記事タイプ:制度解説・自治体向け施行前チェックリスト
2026年12月1日、改正公益通報者保護法が施行されます。自治体は、職員などからの内部通報を受ける組織であると同時に、事業者や労働者などからの外部通報を受け、必要な権限を行使する行政機関でもあります。
そのため、施行前の準備では「内部通報の窓口があるか」だけでなく、担当者の指定、秘密保持、利益相反の排除、通報者探索・通報妨害の防止、調査結果の通知、記録の保存まで確認する必要があります。
本記事では、消費者庁が2026年5月29日に最終改正した地方公共団体向けガイドラインと、行政機関向けQ&Aをもとに、自治体が施行前に点検したい項目を整理します。
この記事の結論
- 自治体は、内部の職員等からの通報と、外部の労働者等からの通報を分けて対応体制を確認します。
- 内部通報は、部署間をまたいで受け付け、調査・是正を担当する部署と責任者を明確にします。
- 外部通報は、窓口や手続をウェブサイトなどで公表し、別の行政機関に権限がある場合の案内方法も決めます。
- 公益通報対応業務に関わる担当者は、書面などで指定し、秘密保持義務や罰則の対象になり得ることを本人に明らかにします。
- 通報者を探すこと、通報を妨げること、通報に関する情報を範囲外に共有することを防ぐ手順が必要です。
- 小規模な自治体でも、既存窓口の活用や他自治体との連携は可能ですが、秘密保持と個人情報保護を崩してはいけません。
公益通報者保護法の全体像は、公益通報者保護法とは|わかりやすく解説で整理しています。フリーランスを含む通報者の範囲は、公益通報者保護法はフリーランスにも適用?も参照してください。
自治体が確認すべき「2つの通報対応」
1. 内部の職員等からの通報
自治体の職員等から、自治体の事務や事業に関係する法令違反などの通報を受ける仕組みです。地方公共団体向けガイドラインは、部署間横断的な受付窓口を設置し、調査と是正に必要な措置をとる部署・責任者を明確にすることを求めています。
2. 外部の労働者等からの通報
自治体が、通報対象事実について処分・勧告などの権限を持つ行政機関として、事業者の労働者や取引先の労働者、一定のフリーランスなどから通報を受ける場面です。窓口、手続、担当部署を外部から確認できるように公表し、権限のある別の行政機関へ案内する手順も準備します。
行政機関向けガイドラインは、地方公共団体に対しては地方自治法に基づく技術的な助言という位置付けです。ただし、公益通報者保護法や法定指針に基づく体制整備などの義務がなくなるわけではありません。ガイドラインを参考に、自治体の規模や所管事務に合った運用を決めることが重要です。
施行前の準備チェックリスト
- 内部規程を確認する:通報者の範囲、通報対象、受付・受理、調査、是正、通知、記録、苦情対応を規程に落とし込みます。
- 内部通報窓口を部署横断で設ける:受付だけで終わらず、調査・是正まで動ける部署と責任者を定めます。
- 外部通報窓口を公表する:自治体ウェブサイトなどに、通報方法、相談方法、必要な情報、受付後の流れを掲載します。
- 担当者と責任者を指定する:業務に必要な適性・能力を持つ人を選び、指定の範囲と権限を明確にします。
- 秘密保持と個人情報保護を確認する:共有できる人・情報を必要最小限にし、通報者の特定につながる情報を管理します。
- 利益相反を排除する:通報事案に関係する職員を受付・調査から外し、対応の各段階で利益相反を確認します。
- 探索・妨害・不利益取扱いを防ぐ:通報者の探索や口止め、通報を理由とする人事上・契約上の不利益を防ぐ手順を定めます。
- 匿名通報に対応する:匿名でも必要な追加確認ができる連絡方法と、実名通報と同様に扱う範囲を確認します。
- 受付後の説明を定型化する:秘密保持、不利益取扱いの禁止、受理・調査の流れ、通知方法を通報者に説明できるようにします。
- 調査・是正・通知をつなげる:調査の開始や見送る理由、調査結果、是正措置等を、秘密やプライバシーに配慮して通知します。
- 記録保存と運用評価を行う:対応記録の保存期間、アクセス権限、終了後のフォローアップ、制度の点検方法を決めます。
内部通報の受付窓口をどう整えるか
内部通報受付窓口は、全部局の総合調整を行う部局やコンプライアンス担当部局などに置く方法が考えられます。自治体内部の窓口に加え、弁護士などを外部に配置した窓口を設けることも、ガイドラインでは努力事項として示されています。
専用窓口の設置が難しい場合は、職員倫理、労務環境、行政相談などの既存窓口を活用できます。ただし、窓口を兼ねる場合でも、公益通報に関する秘密保持、個人情報保護、利益相反の排除ができる設計にしてください。
単独での運用が難しい自治体は、他自治体との共同設置、事務の委託、協議会などの連携も検討できます。単に別の窓口の電話番号を案内するだけではなく、通報を受けた後に誰が何をするのかまで決めておくことが必要です。
担当者指定と研修で確認すること
公益通報対応業務に関わり、通報者を特定させる情報を伝達される人は、従事者として指定する対象になります。指定は、書面などで本人に分かる形で行い、秘密保持義務や罰則の対象となり得ることも伝えます。
- 誰が受付担当者で、誰が調査・是正を担当するのか
- 通報者を特定させる情報を誰が知り得るのか
- 担当者が不在・関係者・利益相反の場合に、誰が代わるのか
- 通報対応の実務、個人情報、秘密保持、記録管理をどのように研修するのか
- 幹部を含め、通報妨害・通報者探索・不利益取扱いをしてはいけないことをどう周知するのか
制度を規程に書くだけでは、実際の通報対応は動きません。受付担当者だけでなく、人事、法務、監査、所管課、出先機関など、通報後に関わる部署にも役割を伝えておく必要があります。
秘密保持・個人情報保護・通報者探索防止
通報者の氏名だけでなく、所属、通報のきっかけ、通報者しか知り得ない情報、調査が通報を端緒としたことなども、通報者の特定につながり得る情報です。調査対象の事業者や庁内の関係部署に、必要以上の情報を渡さない仕組みが必要です。
範囲外に情報を共有する場合は、目的・共有範囲・不利益の可能性を説明し、通報者等の明示的な同意を得る手順を確認します。紙の回覧、メール転送、共有フォルダの権限、会議資料、口頭報告など、情報が漏れる経路を具体的に点検してください。
また、通報者を探す行為や、通報しないよう求める行為を「事実確認のため」と曖昧に扱わないことが重要です。正当な理由がある場合を除き、通報者探索・通報妨害を防止する措置を規程と研修に反映します。
通報者探索の範囲は、公益通報者探索とは?禁止される範囲と正当な調査、通報妨害の範囲は、公益通報の妨害とは?口止め・不利益の告知は禁止で詳しく説明しています。
外部通報を受ける自治体の準備
外部通報では、自治体が通報対象事実について処分・勧告などの権限を持つかどうかの確認が重要です。受理後に別の行政機関が権限を持つことが分かった場合は、通報者に権限のある行政機関を案内する手順を定めます。
窓口では、事業者の労働者、退職後1年以内の人、派遣労働者、取引先の労働者、一定のフリーランスなど、ガイドラインが想定する通報者の範囲を確認できるようにします。公益通報に当たるかどうかが直ちに判断できない通報を、入口で機械的に排除しない運用も必要です。
- 通報者がどの事業者とどのような関係にあるか
- 問題となる事実が、自治体の所管法令・条例・事務に関係するか
- 通報対象事実やその他の法令違反の可能性があるか
- 受付、受理、不受理、情報提供として扱う場合の基準と通知方法
- 別の行政機関が権限を持つ場合の案内方法
通報先に迷う人が確認できるよう、消費者庁の公益通報行政機関検索システムへの案内を掲載する方法もあります。
調査・是正・通報者への通知
受付後は、受理したか、受理しない場合はその理由、調査を行うか、調査を行わない場合の理由を、通報者に遅滞なく伝える流れを整えます。調査中も、業務や関係者の秘密・信用・名誉・プライバシーに支障がない範囲で、進捗や結果を通知します。
法令違反などが明らかになった場合は、是正措置、再発防止策、必要な関係者への措置につなげます。対応終了後は、是正措置が機能しているか確認し、不利益な取扱いがないかをフォローアップします。
受理から終了までの標準期間を設定できない場合でも、必要と見込まれる期間を知らせる運用を検討できます。自治体の所管事務や法令ごとに事情が違うため、無理に一律の日数を掲げるより、遅延時の説明方法まで決めておくことが実務的です。
自治体が施行前に作るべき資料
- 内部公益通報の受付・調査・是正に関する内部規程
- 外部通報の受付・相談・権限確認・他機関への案内に関する手順書
- 受付票、受理・不受理の通知、調査開始・結果通知、是正措置通知のひな型
- 通報者の特定につながる情報の共有範囲と同意確認の様式
- 担当者指定書、利益相反確認票、秘密保持に関する誓約・研修資料
- 記録の保存期間、アクセス権限、終了後のフォローアップと運用評価の方法
- 職員、出先機関、区域内の事業者・労働者等に向けた制度案内ページ
既存の条例や規則、公益通報規程がある場合は、改正法・指針・2026年5月改正の地方公共団体向けガイドラインと照合します。条例の改正だけで終わらせず、担当者の指定や受付後の実務まで確認することが大切です。
よくある質問
Q. 自治体の内部規程は条例で定める必要がありますか?
A. 条例に限られません。消費者庁の行政機関向けQ&Aでは、内部規程の形式に定めはなく、訓令・規則・要綱など、組織として意思決定された形式で定める必要があると説明されています。
Q. 行政相談やハラスメント窓口と兼用できますか?
A. 組織の実態に応じて兼用できます。ただし、公益通報に関する秘密保持、個人情報保護、利益相反の排除、調査・是正への接続ができることが前提です。
Q. 匿名通報は受け付ける必要がありますか?
A. 内部通報について、地方公共団体向けガイドラインは匿名通報も実名通報と同様に扱うことを示しています。匿名でも追加確認や結果連絡ができる仕組みを用意します。外部通報についても、可能な限り実名通報と同様に扱える仕組みを検討します。
Q. 受理から終了までの期間を必ず決める必要がありますか?
A. 一律の期間設定が難しい場合もあります。標準期間を定めるか、必要と見込まれる期間を通報者に伝える運用を検討します。遅れる場合の説明や、通報者からの意見・苦情を受ける窓口も決めておくと安心です。
Q. 権限が別の行政機関にある通報を受けたらどうしますか?
A. 受理後に別の行政機関が処分・勧告などの権限を持つと分かった場合は、通報者に権限のある行政機関を案内する手順を整えます。通報者の秘密や関係者の権利に配慮しながら、必要な引継ぎや資料提供の範囲も確認します。
まとめ
自治体の施行前準備は、受付窓口の設置だけでは足りません。内部通報と外部通報を分け、担当者、責任者、調査・是正部署、秘密保持、利益相反、通報者保護、通知、記録保存まで一つの流れとして点検する必要があります。
2026年12月1日の施行に向けて、既存の規程と実際の運用を照合し、担当者が迷わず対応できる受付票・通知書・手順書を準備してください。制度を整える目的は、通報を減らすことではなく、法令違反の早期把握と住民・職員・取引先からの信頼を守ることです。
参考資料・相談先
- 消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」
- 消費者庁「地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」
- 消費者庁「地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報)」
- 消費者庁「行政機関向けQ&A(全般)」
- 消費者庁「行政機関に対する通知」
- 消費者庁「公益通報行政機関検索システム」
※本記事は、2026年8月4日時点で公表されている資料をもとに、2026年12月1日の施行前に整理したものです。施行後の運用や事例が公表された場合は、内容を更新します。

