「就職氷河期世代の39.1%が、老後の年金は月10万円未満になる」
この数字だけを見れば、氷河期世代の4割が必ず月10万円未満になるように聞こえます。しかし39.1%は、1974年度生まれの人が65歳になる時点を一定の条件で計算した将来推計です。氷河期世代全員の受給額が決まったわけではありません。
それでも、この推計は軽視できません。新卒採用が極端に少なかった時期の不利が、低賃金、非正規雇用、厚生年金の加入期間を通じ、老後まで残る可能性を数字で示しているからです。
この記事では「月10万円未満39.1%」の中身を確認し、現在よく示されるモデル年金との違い、自分の見込額を調べる方法まで整理します。氷河期問題の全体像と当事者の声は、先に公開した就職氷河期はなぜ終わらない?当事者の6つの声と支援策でまとめています。
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「月10万円未満39.1%」は誰の数字か
厚生労働省は2024年の財政検証で、現在の加入記録と将来の就労・経済条件を使い、世代別の年金額分布を初めて推計しました。
そのうち、1974年度生まれが65歳になる2039年度の「過去30年投影ケース」は次の通りです。金額は2039年の名目額ではなく、物価上昇分を調整した2024年度価格です。
| 65歳時点の月額 | 割合 |
|---|---|
| 5万円未満 | 5.7% |
| 5万~7万円 | 12.4% |
| 7万~10万円 | 21.0% |
| 10万~15万円 | 31.6% |
| 15万~20万円 | 24.0% |
| 20万~25万円 | 5.2% |
| 25万円以上 | 0.0% |
10万円未満を合計すると、5.7%+12.4%+21.0%=39.1%です。平均月額は11万9,000円と推計されています。
この計算は、人口を中位推計、物価に対する実質賃金上昇率を0.5%とするケースです。現在の加入記録に、今後65歳まで働く期間などの仮定を加えています。景気、賃金、働き方、加入期間が変われば結果も変わります。
つまり、39.1%は確定した未来ではありません。ただの脅し文句でもありません。現在までに生じた加入記録の差を土台にした、政策が直視すべき警告です。
資料:厚生労働省「令和6年財政検証・第5章 年金額の分布推計」(PDF)
2026年度の「モデル年金23.7万円」と比べてはいけない
厚生労働省が示す2026年度の標準的なモデル年金は、月23万7,279円です。11万9,000円と並べると、氷河期世代は約半分しか受け取れないように見えます。
しかし、比べている単位が違います。
23万7,279円は、男性が平均的な賃金で40年間働いた場合の老齢厚生年金と、夫婦2人分の老齢基礎年金を合計した世帯モデルです。老齢基礎年金の満額は1人7万608円。標準額から2人分の基礎年金を引くと、老齢厚生年金部分は9万6,063円です。
これに対し、11万9,000円は1974年度生まれの「1人当たり」の平均推計です。単身者や非正規期間が長い人の年金を考えるとき、夫婦2人のモデル額をそのまま基準にすると実態を見誤ります。
資料:厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」(PDF)
女性は57.1%が月10万円未満になる推計
同じ1974年度生まれでも、推計には大きな男女差があります。
男性の平均月額は14万1,000円で、10万円未満は21.0%。女性の平均月額は9万8,000円で、10万円未満は57.1%です。
これは性別だけで年金額が決まるという意味ではありません。厚生年金に入っていた期間、賃金、働いた年数など、これまでの就業履歴が反映された結果です。
氷河期世代の女性は、採用難に加え、非正規雇用、結婚や出産による離職、介護との両立など、厚生年金の記録が伸びにくい条件を抱えた人もいます。政策は「世代平均」だけでなく、単身女性を含む低年金層の厚さまで見なければなりません。
年金11万9,000円でも、住まいで生活は大きく変わる
年金額の分布表だけでは、老後の暮らしが成り立つかまでは分かりません。家賃、持ち家の修繕費、医療・介護費、同居家族の有無は計算に入っていないからです。この表は、税や社会保険料、生活費を差し引いた後の可処分所得を示すものでもありません。
賃貸で単身なら、毎月の家賃を1人の年金から払い続けます。持ち家でも、固定資産税や修繕費は必要です。夫婦なら生活費を一部共有できますが、単身者にはその余地がありません。
政府が2026年4月に決定した新たな氷河期世代支援プログラムは、就労だけでなく、家計改善、資産形成、住宅確保、高齢期の生活不安を支援対象に入れました。方向は正しい。ただし、相談窓口を増やしただけでは老後不安は消えません。年金見込額と家賃負担を同じ家計で確認し、住まいを失う前に使える制度へつなぐ必要があります。
自分の年金は「平均」ではなく加入記録で確認する
39.1%や11万9,000円は、個人の受給見込額ではありません。自分の数字は、次の順で確認できます。
- 毎年届く「ねんきん定期便」で加入期間と記録漏れを確認する
- 定期便のQRコードから「公的年金シミュレーター」を開き、働き方や受給開始年齢を変えて試算する
- より正確な記録と見込額は、日本年金機構の「ねんきんネット」で確認する
- 年金だけでなく、65歳以降の家賃、医療・介護費、単身か同居かも別に見積もる
公的年金シミュレーターは簡易試算です。実際の支給額と一致するものではありません。免除期間、加入記録、働き方に不明点がある場合は、年金事務所などで個別に確認する必要があります。
確認:厚生労働省「公的年金シミュレーター」/日本年金機構「ねんきんネット」
政経プラスの考え 39.1%は雇用政策の通知表だ
氷河期世代の年金問題を、本人が若い頃に保険料を多く納めなかった結果だけで終わらせることはできません。新卒採用を絞り、非正規や低賃金の期間を長引かせた雇用の失敗が、保険料記録となって老後に現れます。
39.1%は確定額ではない。しかし、正社員化した人数だけで支援を評価してきた政策の弱点を映す数字です。
今後の氷河期支援で追うべきなのは、窓口の利用者数ではありません。本人の賃金が上がったか、厚生年金の加入記録が伸びたか、65歳時点の見込額が改善したか、家賃を払いながら暮らせるか。ここまでを継続して公開し、改善しない施策は組み替えるべきです。
よくある質問
Q1.氷河期世代の39.1%が必ず月10万円未満になるのですか?
いいえ。1974年度生まれが2039年度に65歳になる時点を、一定の人口・経済・就労条件で計算した将来推計です。個人の受給額は加入期間、賃金、今後の働き方などで変わります。
Q2.平均11万9,000円は手取り額ですか?
手取り額ではありません。2024年度価格に換算した1人当たりの老齢年金月額の推計です。家賃や生活費を含まず、税・社会保険料を差し引いた後の可処分所得を示す数字でもありません。
Q3.自分の年金見込額はどこで確認できますか?
まず「ねんきん定期便」と厚生労働省の「公的年金シミュレーター」で簡易試算できます。より正確に確認したい場合は、日本年金機構の「ねんきんネット」を利用してください。
まとめ
- 月10万円未満39.1%は、1974年度生まれを対象にした一つの将来推計
- 同じケースの平均月額は11万9,000円で、2024年度価格による1人当たりの金額
- 2026年度のモデル年金23万7,279円は夫婦2人の世帯モデルで、直接比較できない
- 女性は10万円未満が57.1%と推計され、単身・低年金への対策が急務
- 就労件数ではなく、年金見込額、家計、住まいまで追う政策評価が必要
氷河期世代の老後は、まだ確定していません。だからこそ、推計を過小評価せず、本人は加入記録を確認し、政府は残された十数年で数字を改善する責任があります。
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