「前知事の指示だった」
斎藤元彦知事がそれを何度繰り返しても、現職知事としての説明責任は消えません。
兵庫県では、公共用地の取得に使う「公共用地先行取得等事業債」、いわゆる用先債490億円をめぐる不適切な借り換えが発覚しました。
斎藤知事は、井戸敏三前知事や当時の職員へのヒアリングを含む外部検証を進める方針です。
過去の判断を調べること自体は当然でしょう。
しかし、前知事の責任をこれほど強く打ち出すなら、斎藤知事はまず、就任後約5年間、この問題を発見できなかった自らの県政運営を説明するべきです。
338億円を返済せず、490億円全額を借り換え
兵庫県は2000年度、公共用地を取得するために490億円の用先債を発行しました。
2020年度までに、このうち338億円分の土地はすでに売却されていました。
本来は売却代金を借金の返済に充て、残額だけを借り換えるべきところ、兵庫県は338億円を基金に残したまま、490億円全額を借り換えたとされています。
総務省は、土地がすでに存在しない部分まで借り換えた処理について、地方財政法に抵触するおそれがあるとの見解を示しました。
この処理が決定されたのは2020年度です。斎藤知事の就任前であり、当時の意思決定を検証する必要があることは間違いありません。
問題は、斎藤知事が「前知事の指示」を繰り返し強調し、兵庫県の財政悪化まで前知事時代の処理に大きく結び付けて説明していることです。
「2026年7月に初めて知った」は免責にならない
斎藤知事は、2026年7月上旬に財政当局から報告を受け、そこで初めて問題を知ったと説明しています。
この説明が事実なら、斎藤知事が問題を認識しながら5年間放置していたとは断定できません。
しかし「知らなかった」で話が終わるはずもありません。
斎藤知事は2021年に就任し、それから約5年間、兵庫県の最高責任者として予算と財政運営を担ってきました。
490億円もの県債と338億円の土地売却収入に関わる処理が、その間一度も知事まで上がらなかった。
財政状況が厳しいと繰り返し訴えながら、借金の算定根拠や基金残高を十分に点検できていなかった。
総務省から地方財政法に抵触するおそれを指摘される段階になるまで、県庁内で問題を把握・是正できなかった。
これは「前知事の問題」だけではありません。
斎藤県政の内部統制と財政管理が、約5年間にわたって機能していなかった可能性を示す問題です。
斎藤知事が本当に2026年7月まで知らなかったのであれば、それは免責の理由ではなく、別の重大な説明責任を生じさせます。
用先債の影響が消えた後も25%を超える
斎藤知事は、用先債の処理修正により実質公債費比率が0.8ポイント悪化し、早期健全化基準である25%を超える大きな要因になったと説明しています。
0.8ポイントの影響を軽視する必要はありません。
しかし、県が示した試算では、用先債の影響がなくなる2031年度以降も、実質公債費比率は25%を超え続けます。
2026年7月15日の記者会見では、2031年度が25.0%、2032年度が25.2%になるとの試算を示した記者から、財政悪化のより大きな要因は長期金利ではないかと追及されました。
ところが斎藤知事は、用先債の影響が消えた後も25%を超える理由について正面から答えず、「今後の計画策定」や「歳入歳出改革」の説明へ移っています。
これは説明責任を果たした回答とは言えません。
前知事時代の処理による0.8ポイントは繰り返し強調する。
一方で、用先債の影響がなくなっても基準を超える自らの財政運営については、明確に答えない。
この説明の仕方では、財政危機の原因を前知事へ押し付け、自分の責任から県民の目をそらそうとしていると批判されても仕方がありません。
前知事には外部検証、自分への認定は「見解が違う」
さらに見過ごせないのが、外部検証に対する斎藤知事の二重基準です。
兵庫県の文書問題を調べた第三者調査委員会は、県当局の公益通報者への対応について「違法、不当」とする厳しい評価を示しました。
ところが斎藤知事は、その報告を「真摯に受け止める」と述べながら、県の対応は適切だったとの主張を変えませんでした。
第三者委員会との「見解の違い」だとして、核心部分の認定を受け入れなかったのです。
その斎藤知事が、前知事時代の用先債問題では外部専門家による検証を掲げ、前知事や元職員へのヒアリングまで進めようとしています。
自分に向けられた第三者委員会の認定は「一つの見解」として退ける。
前知事に向ける検証では、外部専門家の権威を利用して責任の所在を明らかにしようとする。
検証の基準を、対象が自分か前任者かによって使い分けているように見えます。
これでは、外部検証が真相解明ではなく、政治的に都合のよい責任追及の道具ではないかという疑念を招きます。
兵庫県・文書問題に関する第三者調査委員会報告書
兵庫県・2025年3月27日知事記者会見
検証対象に斎藤県政を含めるべきだ
財務検証部会が本当に中立な機関なら、2020年度の判断だけを調べて終わってはいけません。
少なくとも、次の点まで検証対象に含めるべきです。
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2020年度の全額借り換えを決めた具体的な経緯
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売却収入338億円を返済に充てなかった理由
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斎藤知事就任後の県債・基金残高の点検状況
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問題が約5年間知事へ報告されなかった理由
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2026年7月に問題が発覚した具体的な経緯
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用先債以外の財政悪化要因と斎藤県政の判断
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検証委員の選任過程と政治的な独立性
2020年度の判断だけを切り取り、斎藤知事就任後の点検体制を対象外にするなら、それは財政運営全体の検証ではありません。
前知事だけを狙った調査です。
斎藤知事が「過去の経緯を県民に説明する責任がある」と言うのであれば、同じ言葉を自分自身にも向けるべきです。
前知事を呼ぶ前に、まず自分が答えるべきだ
井戸前知事の指示に問題があったのなら、その事実は明らかにする必要があります。
当時の職員も含め、誰が何を提案し、どのような説明を受け、誰が最終決定したのかを資料と証言で確認するべきです。
しかし、前知事時代の判断に問題があったことと、斎藤知事に責任がないことは同じではありません。
斎藤知事は約5年間、兵庫県の財政運営を担ってきました。
財政危機を語りながら問題を把握できなかった責任。
用先債の影響が消えた後も実質公債費比率が25%を超える理由を、正面から説明しない責任。
自分に対する第三者委員会の認定は退けながら、前知事には外部検証を突き付ける二重基準。
これらを棚に上げたまま、前知事の「負の遺産」を強調する姿勢は、あまりにも一方的です。
県民が求めているのは、前知事を悪者にする物語ではありません。
490億円の借金がどう処理され、なぜ斎藤県政の約5年間で発見されず、用先債以外に何が県財政を悪化させたのかという全体像です。
前知事を追及するなら、自分の5年間も同じ厳しさで検証する。
それができないのであれば、今回の財務検証部会は「責任転嫁のための検証」と疑われても仕方がありません。
斎藤元彦知事は前知事を呼ぶ前に、まず自分が県民の疑問に答えるべきです。
※本稿は動画および2026年8月9日時点の公開資料をもとにした論評です。2020年度の処理に関する個人の法的責任は検証中です。また、斎藤知事が問題を認識しながら約5年間放置していたと断定するものではありません。

