財政危機でもZ世代施策を守る?|斎藤知事の優先順位を検証

兵庫県政

結論から言えば、財政が厳しいから若者向け施策を一律に削るべきだ、とは言えません。教育、就労、住宅、子育てへの支援は、人口流出や人手不足への対策でもあります。一方、「未来への投資」という看板を付ければ、費用や効果の検証を免れるわけでもありません。

兵庫県の斎藤元彦知事は、県立大学の授業料等無償化をはじめとする「若者・Z世代応援施策」について、財政が厳しくても堅持する考えを示しています。では、県の財政はどの程度厳しいのか。Z世代施策には何が含まれ、どの成果まで確認できるのか。公開資料をもとに整理します。

最終確認日は2026年8月11日です。

この記事の要点

  • 兵庫県は2026〜2028年度の3年間で、総額約530億円の収支不足を見込む。
  • 斎藤知事は、財政難の中でも若者・Z世代応援施策を県政の柱として維持する方針を示している。
  • 「Z世代施策」は、県立大学無償化だけでなく、学校環境、奨学金返済、就労、住宅、妊娠・出産支援などを含む。
  • 転出超過は大幅に改善したが、県も住宅価格など外部要因を認めており、施策だけの効果とは断定できない。
  • 守る施策と見直す施策を分けるには、事業別の予算、対象者、利用実績、成果、代替案の公開が必要。

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兵庫県の財政は、どの程度厳しいのか

兵庫県の2026年度当初予算は、一般会計2兆3,182億円です。問題は予算規模の大きさそのものではなく、金利上昇による公債費の増加と、毎年度の収入だけでは支出を賄えない状態が続くことです。

県の2026年度予算資料では、収支不足を2026年度130億円、2027年度180億円、2028年度220億円と見込み、3年間の合計は530億円に達します。2025年度末に236億円を見込んだ財政基金は、2026年度当初予算で129億円を活用するため、107億円まで減る計算です。

借金返済の重さを示す実質公債費比率も、3か年平均で2025年度19.0%、2026年度20.2%になる見通しです。18%を超えると、新たな地方債の発行に国の許可が必要になります。

したがって、「財政危機」という言葉を政争のために誇張する必要はありませんが、通常の予算調整だけで済む状態でもありません。

斎藤知事はZ世代施策を「堅持する」と説明した

2026年5月13日の知事記者会見で、斎藤知事は県立大学の授業料等無償化をはじめとする若者・Z世代応援施策について、財政が厳しい状況でも取組を堅持したいと述べました。

同じ会見では、海外事務所の整理・統合など、他の事務事業を見直す考えも示しています。知事の説明を整理すれば、「すべての事業を同じ割合で削る」のではなく、Z世代施策を重点分野として残し、別の事業や運営方法を見直す方針です。

これは政治的な優先順位です。選挙で掲げた施策を守ることには一定の合理性がありますが、県民から負託を受けたことだけで、個々の事業の費用対効果まで証明されたことにはなりません。

「Z世代施策」は一つの事業ではない

若者・Z世代応援パッケージは、名称から受ける印象より広い施策群です。2026年度予算資料では、主に次の分野が示されています。

  • 教育費:県立大学の授業料等無償化、奨学金返済支援
  • 教育環境:県立学校の空調、老朽施設の修繕、私立学校の特色づくり
  • 就労:高校生・大学生の県内就職、ケアリーバーの自立、企業とのマッチング
  • 住宅:子育て世帯向け住宅、県営住宅への入居支援
  • 妊娠・出産:不妊治療、産後ケア、遠方の医療機関へ通う交通費
  • 困難を抱える若者:不登校、ヤングケアラー、医療的ケア児への支援

この中には、将来の人口や税収への投資という側面だけでなく、現在困っている子どもや家庭を支える行政サービスも含まれています。「Z世代施策を続けるか、切るか」という二択では、論点を粗くしすぎます。

県が挙げる成果――転出超過は大きく改善した

兵庫県が成果として挙げているのは、人口移動の改善です。2025年の転出超過は2,102人で、前年の7,287人から5,185人改善しました。県の資料では、ファミリー層が2,256人、20歳代が2,217人増えたとしています。

奨学金返済支援制度の利用実績が1,000人を超えたことも、県が示した具体的な実績の一つです。

ただし、これらの数字から「Z世代パッケージによって転出超過が5,185人改善した」とは言えません。斎藤知事自身も、東京や大阪圏の住宅価格高騰、兵庫県の住宅価格や交通利便性など、施策以外の要因を挙げています。

確認できるのは、施策の実施時期に人口移動が改善したことまでです。どの事業が、何人の転入・定着につながったのかは、現在の公開資料だけでは分かりません。

財政難でも守るべき施策はある

財政健全化を理由に、効果が現れるまで時間のかかる教育や子育て施策から削れば、短期的な収支は改善しても、若者の流出、人手不足、出生数の減少を悪化させる可能性があります。

特に、不登校支援、医療的ケア児への通学支援、児童養護施設を出た若者への支援などは、人口獲得策としてだけ評価すべきものではありません。支援が必要な人に行政サービスを届けるという役割があります。

一方、県立大学の授業料等無償化のように対象や金額が大きい施策は、県外大学へ通う若者との公平性、所得制限の要否、卒業後の県内定着、国の高等教育支援との重複を継続的に検証する必要があります。

「未来への投資」を検証する5つの基準

限られた財源の中で優先順位を判断するには、パッケージ全体ではなく事業ごとに、次の項目を示す必要があります。

  1. 対象:誰が、何人利用できたのか
  2. 費用:初期費用だけでなく、毎年続く負担はいくらか
  3. 成果:就学、就職、定着、生活改善にどうつながったか
  4. 公平性:似た状況なのに対象外となる人を合理的に説明できるか
  5. 代替案:所得制限、国制度との組み合わせ、民間や市町との分担で効果を保てないか

利用者数が少なくても必要性の高い事業はあります。逆に、利用者が多くても、所得の高い世帯にまで同じ支援を行うことが最善とは限りません。単一の数字ではなく、事業の目的に合った指標が必要です。

まとめ――守るなら、事業別の根拠を示すべきだ

若者・Z世代への支援を財政難の中でも優先すること自体は、将来世代への投資として理解できます。兵庫県では人口移動が改善し、奨学金返済支援などの利用も進んでいます。

しかし、人口移動の改善をパッケージだけの成果と断定することはできません。また、幅広い施策を一つの名称でまとめたままでは、何を守り、何を見直したのかが県民に見えにくくなります。

斎藤県政がZ世代施策を堅持するなら、「未来への投資だから」という説明にとどめず、事業ごとの予算、利用者、成果、公平性、見直し結果を公開することが必要です。それが、財政健全化と若者支援を両立させるための最低条件です。

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