正社員になれば解決するのか|氷河期世代の賃金・退職金・社会保険

経済・暮らし

「就職氷河期世代を正社員にすれば、問題は解決する」

正社員化は重要です。雇用の安定、賞与、社会保険、退職金など、非正規雇用より有利な条件を得られる可能性は高まります。

しかし、正社員になったという事実と、生活を立て直せたことは同じではありません。20代、30代に得られなかった賃金や賞与は、40代、50代で正社員になっても自動では戻らない。退職金の勤続年数や厚生年金の加入月数も、過去へさかのぼって積み上がるわけではありません。

厚生労働省も、氷河期世代は正規雇用労働者であっても、前の世代より賃金の伸びが頭打ちになっていると示しています。

この記事では、正社員化の効果と限界を、賃金、退職金、社会保険、政府の2026年KPIから確認します。氷河期問題の全体像は就職氷河期はなぜ終わらない?当事者の6つの声と支援策、採用機会の差は就職氷河期は自己責任なのかでまとめています。

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正社員でも賃金の伸びは頭打ちになった

厚生労働省の資料には、出生年代別の実質賃金カーブが掲載されています。そこで政府は、就職氷河期世代について「正規雇用労働者であっても、それより前の世代と比較して、賃金の伸びが頭打ちになっている」と説明しています。

図の対象は、学校卒業後に就職し、同じ企業で勤続してきた「標準労働者」です。氷河期世代全員の平均賃金ではなく、非正規期間が長かった人や離職した人を直接表す数字でもありません。

それでも意味は重い。正社員として働き続けられた層でも賃金の伸びが弱かったなら、「正社員になれなかった人だけの問題」とは言えないからです。

資料:厚生労働省「高齢期と年金をめぐる状況」25ページ(PDF)

40代、50代で正社員になっても過去の賃金は戻らない

正社員への転換や転職で、月給が上がる人はいます。雇用が安定し、仕事を通じて技能や経験を積みやすくなる効果もあります。

ただし、過去に受け取れなかった賃金や賞与まで会社が補填する制度ではありません。中途採用時の賃金、昇給、役職への登用は、職歴の評価や会社の賃金制度に左右されます。正社員になっても低い賃金水準から始まり、定年前に十分な昇給期間を確保できない場合があります。

政経プラスの動画では、長い契約社員期間、40代以降の年齢の壁、正社員になっても給与が上がらなかった経験が当事者の声として紹介されました。これらはコメントを基にした個々の経験であり、世代全体の統計ではありません。

しかし、公的資料が示す賃金カーブと重ねると、正社員という肩書だけでは埋まらない問題が見えてきます。失われたのは雇用形態だけではなく、昇給する時間そのものです。

退職金は正社員全員にあるわけではない

厚生労働省の2023年「就労条件総合調査」では、退職給付制度がある企業は74.9%でした。制度がある企業の内訳は、退職一時金のみ69.0%、退職年金のみ9.6%、両方の併用21.4%です。

この調査は、常用労働者30人以上の民営企業から抽出した6,421社を対象とし、3,768社から有効回答を得たものです。小規模な事業所を含むすべての会社の割合ではありません。また、74.9%は制度を持つ企業の割合で、そこで働く全員が同じ条件で受け取れるという意味でもありません。

正社員であっても、会社に退職給付制度がなければ退職金はありません。制度がある場合も、支給条件や算定方法は就業規則などで異なります。非正規だった期間を勤続年数へ含めるかも会社の規程次第で、正社員になった日に過去の年数が自動加算されるわけではありません。

40代、50代から勤続年数を積み始める人と、20代から同じ会社で働いた人では、退職時の金額に差が生じる可能性があります。就職件数だけを数えても、この差は見えません。

資料:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」退職給付制度(PDF)

社会保険は正規か非正規かだけでは決まらない

適用事業所で常用的に働く正社員は、原則として健康保険と厚生年金の対象です。保険料を事業主と本人が分担し、老後の厚生年金だけでなく、病気やけが、障害などへの保障も受けられます。

非正規雇用でも、条件を満たせば加入対象です。2026年8月時点では、フルタイムの4分の3未満で働く人でも、原則として従業員51人以上の対象企業で、週20時間以上、学生ではない、所定内賃金が月8万8,000円以上などの要件を満たせば、健康保険と厚生年金へ加入します。月8万8,000円以上という賃金要件は、2026年10月に撤廃される予定です。

つまり、「正社員だから社会保険あり、非正規だからなし」とは限りません。政策を検証するなら、雇用形態と社会保険加入を別々に確認する必要があります。

老齢厚生年金の報酬比例部分は、過去の報酬と加入期間の月数に応じて決まります。40代、50代から厚生年金に入ることにも意味はありますが、それ以前に厚生年金へ入っていなかった期間まで加入月数になるわけではありません。国民年金を納めていた期間は基礎年金へ反映されるため、「非正規期間はすべて年金の空白」と決めつけるのも誤りです。

資料:厚生労働省「パート・アルバイトの社会保険適用」日本年金機構「厚生年金保険の保険料」日本年金機構「報酬比例部分」

政府KPIは賃金と定着を見始めた

政府が2026年4月に決定した「新たな就職氷河期世代等支援プログラム」のKPIでは、最終成果として、中心層の正規雇用労働者率と不本意非正規雇用労働者率を置きました。出生年代別の実質賃金カーブも参考指標に加えています。

中間成果には、職業訓練修了3か月後の就職率、トライアル雇用から常用雇用への移行率、特定求職者雇用開発助成金の対象者が12か月継続雇用された割合などが入りました。

就職した瞬間だけでなく、その後の定着を見るようになった点は前進です。ただし、12か月の継続雇用率は特定の助成金対象者についての指標で、支援を受けた人全体の定着率ではありません。実質賃金カーブも「参考」で、退職金の有無や個人の年金見込額を直接追う指標はありません。

正社員率が上がっても、低賃金のまま短期間で離職し、退職金も厚生年金の積み上げも少なければ、生活回復とは呼べません。

資料:内閣官房「新たな就職氷河期世代等支援プログラム」KPI(PDF)

政経プラスの考え 正社員化は入口、生活回復が成果だ

正社員化を否定する理由はありません。雇用の安定と処遇改善につながるなら、進めるべきです。

問題は、正社員にした人数だけを実績として掲げ、賃金が上がったか、働き続けられたか、老後の保障が増えたかを見ないことです。氷河期世代への支援が遅れた以上、政策側は次の数字まで追う責任があります。

確認すべき成果見る数字
雇用の安定就職後12か月の継続率、離職理由
処遇の改善就職・転職前後の賃金、賞与、昇給
社会保険健康保険・厚生年金の加入状況と加入月数
退職後の備え退職給付制度の対象、見込額、年金見込額
家計の回復手取り、住居費、家計の黒字化

正社員という呼び名を成果にするのではなく、その後の生活を成果にする。ここを変えなければ、数字上は就職できても「もう間に合わない」という当事者の不信は消えません。

よくある質問

Q1.正社員になれば必ず厚生年金に入れますか?

適用事業所で常用的に働く正社員は原則として対象です。ただし、加入は会社の形態や勤務実態にも関係します。非正規雇用でも、労働時間や企業規模などの要件を満たせば加入対象になります。

Q2.正社員なら必ず退職金をもらえますか?

いいえ。厚生労働省の2023年調査では、常用労働者30人以上の民営企業のうち、退職給付制度がある企業は74.9%でした。実際の対象者、最低勤続年数、計算方法は会社の規程で異なります。

Q3.40代、50代から正社員になる意味はないのですか?

意味はあります。収入や雇用の安定、社会保険、職業経験の面で改善する可能性があります。ただし、過去の賃金差や厚生年金の加入月数まで自動で回復するわけではないため、賃金と定着を含めて条件を確認する必要があります。

まとめ

  • 氷河期世代は、正規雇用労働者でも前の世代より賃金の伸びが頭打ちになった
  • 40代、50代で正社員になっても、過去の賃金や賞与は自動で補填されない
  • 退職給付制度がある企業は74.9%で、正社員全員に退職金があるわけではない
  • 社会保険加入は正規・非正規の呼び名だけで決まらず、厚生年金額は報酬と加入月数に左右される
  • 政府は実質賃金カーブを参考指標にし、特定助成金対象者の12か月継続雇用率をKPIにしたが、支援対象全体の生活回復を測るには足りない

正社員化は入口です。氷河期支援の成否は、その後の賃金、定着、社会保険、退職後の備えがどこまで回復したかで判断すべきです。


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