公益通報者探索とは?「通報者探し」が禁止される範囲と正当な調査の違い【2026年改正】

記事タイプ:制度解説・通報者探索の禁止範囲

2026年12月1日、改正された公益通報者保護法が施行されます。今回の改正で、公益通報をした人を特定しようとする「通報者探索」が、正当な理由のない限り禁止されます。

もっとも、通報の対象となった法令違反や不正の事実を調べることまで禁止されるわけではありません。この記事では、何が「通報者探索」に当たり得るのか、正当な内部調査とはどう違うのかを、消費者庁の資料に沿って整理します。

先に結論|禁止されるのは「通報内容の調査」ではなく「通報者を探すこと」

  • 通報者が誰かを直接聞く、アンケートで絞り込む、端末やサーバーを調べて特定するなど、通報者を明らかにする目的の行為は問題になり得ます。
  • 通報された不正が本当にあったのか、原因は何か、再発をどう防ぐかを調べること自体は、通報者探索とは別の行為です。
  • 通報者の氏名や通報内容を必要のない人に共有する「範囲外共有」も別に管理しなければなりません。探索と共有が同時に起こる場合もあります。
  • この記事の基準日は2026年8月4日です。改正法の通報者探索禁止は2026年12月1日から施行されるため、施行後の事例や運用は今後更新します。

公益通報者探索とは何か

ここでいう通報者探索とは、公益通報をした人が誰なのかを明らかにするために、本人や周囲に情報開示を求めたり、情報を集めたりする行為です。

改正法では、正当な理由がないのに、公益通報者であることを明らかにすることを求めること、その他の公益通報者を特定することを目的とする行為が禁止されます。禁止されるかどうかは、行為の形式だけでなく、誰を特定する目的で行ったのかが重要になります。

なお、消費者庁の研修資料では、探索禁止の対象となる「公益通報者」は、公益通報をした人が公益通報者保護の要件を満たすかどうかで、あらかじめ限定されるものではないと説明されています。「保護される通報か分からないから、まず本人を探してよい」という考え方は危険です。

どこまでが禁止されるのか|問題になり得る典型例

1.本人や同僚に直接たずねる

  • 「誰がこの通報をしたのか教えてほしい」と受付担当者や関係者に聞く
  • 特定の従業員に「あなたが通報したのか」と確認する
  • 管理職に対し、通報者を見つけるよう指示する

本人に対する質問だけでなく、周囲から間接的に情報を集める場合も、目的が通報者の特定であれば同じ問題が生じます。通報後に、関係のない部署まで聞き取りを広げることは避けるべきです。

2.アンケートや全社調査で絞り込む

「誰が通報したか」「誰が通報者を知っているか」を尋ねる社内アンケートは、通報者を特定する目的がある場合、探索禁止との関係で問題になり得ます。事実確認のための調査でも、質問項目や対象者の選び方によっては、結果的に通報者を絞り込むことがあります。

3.端末・サーバー・ログから特定する

通報に使われた端末、メール、アクセスログ、サーバーの記録などを調べることも、通報者を特定する目的で行えば問題になり得ます。情報セキュリティ上の事故を調べるためのログ確認など、別の正当な目的による調査まで一律に禁止されるわけではありませんが、調査目的と対象範囲を明確にし、通報者特定のために利用しない管理が必要です。

「不正の調査」と「通報者探索」はどう違うか

通報を受けた事業者や行政機関には、通報された事実が本当にあったのかを確認し、必要なら是正する対応が求められます。そのため、関係資料の確認、関係者への聞き取り、現場の確認、原因分析などを行うことはあります。

行為の目的考え方
通報された不正の有無・原因・影響を確認する通報内容に関する正当な調査として行う。ただし、情報へのアクセスは必要な範囲に限る。
誰が通報したのかを突き止める正当な理由がない限り、改正法の探索禁止との関係で問題になり得る。
通報者の氏名や通報内容を必要のない人に知らせる探索とは別に、範囲外共有として情報管理上の問題になる。

同じ聞き取りやログ確認でも、目的と運用によって評価が変わります。調査開始時に「何を明らかにするための調査か」「誰がどの情報にアクセスできるか」「記録をどう残すか」を決めておくことが重要です。

正当な理由が認められる場面は広くない

改正法は、正当な理由がある場合まで禁止するものではありません。ただし、正当な理由は広く認められるものではなく、消費者庁の資料では、匿名の通報について、秘密を守る義務のある担当者が、通報内容を調査・是正するために必要な範囲で、通報者に事実を知った経緯を確認する場面などが例として示されています。

「社内の誰が通報したか知りたい」「上司に報告するために名前を確認したい」といった業務上の都合だけで、正当な理由があると判断するのは危険です。必要性、質問の範囲、情報を扱う人、秘密保持の方法を具体的に検討する必要があります。

範囲外共有との違い

通報者探索は「誰が通報したのかを探すこと」です。一方、範囲外共有は、通報者の氏名や通報内容などを、調査・是正に必要な範囲を超えて他人に伝えることです。

  • 探索:まだ特定できていない通報者を探す行為
  • 範囲外共有:知っている通報者情報を必要のない人に広げる行為

通報者を探していなくても、受付記録を関係のない管理職や同僚に転送すれば、別の情報管理上の問題になります。逆に、情報を限定して扱っていても、特定を目的に調べれば探索の問題が残ります。社内規程や運用では、両方を別の項目として定める必要があります。

企業が施行前に確認すべき項目

  • 通報を受け付ける窓口と、調査・是正を担当する人を明確にする
  • 通報者の氏名、連絡先、通報内容にアクセスできる人を必要最小限にする
  • 匿名通報を含め、受付から調査、是正、本人への連絡までの手順を確認する
  • 「誰が通報したか」を探す質問、アンケート、ログ利用をしないことを研修・規程に明記する
  • 外部の弁護士、調査会社、親会社などに情報を渡す場合の目的・範囲・秘密保持を確認する
  • アクセス権限、閲覧ログ、保存期間、削除手順を点検する
  • 通報者特定を目的としない内部調査であることを、調査開始時の記録に残す

自治体が施行前に確認すべき項目

  • 各部署の受付窓口と、調査・是正を担当する部署の役割分担を明確にする
  • 匿名で寄せられた通報を、どの範囲の職員が閲覧できるかを決める
  • 処分・勧告などの権限を持つ部署が調査する場合の情報共有ルートを整理する
  • 庁内アンケートや聞き取りが、通報者の絞り込みにならないかを事前に確認する
  • 委託先や外部相談窓口を利用する場合の秘密保持と記録管理を確認する
  • 担当者が通報者の特定を目的にしないこと、必要な場合だけ必要な情報を尋ねることを研修する

通報者本人が証拠を残す方法

通報後に「誰が通報したのか」と尋ねられた、通報を取り下げるよう求められた、配置や契約に不利益があったなどの事情があれば、後から確認できる形で記録を残します。

  • 通報した日時、方法、宛先、伝えた内容、添付資料を一覧にする
  • 口頭で伝えた場合は、直後に「本日この内容を伝えた」とメールなどで確認し、返信も保存する
  • 探索と思われる質問、圧力、不利益な扱いについて、日時・場所・発言者・同席者・発言内容を記録する
  • メール、チャット、文書、画面表示は、元データを変更せず保存し、必要に応じて日時が分かる形でバックアップする
  • 会社の機密情報や第三者の個人情報を、必要以上に持ち出したり公開したりしない

記録は、通報者の立場を自動的に認定するものではありません。しかし、いつ、誰に、何を伝え、その後に何が起きたのかを整理しておくことは、相談や事実確認の土台になります。具体的な不利益や対応については、専門家や公的な相談窓口にも確認してください。

よくある質問

匿名通報なら、通報者を特定してもよい?

匿名であることだけで、すべての問題が解消されるわけではありません。通報内容の固有性などから本人が推測されることもありますが、意図的に本人を探す行為は別に問題になります。匿名通報は、必要な調査ができるようにしつつ、本人の特定につながる情報を限定して扱うことが基本です。

通報された不正を調べるため、関係者に聞き取りをしてもよい?

不正の有無や影響を確認するための聞き取りは、通報者探索とは別です。ただし、質問の中心が「誰が通報したか」の確認になったり、必要以上に対象者を広げたりすると、探索の問題が生じ得ます。調査目的と質問項目を分けて記録しましょう。

施行日前なら、通報者探索をしてもよい?

改正法の探索禁止の施行日は2026年12月1日です。ただし、施行前だから通報者への圧力や無制限の情報共有をしてよいという意味ではありません。既存の公益通報対応、就業規則、個人情報の管理、労務上の問題がないかも含めて、早めに運用を見直すべきです。

まとめ|調査は必要、通報者探しは別問題

公益通報への対応では、通報された事実を調べ、必要な是正を行うことが重要です。一方で、調査に便乗して通報者を探したり、通報者情報を必要のない人に広げたりしてはいけません。

企業や自治体は、施行前から、調査の目的、情報にアクセスできる人、記録の残し方を決めておく必要があります。通報者本人も、通報とその後の出来事を整理して保存しておくと、相談時に状況を説明しやすくなります。

公益通報者保護法の全体像や、改正前後のポイントは、親記事の「公益通報者保護法とは|わかりやすく解説【2026年12月改正施行】」で整理しています。

参考資料

※この記事は2026年8月4日時点で確認できる公表資料をもとに作成しています。制度の運用や施行後の事例が公表された場合は、内容を更新します。個別事案への対応は、専門家や公的な相談窓口に確認してください。

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