立採決では、議長が「起立者の多少を認定」して結果を宣告する。人数や氏名は記録に残りにくい
  • 福岡県議会では議長が必要と認めたとき、または起立採決に対し出席議員の5分の1以上から異議の申出があったとき、記名投票で採決する
  • 参議院では押しボタン式投票も使われ、議員ごとの賛否が記録される
  • 福岡県議会では、重要案件の記名投票化や、起立者の人数・氏名の公表が改革の論点になる

「9秒」が長いか短いかより大切なのは、誰がどう判断したのかを後から確かめられることです。人数や氏名が記録されれば、県民は各議員の判断をたどれます。


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