氷河期世代の女性が失ったのは、安定した仕事と収入、家族形成を考える余裕、老後へ備える期間です。雇用の不安定さに、出産・育児や親の介護の負担が重なりました。この記事では当事者の声と公的資料を分けて、その問題を検討します。
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新卒で正社員になれず、派遣や契約社員から働き始めた人は、雇用が安定しないまま結婚や出産を考える時期を迎えました。出産後に仕事を続けにくく、再就職では非正規に戻る人もいます。50代になると、親の介護との両立も課題になります。
結婚するか、子どもを持つかは個人の選択です。氷河期世代の女性の希望や人生も、それぞれ異なります。
筆者が問題にするのは、希望があっても、雇用、収入、時間の制約で選べなかった人がいることです。その制約を生んだ採用や制度の責任も問う必要があります。
この記事では、政経プラスの動画で紹介した当事者の声を出発点に、女性の正規雇用、第一子出産後の就業継続、育児・介護による離職、政府の2026年KPIを公的資料で確認します。
氷河期問題の全体像は就職氷河期はなぜ終わらない?当事者の6つの声と支援策でまとめています。
49歳、非正規、手取り15万円、独身という現実
政経プラスの動画では、地方に住む49歳の独身女性が紹介されました。長く派遣や契約社員として働き、手取りは月15万円前後。結婚への憧れはあるものの、非正規で独身であることまで自己責任とされる社会のつらさを語ったと紹介しています。
これは一人の当事者について報じられた事例です。動画の視聴者コメントも個々の経験として扱い、世代全体の状況は公的統計で確認します。
それでも、この声を「その人だけの事情」で終わらせることはできません。公的資料にも、女性が正規雇用から離れやすく、出産や介護で仕事を辞める負担を多く引き受けてきた構造が表れています。
働く女性は増えたが、年齢が上がるほど正規雇用の割合が下がる
内閣府の2026年版男女共同参画白書によると、2025年の15~64歳女性の就業率は75.3%まで上がりました。
ところが、女性の正規雇用比率は25~29歳の62.8%をピークに、年齢が上がるほど低下します。就業率の「M字カーブ」は改善しても、正規雇用比率の「L字カーブ」は残っています。
就業率と併せて、正規雇用の割合や、働き続けられる条件も確認する必要があります。
この数字は、2025年の全女性を年齢階級別に比べたものです。25~29歳を頂点に、それより上の年齢層で正規雇用の割合が低いという構造を示します。同じ女性を追跡した結果や、氷河期女性だけの集計ではないため、この図から個人の退職時期や理由までは分かりません。
資料:内閣府「令和8年版男女共同参画白書 第2章・第1節 就業」
出産後も働けるかは雇用形態で大きく違った
氷河期世代の女性が20代、30代だった時期には、正規職員とパート・派遣で、第一子出産後の就業継続率に大きな差がありました。
厚生労働省の資料では、妊娠時に働いていた妻のうち、第一子が生まれた後も就業を続けた割合は次の通りです。
| 第一子の出生年 | 正規職員 | パート・派遣 |
|---|---|---|
| 1995~1999年 | 45.5% | 15.2% |
| 2000~2004年 | 51.6% | 17.6% |
| 2005~2009年 | 52.9% | 18.0% |
正規職員でも半数前後にとどまり、パート・派遣は2割を下回っていました。
この集計は、初婚同士の夫婦について複数回の出生動向基本調査を合わせ、妊娠時に働いていた妻が子ども1歳時点でも就業していた割合を示します。出産しなかった女性や未婚女性は対象外で、氷河期女性全体の割合や個々の退職理由は、この表では確認できません。
ただ、雇用形態によって出産後も仕事を続けられる条件に大差があったことは明確です。新卒時に非正規へ押し出された影響が、出産後の就業継続までつながった可能性を無視できません。
資料:厚生労働省「第一子出産前後の妻の継続就業率・育児休業利用状況」PDF14枚目
希望する家族形成を支える雇用と収入が必要だ
結婚や出産の希望は人によって異なります。独身で暮らす選択や、子どもを持たない選択も尊重されるべきです。
問題は、希望があったのに、低収入や不安定雇用、長時間労働、住まいへの不安によって決断できなかった人まで「自分で選んだ」と扱われることです。
2021年の国立社会保障・人口問題研究所の調査では、「いずれ結婚するつもり」と答えた18~34歳の未婚女性1,731人が、結婚相手の条件について回答しています。経済力を「重視する」が36.3%、「考慮する」が55.3%でした。これは当時の若い世代の結婚意向に関する集計で、未婚女性全体の割合や、氷河期女性の結婚理由を示す数字ではありません。
それでも、家族形成が感情だけでなく、雇用や収入と切り離せないことは分かります。少子化の原因を独身者へ向ける前に、安定した仕事と生活基盤を用意できなかった政策を問う必要があります。
資料:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査 単純集計表」
不妊治療と仕事のどちらかを迫られたという声
別の政経プラス動画では、視聴者から寄せられた経験として、不妊治療のために会社を休む必要があり、休むか辞めるかという状況で治療を諦めたという声を紹介しました。その人は現在、子育て中の同僚の仕事を引き受け、「子どもがいないのだから」という無言の圧力も感じていると述べています。
出典は一人の視聴者が寄せたコメントです。本人の事情は、編集部による独立した確認を行っていません。
しかし、仕事を失う恐れと妊娠・出産の時間制限が同時に迫る問題は、後から職業訓練を用意しても取り戻せません。政策が遅れた時間には、賃金だけでなく、妊娠や家族形成のようにやり直せない部分があります。
関連動画:【一生氷河期】56歳氷河期・生活保護男性の慟哭と当事者の声
50代では親の介護が仕事を再び削る
氷河期世代が50代へ入ると、親の介護が現実の問題になります。内閣府資料では、2022年に家族を介護していた人は629万人で、50代以上の女性がその半数を占めました。
総務省の2022年就業構造基本調査を基にした内閣府資料では、2021年10月から2022年9月までの1年間に「介護・看護のため」前職を辞めた人は、女性8万人、男性2.6万人でした。「出産・育児のため」の離職も、女性14.1万人、男性0.7万人です。
これは全年齢の集計で、氷河期世代だけの数字ではありません。それでも、家族ケアによる離職が女性へ偏っていることははっきりしています。
低賃金のまま親の介護が始まり、勤務時間を減らしたり仕事を辞めたりすれば、収入や厚生年金の加入期間も減る可能性があります。筆者は、新卒時の雇用の不利が老後まで続くことを防ぐために、介護との両立支援も必要だと考えます。
資料:内閣府「令和6年版男女共同参画白書 社会構造の変化と男女で異なる健康課題」
遅れた支援では、失われた時間を戻せない
政府が2026年4月に決定した就職氷河期世代等支援の成果を測る指標(KPI)には、「介護・看護を理由とする離職者数」が入りました。介護離職を政策評価の対象にしたことは必要です。
公表された指標表では、介護・看護による離職者数を挙げていますが、その欄に男女別、年齢別、雇用形態別の内訳や目標値は示されていません。どの層が仕事を失い、復職後にどの雇用形態へ移ったのかまで、内訳を追う必要があります。
正規雇用率、不本意非正規率、実質賃金カーブも、女性と男性を分け、単身か、子育て中か、介護中かまで確認しなければ、氷河期女性の生活回復を測れません。
資料:内閣官房「新たな就職氷河期世代等支援プログラム」KPI(PDF)
政経プラスの考え 女性の生活回復を別に測るべきだ
雇用の入口で不利を受け、家族形成期に有効な支援が届かず、介護期になってから再就職支援を示す。それでは遅すぎます。
失われた出産の機会や家族との時間は、給付金でも職業訓練でも戻りません。だからこそ政府は、取り返せない損失が生じた事実を認め、残された生活と老後を立て直す責任があります。
政策評価では、少なくとも次の数字を男女別に公表すべきです。
| 確認すべき成果 | 見る数字 |
|---|---|
| 雇用の回復 | 正規雇用率、非正規からの転換率、12か月後の定着 |
| 所得の回復 | 支援前後の賃金、手取り、賞与、昇給 |
| ケアとの両立 | 出産・育児・介護による離職と短時間化 |
| 老後の備え | 厚生年金加入月数、年金見込額、貯蓄、住居費 |
| 単身者の生活 | 家賃負担、緊急時に頼れる人、生活困窮の状況 |
筆者が政策の成果として求めるのは、望む生き方を選べるだけの雇用、収入、時間の回復です。正社員になった人数に加え、支援後の生活を測る必要があります。結婚率や出生数で個人の成果を評価することには反対です。
よくある質問
Q1.氷河期世代の女性は、非正規雇用が多いのですか?
氷河期女性だけの割合を判断するには、出生年と性別を分けた集計が必要です。この記事の2025年のL字カーブは、全女性の年齢階級別の正規雇用比率で、25~29歳を頂点に、それより上の年齢層で低くなっています。
Q2.非正規雇用だったから結婚や出産ができなかったのですか?
雇用の安定と家族形成は関わる問題です。第一子出産後の就業継続率は、正規職員とパート・派遣で大きく異なりました。一方、結婚・出産の希望や事情は人によって違うため、個人の原因を雇用形態だけで決めることはできません。
Q3.今からできる支援は何ですか?
賃金を伴う安定雇用、社会保険加入、介護との両立、低年金・住宅不安への支援を一体で進めることです。制度の入口だけでなく、支援後の賃金と定着、年金見込額まで確認する必要があります。
女性が望む生活を選べる雇用・収入・時間を支える
- 女性の正規雇用比率は2025年も25~29歳をピークに下がるL字カーブを描いている
- 1995~2009年の第一子出産後の就業継続率は、正規職員とパート・派遣で大きな差があった
- 2022年調査では、出産・育児、介護・看護を理由とする離職が女性に大きく偏っていた
- 動画の当事者事例や視聴者コメントは統計ではないが、公的資料に表れた構造と重なる
- 政府KPIは男女別、年齢別、雇用形態別に追い、単身女性の賃金・年金・住まいまで測る必要がある
氷河期女性が失ったのは、正社員という肩書だけではありません。昇給する時間、家族について考える余裕、治療や出産と仕事を両立できる環境、老後へ備える期間です。
支援が遅れた責任を、もう本人の選択へ押し戻してはいけません。
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