2025年8月の中国訪問当時、福岡県議会の藏内勇夫議長には、日本獣医師会長、世界獣医師会次期会長という二つの肩書もありました。
専門知識と国際的な人脈を県政に生かすこと自体は、問題ではありません。
問題は、県議会の公務と獣医師会の活動が一つの海外日程に入ったとき、どこまでを公費で負担するのかです。
2025年8月の中国訪問では、北京で中国政府機関や日本大使館を訪れた後、西安で日中韓3か国の獣医師会によるMOU締結式と中国獣医師会大会に出席しました。公費負担は総額389万2,000円です。藏内議長の西安での宿泊費は、日本獣医師会が負担しました。
費用を分けた事実は確認できます。
しかし、公表資料だけでは、誰が、どの基準で、各行程と経費を県議会分、獣医師会分、共通分に振り分けたのかまでは分かりません。
資料を追っていて、私が最も気になったのは、費用を分けた事実より、その基準が見えないことでした。
専門性を生かすことと、公費負担の境界を曖昧にすることは別です。福岡県議会は、海外訪問の按分基準と判断過程を公表すべきです。
福岡県議会の海外活動23件、総額2億6,496万2,000円の全体像はこちらです。
→ 福岡県議会の海外視察費は3年で2億6500万円|23件を検証
住民監査請求の結果と、監査で確認された範囲はこちらで整理しています。
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中国訪問時に並んだ三つの役職
福岡県議会が公表した中国訪問団の名簿には、藏内勇夫氏について次の三つの役職が並んでいます。
- 福岡県議会議長
- 世界獣医師会次期会長
- 日本獣医師会長
複数の役職を持つことだけで、公私混同になるわけではありません。
獣医学の専門家が、人獣共通感染症や公衆衛生の政策に関わることには合理性があります。海外の獣医師、医師、行政機関との人脈が、福岡県の感染症対策や国際連携に役立つ場面もあるでしょう。
ただし、肩書が重なるからこそ、海外で「誰として」活動したのかを明確にする必要があります。
相手から県議会議長として招かれたのか、日本獣医師会長として招かれたのか。面会や式典への出席は、福岡県議会の意思決定や政策に何を持ち帰るためだったのか。
この区分が曖昧なままでは、県民は公費負担の妥当性を検証できません。
ワンヘルスは福岡県議会が条例化した政策
ワンヘルスとは、人、動物、環境の健康を一体として守ろうとする考え方です。
福岡県議会は2020年12月、「福岡県ワンヘルス推進基本条例」を議員提案で制定しました。2022年9月には実践を促進する条例も制定しています。
つまり、ワンヘルスは獣医師会だけの活動ではありません。福岡県と県議会が条例に基づいて進める公的な政策です。
藏内議長も2026年6月11日の記者会見で、ワンヘルスの推進は福岡県議会の大きな政策だと説明しました。感染症対策には医師、獣医師、環境研究者、経済界、政治の分野横断的な連携が必要だとした上で、自身について「これを分けることはできません」と述べています。
この説明には政策上の根拠があります。
ただ、「政策と専門領域が分けられない」ことと、「誰が費用を負担するかを分けなくてよい」ことは同じではありません。
藏内議長自身も会見で、海外に出向く場合は、県議会議員としての経費と獣医師としての経費を分担するよう事務局に指示していると説明しています。
ならば県民が確認したいのは、分担したという結論だけではなく、その基準です。
中国訪問は公務と獣医師会活動が混在する日程
2025年8月20日から24日までの中国訪問には、藏内議長と野原隆士・ワンヘルス・地方分権等調査特別委員長、議会事務局職員2人が参加しました。
県議会が公表した主な日程を、訪問先の性格で整理すると次のようになります。
| 日程・場所 | 主な訪問先・活動 | 公表資料から確認できる性格 |
|---|---|---|
| 8月21日・北京 | 中国国家疾病予防制御局 | 政府機関との感染症対策に関する意見交換 |
| 8月21日・北京 | 中国農業農村部畜牧獣医局 | 政府機関との防疫・公衆衛生に関する意見交換 |
| 8月21日・北京 | 自治体国際化協会北京事務所 | 自治体間交流に関する意見交換 |
| 8月21日・北京 | 在中国日本国大使館 | 日中関係とワンヘルスに関する意見交換 |
| 8月22日・西安 | 日中韓3か国の獣医師会MOU締結式 | 獣医師会間の協定に関する行事 |
| 8月23日・西安 | 中国獣医師会大会 | 論文、症例、新技術、製品展示などの調査 |
| 西安 | 動物用医薬品工場、中国獣医師会会員との意見交換 | 専門分野・関連産業の調査 |
北京での政府機関や大使館との面会は、県議会による国際交流や政策調査として説明しやすい行程です。
西安でのMOU締結式は、日中韓の獣医師会が当事者となる行事です。中国獣医師会大会への出席や獣医師会会員との意見交換も、獣医師会長としての役割と強く重なります。
だからといって、西安での全行程が県議会公務ではないと断定することもできません。県議会は、日中韓の連携の中で福岡県が果たす役割を調査することを訪問目的に掲げています。
必要なのは、行程ごとの公務性を具体的に説明することです。
西安宿泊費は日本獣医師会が負担
福岡県議会が公表した経費内訳によると、中国訪問の公費負担は次の通りです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 議員旅費 | 80万9,000円 |
| 職員旅費 | 58万3,000円 |
| 委託費 | 250万円 |
| 総経費 | 389万2,000円 |
委託費には、現地車両、通訳、添乗員、現地ガイド、Wi-Fiレンタル料などが含まれます。
同じ資料には、「議長の西安宿泊費は日本獣医師会負担」と明記されています。
少なくとも、県議会と日本獣医師会の間で一部の費用を区分したことは確認できます。この記載は重要です。
ただ、公表資料から読み取れる具体的な区分は、西安宿泊費の負担者までです。
航空運賃、北京から西安への移動、現地車両、通訳、添乗員などを、どの役職の活動に対応する経費として処理したのか。複数の役割にまたがる費用を何対何で分けたのか。最終的に誰が判断し、承認したのか。
公表された1枚の経費内訳と活動報告だけでは、そこまで追うことができません。
費用区分で公表すべき五つの基準
県議会公務と獣医師会活動が同じ日程に入る場合、福岡県議会は少なくとも次の項目を公表すべきです。
- 誰から、どの肩書で招かれたのか
- 各行程を県議会公務、獣医師会活動、共通活動のどれに分類したのか
- 航空運賃、宿泊費、車両、通訳などの負担者と按分割合
- 按分を決めた担当者と、最終的な承認者
- 福岡県の政策に持ち帰った成果と、その後の実施状況
特に重要なのは、本人の肩書や専門性ではなく、訪問の目的と成果を基準にすることです。
獣医師会の会長でなければ出席できない会議であっても、福岡県の条例や政策の実施に直接必要で、県議会の正式な派遣として承認され、成果が県民に還元されるなら、公費負担には説明の余地があります。
逆に、獣医師会の組織運営、役員活動、会員向け行事が中心なら、県議会公費ではなく獣医師会側が負担するのが原則です。
両方の目的を持つなら、合理的な基準で費用を分け、その計算を公開する必要があります。
「分けられない」からこそ費用は分けて示す
藏内議長は記者会見で、獣医師と県議会議員の立場は、ワンヘルスを推進する上で分けられないと説明しました。
政策と専門性が結び付いているという意味では、その通りです。
しかし、公費は役職や人脈そのものに支払われるものではありません。福岡県議会の公務として必要な活動に支払われるものです。
県議会の公式資料と会見記録から、私的流用や不当な目的があったと認定することはできません。世界獣医師会の会長就任を目的に海外視察を行ったのかと問われた藏内議長も、会見で否定しています。
だからこそ、疑念を事実のように広げるのではなく、検証できる資料を出すべきです。
県議会は、出張命令、招請状、日程ごとの目的、費用の負担者、按分割合、承認過程を一つの報告書にまとめて公表する必要があります。
専門性を県政に生かすことは評価できます。
その専門性に複数の組織上の役割が重なるなら、説明責任は軽くなるのではなく、より重くなります。
よくある質問
ワンヘルスの海外活動は獣医師会だけの活動ですか
いいえ。福岡県議会はワンヘルス推進基本条例などを議員提案で制定しており、福岡県の公的政策でもあります。海外の行政機関と感染症対策や国際協力を協議することには、県議会公務としての側面があります。
中国訪問の費用は全額が県の公費だったのですか
いいえ。福岡県議会が公表した公費負担額は389万2,000円ですが、藏内議長の西安での宿泊費は日本獣医師会が負担したと明記されています。
藏内議長の海外訪問に不正があったのですか
今回確認した公式資料から、不正や私的流用を認定することはできません。問題は、公務と獣医師会活動が混在する日程について、費用区分の基準と判断過程が十分に公表されていないことです。
まとめ
- 2025年8月の中国訪問団名簿では、藏内勇夫議長に福岡県議会議長、日本獣医師会長、世界獣医師会次期会長の三つの役職が記載された
- ワンヘルスは福岡県議会が条例化した公的政策であり、獣医学の専門性を県政に生かすこと自体に問題はない
- 2025年8月の中国訪問には、政府機関や大使館への訪問と、獣医師会のMOU締結式や大会出席が含まれていた
- 中国訪問の公費負担は389万2,000円で、藏内議長の西安宿泊費は日本獣医師会が負担した
- 公表資料では、その他の共通経費をどの基準で区分したかまでは確認できない
- 県議会は、招請時の肩書、行程ごとの目的、負担者、按分割合、承認過程、県政への成果を公表すべき
公務と専門活動が重なることはあります。
重なるから区分できないのではなく、重なるからこそ、どの費用を誰が負担したのかを県民に示す必要があります。
参考資料
政経プラスチャンネル
福岡県議会や公金の使われ方を、一次資料と会見記録から検証しています。続きは政経プラスチャンネルでご覧ください。


