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発信者情報開示請求とは?匿名投稿者の特定・費用・ログ保存を解説

民事訴訟・判決・和解を表すイラスト 政治SNS・メディア

政経プラスチャンネル|法律・制度解説・保存版

調査基準日:2026年9月5日。2026年10月26日に法令と裁判所の案内を再確認。

発信者情報開示請求は、SNS(投稿を共有するインターネット上のサービス)運営会社や接続事業者などに、匿名の投稿者を特定するための情報を求める手続きです。SNSや掲示板で中傷、個人情報の暴露、なりすましなどの被害を受けた人が、損害賠償(被った損害を金銭などで補うこと)を求める相手を調べるために利用します。

開示には、自己の権利が侵害されたことが明らかであることと、損害賠償請求などのために情報が必要だという正当な理由が要ります。請求する人は、投稿の違法性、通信記録の所在と保存、相手方となる事業者、求める情報を整理します。単に不快な投稿の身元を知りたいという理由は、開示の要件を満たしません。

以下では、請求できる条件、証拠保存、手続き、費用、投稿者への意見照会(開示への賛否や理由を尋ねること)を説明します。

裁判外の請求(裁判所を通さず事業者へ求めること)、仮処分(暫定的な裁判所の命令)や訴訟(裁判所に権利関係の判断を求める手続き)の違いを整理します。

2022年に導入された開示命令(発信者情報を開示するよう命じること)、提供命令(事業者や通信の情報を関係先へ渡すよう命じること)、消去禁止命令(発信者情報を消さないよう命じること)も扱います。画面の保存と、事業者が持つログ(通信の記録)の保全は、別に対応します。

実際に請求を始めるときの証拠保存から申立てまでの順番は、開示請求の実践手順をまとめた記事で確認できます。

発信者情報開示に関係するSNS等の運営者、接続事業者、裁判所、手続きの選択を四つの枠で示す図。SNS等の運営者はIPアドレスや通信日時等を持ち、提供命令によって接続事業者へ情報を提供する。接続事業者は通信と契約者情報を照合する。裁判所は各申立てを審理し、消去禁止命令でログを保全する。投稿削除とは別の手続きであり、裁判外請求や従来型の仮処分・訴訟も残る。
東京地裁「発信者情報開示命令申立て」と情報流通プラットフォーム対処法5・15・16条に基づく整理。典型例ではSNS等の運営者が持つ通信情報と、接続事業者の契約者情報をつなぎます。提供命令では事業者情報を申立人へ、通信情報を接続事業者へ提供し、消去禁止命令では必要なログを保全します。画面の保存とは別で、従来型の仮処分・訴訟や裁判外請求も選択肢として残ります。 出典:東京地方裁判所「発信者情報開示命令申立て」 / 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律 第5条・第15条・第16条(2026年9月30日確認)
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  1. 1.開示請求で調べる投稿・通信・契約者の情報
  2. 2.法律の正式名称と、2025年以降の呼び方
  3. 3.誰が請求できるのか
  4. 4.開示の中心要件は二つある
  5. 5.対象は「不特定の者」に受信される特定電気通信
  6. 6.問題になり得る権利侵害
  7. 7.権利侵害を説明するために必要な根拠
  8. 8.政治家、公務員、候補者への批判はどう考えるか
  9. 9.開示対象となり得る発信者情報
  10. 10.契約者情報の開示後も、誰が投稿したかの確認が必要
  11. 11.投稿時情報と「特定発信者情報」
  12. 12.最初に保存すべき証拠
  13. 13.画面の保存とは別に、事業者の通信記録も保全する
  14. 14.裁判外請求、仮処分・訴訟、開示命令の違い
  15. 15.裁判外の請求で使われる書式とガイドライン
  16. 16.従来型の仮処分・訴訟
  17. 17.2022年に導入された発信者情報開示命令
  18. 18.三つの命令の役割
  19. 19.開示命令の典型的な流れ
  20. 20.申立書で整理する内容
  21. 21.管轄(事件を担当する)裁判所
  22. 22.裁判所に納める手数料
  23. 23.弁護士費用と期間は、依頼範囲や事件の条件による
  24. 24.開示命令の申立ては、2026年10月時点では書面で行う
  25. 25.発信者への意見照会
  26. 26.開示命令への異議と、その後の訴訟
  27. 27.投稿削除とは別の手続き
  28. 28.開示後の賠償請求や刑事手続は、別に進める
  29. 29.開示された氏名・住所の利用には制限がある
  30. 30.開示されない、または特定できない主な理由
  31. 31.海外SNS・匿名化サービス・共有回線
  32. 32.本人が申し立てることもできるが、専門的な準備が要る
  33. 33.2025年施行の大規模プラットフォーム規制
  34. 34.2027年施行予定の選挙情報対策との関係
  35. 35.被害を受けた側の実務チェックリスト
  36. 36.意見照会を受けた側の実務チェックリスト
  37. 37.よくある質問
    1. アカウント名を変えたり、投稿を消したりすれば特定されない?
    2. 鍵アカウントの投稿も対象になる?
    3. リポスト、引用、まとめ転載は誰が発信者?
    4. 開示請求されたと公表されたら、違法投稿が確定した?
    5. 開示されたら必ず高額な賠償になる?
    6. 投稿削除と開示請求を同時に進められる?
    7. 費用倒れになることはある?
  38. 38.政経プラスの視点:被害救済と表現の自由を、手続きで両立させる
  39. 関連記事
    1. 主な参照法令・資料
    2. 共有:

1.開示請求で調べる投稿・通信・契約者の情報

典型的な匿名投稿では、SNS・掲示板の運営者と、回線の接続事業者が別々に情報を持っています。以下では、前者をコンテンツプロバイダ(投稿などを載せる事業者、CP)、後者をアクセスプロバイダ(回線を接続する事業者、AP)と呼びます。

段階主に確認する情報情報を持つ可能性がある者
問題の投稿URL(ページの所在を示すアドレス)、投稿内容、投稿日時、アカウント(サービスの利用名義)識別情報被害者が証拠として保存、SNS・掲示板運営者
投稿・ログイン(利用者認証をして接続すること)時の通信IPアドレス(通信機器や接続先を識別する番号)、ポート番号(通信に使うプログラムを識別する番号)、通信日時などSNS・掲示板等のコンテンツプロバイダ
回線の契約氏名、住所、電話番号など接続事業者・携帯電話会社等のアクセスプロバイダ

例えば、SNS運営会社からIPアドレスと正確な時刻等を得て、その通信を媒介した接続事業者を特定し、次に接続事業者から契約者の氏名・住所等を得る、という経路があります。登録メールアドレスや電話番号だけで特定できる場合、複数の事業者を経由する場合、共有回線等のため追加情報が必要な場合もあり、経路は一律ではありません。発信者情報開示命令手続の全体像(東京地方裁判所)

ここでいう「消去禁止」は通信記録を保全する命令であり、問題の投稿を削除する命令ではありません。投稿者の特定、投稿の削除、損害賠償、刑事責任(犯罪による法的な責任)は、それぞれ目的と手続きが異なります。

2.法律の正式名称と、2025年以降の呼び方

根拠法の現在の正式名称は、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」です。一般には「情報流通プラットフォーム対処法」と呼ばれます。情報流通プラットフォーム対処法(e-Gov法令検索)

以前の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」で、「プロバイダ責任制限法」と呼ばれていました。2024年の改正法が2025年4月1日に施行(効力が生じること)され、法律名も変わりました。改正と施行日の案内(情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト)

法律名は変わりましたが、発信者情報開示の中心的な要件は現在も同法5条に置かれています。2025年改正の大きな追加点は、大規模プラットフォーム(投稿などの場を提供する大規模サービス)に対する削除対応の迅速化・運用の透明化です。発信者情報の開示と、投稿の削除対応を分けて理解する必要があります。

3.誰が請求できるのか

対象は、特定電気通信(不特定の人に受信されることを目的とする通信)です。法5条は、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」に開示請求権を認めています。中心になるのは、問題の投稿で自分の名誉、プライバシー(私生活の情報をみだりに公開されない利益)、著作権(創作した作品の利用などを守る権利)などを侵害されたと主張する本人です。情報流通プラットフォーム対処法5条(e-Gov法令検索)

個人だけでなく、法人(会社など法により権利義務の主体と認められる組織)の名誉・信用や知的財産権(創作や商標などを保護する権利)が侵害された場合に法人が請求者となることもあります。未成年者については、親権者等が法定代理人(法律の定めによって本人に代わり手続きする人)として手続きを行う場合があります。代理人を通じて手続きする場合は、委任状(代理人へ依頼したことを示す書面)や資格を示す資料を確認します。裁判外の請求では、ガイドラインにより、弁護士の委任状は特に事業者から求められない限り添付不要とされるなど、手続きによって扱いが違います。

一方、第三者が「この投稿はひどい」と感じただけでは、通常、その第三者自身の権利侵害にはなりません。政治家、企業、知人を応援する立場から、本人に代わって相手を特定できる制度でもありません。

4.開示の中心要件は二つある

法5条1項の中心は、次の二要件です。

  1. 侵害情報の流通によって、請求者の権利が侵害されたことが明らかであること。
  2. 損害賠償請求権を行使するため必要である場合など、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること。

「権利侵害が明らか」という要件では、投稿が不快かどうかだけでなく、具体的な権利侵害と、違法性を妨げる事情の有無が検討されます。「正当な理由」には、特定後に損害賠償を求める目的などが典型例として挙げられます。インターネット上の人権侵害と発信者情報開示(法務省)

実際の申立てでは、「後で考えるために、とりあえず身元だけ知りたい」では足りません。対象投稿ごとに、誰のどの権利が、どの表現によって、なぜ侵害されたのかを示し、開示後に何を行うのかを説明します。

ログイン時の通信など「特定発信者情報」(ログインなど投稿以外の関連通信だけに係る情報)を求めるときは、これらに加えて、投稿時の通信情報だけでは発信者を特定できない場合など、法5条1項3号の補充的な要件も問題になります。

5.対象は「不特定の者」に受信される特定電気通信

この制度は、インターネット上のすべての通信を対象にした一般的な身元照会制度ではありません。法律上の「特定電気通信」による情報流通が前提です。SNSの公開投稿、掲示板、動画投稿、ブログ、口コミ欄など、不特定の人が受信する仕組みが典型です。

電子メールや一対一のメッセージのように、特定の相手だけに送られる通信は、通常の公開投稿と同じように扱えるとは限りません。DM(特定の相手に送るメッセージ)やグループ機能、公開範囲、転送・転載、サービスの構造で評価が変わり得るため、「DMだから常に対象外」「インターネット上だから常に対象」と断定せず、通信の仕組みを確認します。

P2P(端末同士で直接データをやり取りする方式)ファイル共有による著作権侵害のように、SNS投稿以外で制度が利用される例もあります。対象になるかは、サービス名ではなく、侵害情報がどのように送信され、誰に受信される状態だったかから検討します。発信者情報開示関係ガイドライン(情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト)

6.問題になり得る権利侵害

類型主な争点の例
名誉権(社会的評価を守る権利)・法人の名誉や信用誰についての表現か、事実の摘示(具体的な事実を示すこと)か意見・論評か、社会的評価を低下させるか、公共性・公益目的・真実性等
名誉感情(自分の人格的価値への思い)社会通念上許される限度を超える侮辱か、表現の内容・回数・文脈
プライバシー私生活上の事実または事実らしく受け取られる事項か、一般に知られていないか、公開を望まないことが相当か
肖像権(容姿をみだりに撮影・公表されない利益)・氏名等に関する利益無断利用の態様、公開の目的、場所、必要性、本人が受ける不利益
著作権・著作者人格権(氏名表示や作品の同一性などを守る著作者固有の権利)著作物性(著作権の保護対象となる性質)、権利帰属(誰が権利を持つか)、利用行為、許諾(権利者からの利用の許可)や引用(一定条件で他人の作品の一部を自分の表現へ取り込むこと)等の抗弁(相手の請求が成り立たない理由を示す主張)
商標権(登録した商品やサービスの目印を守る権利)など指定商品・役務(商標登録で保護対象とする商品やサービス)、商標的使用(商品などの出所を示す目印として使うこと)、類似性、権利制限(一定条件で権利者の許可なく使える規定)等
営業上の信用・業務虚偽情報や妨害行為の内容、対象、損害との関係

これは入口の整理です。同じ一文でも、直前直後の投稿、画像、引用元、発信の目的、読み手の通常の理解によって評価が変わります。法務省も、ネット上の名誉毀損(社会的評価を傷つけること)やプライバシー侵害を代表的な人権問題として案内しています。インターネット上の人権侵害をなくしましょう(法務省)

7.権利侵害を説明するために必要な根拠

開示を求める側は、投稿本文を示すだけでなく、権利侵害を基礎づける資料を用意します。

名誉毀損を主張するなら、投稿の対象が請求者だと読み手に分かること、どの部分が社会的評価を低下させるのか、その事実に真実性がないこと等を具体化します。プライバシー侵害なら、公開された情報が何か、なぜ私生活上の情報なのか、すでに広く公表されていた情報ではないこと等を示します。著作権侵害なら、権利者であること、元の著作物、無断利用された部分を示します。

権利侵害の判断には、表現の内容と文脈、対象者が分かるか、どの権利を侵害したかが関わります。強い表現、批判、失礼な言い方だけでは、権利侵害の明白性を示す根拠として不十分です。短い投稿や伏字でも、画像、リンク、周辺の発言から対象者を特定でき、権利侵害が認められる場合があります。

8.政治家、公務員、候補者への批判はどう考えるか

政治や行政に関する発信では、公共的な問題への批判と、事実無根の中傷や私生活情報の暴露を区別しなければなりません。

公職者や候補者の名誉やプライバシーも保護の対象です。公的活動への評価、政策への反対、権力行使の検証については、表現の自由との慎重な調整が必要になります。名誉毀損では、公共の利害に関する事実か、専ら公益を図る目的か、摘示した事実の真実性等が重要な争点になります。

したがって、「公人だから何を書いてもよい」「本人が虚偽だと言えば開示される」という説明はいずれも正確ではありません。政経プラスでは、開示請求が行われたという事実、請求者の主張、事業者の対応、裁判所の判断、最終的な賠償責任を分けて扱います。

9.開示対象となり得る発信者情報

開示対象は、法律が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」と定め、総務省令が列挙した情報です。事業者が持つあらゆる情報を無制限に請求できるわけではありません。情報流通プラットフォーム対処法施行規則2条(e-Gov法令検索)

主なものは次のとおりです。

  • 発信者その他、侵害情報の送信等に関係する者の氏名または名称。
  • 住所。
  • 電話番号。
  • 電子メールアドレス。
  • 侵害情報の送信に使われたIPアドレスと、そのIPアドレスと組み合わされたポート番号。
  • 携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別符号。
  • SIM識別番号(携帯回線の契約情報を記録する媒体の識別番号)。
  • 侵害情報が送信された年月日と時刻。
  • 特定のログイン等の侵害関連通信(投稿と相当の関連があるログインなどの通信)に係るIPアドレス・ポート番号、識別符号、SIM識別番号、SMS(電話番号を使う短いメッセージ)電話番号、通信日時など。
  • 事業者間の接続・共用・卸役務(別の通信事業者に提供する通信サービス)に関係する利用管理符号(事業者同士が利用者や回線を識別する符号)。

どの項目が必要かは通信経路で変わります。例えば、同じIPアドレスを多数の利用者で共有する仕組みでは、日時だけでなくポート番号が契約者の絞り込みに重要になることがあります。

10.契約者情報の開示後も、誰が投稿したかの確認が必要

接続事業者から開示される氏名・住所は、回線の契約者情報である場合があります。家庭、会社、学校、店舗のWi-Fi(無線でネットワークにつなぐ方式)、共有端末などでは、契約者と投稿操作をした人が一致しない可能性があります。

開示によって分かるのは、その事業者が法定の対象情報として保有している内容です。開示された氏名が直ちに最終的な加害者であると確定するわけではありません。特定後の交渉や訴訟では、誰が投稿したのか、代理投稿や乗っ取りがあったのかなどが改めて争点になることがあります。

この点は報道やSNS発信でも重要です。「契約者情報が開示された」と「本人が違法投稿を行ったと裁判で確定した」を混同してはいけません。

11.投稿時情報と「特定発信者情報」

投稿に直接使われたIPアドレス等が保存されていれば、そこから接続事業者をたどるのが基本形です。しかし、サービスによっては投稿時の情報を保存していない、または投稿と通信の対応を確認できず、アカウント作成やログイン、ログアウト(サービスの利用状態を終えること)等の情報が必要になる場合があります。

法は、このような侵害情報そのものの送信ではないものの、発信者の特定に必要になり得る通信情報を「特定発信者情報」として扱います。ただし、プライバシーや通信の秘密(通信内容や相手などを他人に知られない利益)への影響が大きいため、単に取れそうなログを広く求めるのではなく、投稿時情報だけでは特定できないなどの補充的要件が置かれています。情報流通プラットフォーム対処法5条1項3号(e-Gov法令検索)

東京地裁の記載例でも、アカウント作成時や、侵害情報の投稿に最も近接したログイン時など、求める通信と投稿との関係を具体的に記載する構成になっています。申立書記載例・コンテンツプロバイダ向け(東京地方裁判所)

12.最初に保存すべき証拠

投稿が消えたり、表示名が変わったりする前に、少なくとも次の情報を保存します。

  • 投稿のURL。トップページや検索結果のURLではなく、可能なら個別投稿を特定できるURL。
  • 投稿本文、画像、動画、音声、添付資料。
  • 投稿日時。画面表示のタイムゾーン(同じ標準時を使う地域区分)にも注意する。
  • アカウント名、ユーザーID(利用者を識別する文字や番号)、プロフィールURL、識別番号。
  • 投稿の前後関係、返信先、引用元、スレッド(関連する投稿のまとまり)全体。
  • 誰についての投稿かが分かる周辺情報。
  • 表示した日時、使用端末、操作手順。
  • 閲覧数、共有数、反応数など、損害や拡散状況に関係する表示。
  • 被害に関係する問い合わせ、取引取消し、相談記録、医療記録等。

スクリーンショット(画面を保存した画像)だけでなく、URL欄を含む画面、画面全体のPDF(機器が違っても表示を保ちやすい文書形式)保存、動画の場合は再生状況が分かる記録など、後から第三者が内容と場所を確認できる形が望まれます。東京地裁の現行書式でも、投稿URL・日時・権利侵害の説明と、裏付け資料を整理します。参考:インターネット上の人権侵害への対処(政府広報オンライン)

加工した画像だけを残すと、改変の有無や掲載場所が争われやすくなります。公開ページの保存と、被害を説明するための抜粋を分けて保管すると確認しやすくなります。

13.画面の保存とは別に、事業者の通信記録も保全する

画面の保存は被害者が行い、サーバ(情報を保管・配信するコンピュータ)の通信記録は事業者が保有します。それぞれ別に保存の対応が必要です。発信者を特定するには、IPアドレス、ポート番号、通信日時と契約者情報を対応させるログが必要になる場合があります。

ログの保存期間は、事業者、情報の種類、サービス設計によって異なります。東京地裁の2026年10月更新の申立書記載例は、アクセスログの保存期間が一般に短く、例として3か月程度で消去され得るため、開示を待っている間に発信者を特定できなくなるおそれがある、という主張例を示しています。これは全事業者が必ず3か月保存するという意味ではありません。2026年10月更新の記載例(3頁)を確認できます。申立書記載例(東京地方裁判所)

権利侵害が明白でも、必要な情報がすでに消えていれば、技術的に特定できない場合があります。投稿から時間がたっている、海外事業者が関わる、複数の中継事業者がある、共有IP(複数の利用者が同じIPアドレスを使う仕組み)が使われている場合は、特に早く経路を確認する必要があります。

14.裁判外請求、仮処分・訴訟、開示命令の違い

入口概要主な特徴
裁判外の開示請求事業者の窓口やガイドライン(実務対応を示す指針)書式を使って任意の開示を求める負担が比較的小さい一方、争いがある案件では任意開示に至らないことがある
従来型の仮処分・訴訟CPへの仮処分、APへの開示請求訴訟などを組み合わせる訴訟手続の選択、担保(仮処分による相手の損害に備えて納める金銭など)、海外法人対応等を個別に検討する
発信者情報開示命令2022年10月からの非訟手続(通常の訴訟とは別に裁判所が判断する手続き)で、開示命令・提供命令・消去禁止命令を利用するCPとAPに関する手続きを同じ裁判所で一体的に進められる場合がある

請求する人は、事業者の所在地、ログの残存見込み、求める情報、投稿数、争点、海外送達(裁判書類を海外へ法定の方法で届けること)の要否、急ぎの程度に合わせて手続きを選びます。

15.裁判外の請求で使われる書式とガイドライン

情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会は、「発信者情報開示関係ガイドライン第10版」、開示命令事件の対応手引き、Q&A、2025年5月以降の書式を公表しています。発信者情報開示関係資料・書式(情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト)

裁判外の請求では、対象投稿、侵害された権利、理由、希望する開示項目、本人確認資料などを提出し、事業者が法令・ガイドライン等に沿って判断します。裁判外の請求でも、権利侵害を説明する根拠が必要です。

事業者は通信の秘密や発信者の権利にも配慮する立場にあるため、権利侵害が明白でない案件では、裁判所の判断なしに開示しないことがあります。裁判外の請求をしただけでログが必ず保存されるとも限らないため、保存要請や裁判手続の必要性を別に検討します。

16.従来型の仮処分・訴訟

従来型の典型例は、SNS等のコンテンツプロバイダに仮処分を申し立ててIPアドレス等を得た後、接続事業者に対して氏名・住所等の開示請求訴訟を起こす流れです。

この方法では、CPとAPに対する別々の裁判手続が必要になりやすく、その間にAPのログが消える危険がありました。事案によっては、記録保存を求める仮処分や任意の保存要請も組み合わせます。

2022年以降も、従来型の仮処分・訴訟を選べます。開示命令事件の対応手引きも、請求者が発信者情報開示請求訴訟と開示命令の申立てを選べることを説明しています。「発信者情報開示命令事件」に関する対応手引き(情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト)

17.2022年に導入された発信者情報開示命令

文化庁の制度案内によると、2022年10月1日、改正法の施行により、地方裁判所の非訟手続として発信者情報開示命令事件が始まりました。従来は異なる裁判で二段階の判断を得ることが多かったところ、CPとAPに対する事件を同じ裁判所で併合(まとめて扱うこと)し、一体的に審理できる仕組みを設けたものです。文化庁の発信者情報開示の説明で確認できます。改正制度の案内(政府広報オンライン)

「一つの手続き」と説明されることがありますが、相手方が複数なら、それぞれに対する開示命令の申立てが必要です。提供命令や消去禁止命令も別の申立てです。それぞれの申立てに、必要な書類、手数料、事業者への直送などを用意します。

開示命令事件は簡易・迅速な非訟手続ですが、争いが大きい場合には、決定に対する異議の訴え(不服を訴訟で争う手続き)に移ることがあります。最終的な解決までの時間は、事案と当事者の対応に左右されます。

18.三つの命令の役割

命令相手役割
発信者情報開示命令CP、APなど法5条の要件を満たす発信者情報を請求者に開示させる
提供命令先に相手方としたCPなど経由事業者の名称・住所等を請求者に提供し、IPアドレス等を請求者には秘したまま経由事業者へ提供させる
消去禁止命令APなど開示命令事件(異議の訴えが提起されたときは、その訴訟)が終わるまで、特定に必要な発信者情報を消去しないよう命じる

提供命令は、CP側の開示判断を待たずにAPへの申立てを進め、AP側で契約者情報を特定・保全しやすくする制度です。CPからAPへ渡るIPアドレス等は、提供命令の段階では請求者に秘密にしたまま扱われる構造があります。開示命令事件対応手引き・2~5頁(情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト)

消去禁止命令の対象は、発信者情報です。投稿自体を画面から消す「削除命令」ではありません。この違いを取り違えると、希望する被害回復と申立ての内容がずれます。

19.開示命令の典型的な流れ

  1. 被害者が投稿の証拠を保存し、権利侵害と通信経路を検討する。
  2. CPを相手方として、発信者情報開示命令と提供命令を地方裁判所へ申し立てる。
  3. 裁判所が要件を審理し、必要があれば提供命令を出す。
  4. CPが、保有するIPアドレス等からAPを特定し、APの名称・住所等を申立人へ提供する。
  5. 申立人がAPを相手方とする発信者情報開示命令を申し立て、その旨をCPへ通知する。APの名称等の提供を受けた日から2か月以内に通知しなければ、提供命令は該当部分について効力を失う。
  6. CPがIPアドレス・日時等を、申立人には秘密にしたままAPへ提供する。
  7. APが契約者情報を特定し、必要に応じて消去禁止命令により保全する。
  8. CPとAPに対する事件を併合し、裁判所が開示要件を審理する。
  9. 開示命令が出て確定すれば、保有する範囲で情報が請求者へ開示される。

これは単一のAPが関与する典型例です。海外事業者、複数の経由事業者、レンタルサーバ、VPN(通信を別のネットワーク経由へつなぐ仕組み)、企業内回線などが関係すれば、流れは変わります。対応手引きも、図示する流れは一例で、当事者の対応や裁判所の手続指揮により異なり得ると説明しています。開示命令事件対応手引き(情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト)

20.申立書で整理する内容

東京地裁の書式では、申立書本体に加え、当事者目録(申立人と相手方の一覧)、発信者情報目録(求める情報の一覧)、投稿記事目録(対象投稿の一覧)、権利侵害の説明、主文目録(命じてほしい内容の一覧)などを組み合わせます。発信者情報開示命令の書式集(東京地方裁判所)

主な準備事項は次のとおりです。

  • 申立人と相手方を正確に特定する資料。法人なら資格証明書等。
  • 対象投稿を一意に示すURL、日時、本文、画像、アカウント情報。
  • 求める情報を省令の区分に対応させた発信者情報目録。
  • 名誉権、プライバシー、著作権等のどの権利が、なぜ侵害されたか。
  • 違法性を妨げる事情がないことを基礎づける資料。
  • 開示後に損害賠償請求等を行うという正当な理由。
  • 特定発信者情報を求める場合の補充性。
  • 提供命令、消去禁止命令が必要な理由。
  • 書証(文書などの証拠)、証拠説明書、委任状、翻訳、送達関係書類等。

裁判所は法律相談を行う機関ではありません。書式が公開されていても、どの権利を主張すべきか、相手方は誰か、どの情報を求めるべきかを裁判所が申立人に代わって設計するわけではありません。

21.管轄(事件を担当する)裁判所

開示命令事件は地方裁判所に申し立てます。法9条は、日本の裁判所が扱えるかを定める国際管轄の規定です。国内のどの裁判所へ申し立てるかは、相手方である開示関係役務提供者(情報の開示を求められる事業者)の所在地などを基礎に法10条で定めています。同条3項には、東京地方裁判所または大阪地方裁判所にも申し立てられる場合の特則があります。情報流通プラットフォーム対処法9条・10条(e-Gov法令検索)

東京地裁は管轄のフローチャートを公表し、東京高裁、名古屋高裁、仙台高裁、札幌高裁の各管轄区域内の地方裁判所が管轄を持つ場合に東京地裁へ申し立てられるなど、追加の規定があると案内しています。管轄の案内(東京地方裁判所)

知的財産権関係では担当部・庁舎が異なる場合があります。相手方の登記上の所在地、事件の内容、法9条・10条、手続規則と、申立先裁判所の最新案内を照合します。

22.裁判所に納める手数料

東京地裁の現行案内では、次の申立てごとに1件1,000円の収入印紙(手数料や税の納付に使う証票)が必要です。

  • 発信者情報開示命令の申立て:1,000円。
  • 提供命令の申立て:1,000円。
  • 消去禁止命令の申立て:1,000円。

申立人または相手方が複数なら、人数に応じて印紙額が増えます。CPへの開示命令、CPへの提供命令、APへの開示命令、APへの消去禁止命令を申し立てる例では、それぞれ別の手数料が問題になります。申立手数料の案内(東京地方裁判所)

この金額は、投稿者特定までの総費用ではありません。東京地裁では、申立て時に相手方の数に応じたレターパックライトを納め、ほかの郵便料は必要な段階で納める扱いです。郵便料、レターパック、法人の資格証明書、翻訳、海外送達、記録取得、弁護士費用、担保が必要な仮処分、特定後の賠償請求などは別です。裁判所や手続きにより予納(前もって納めること)の方法が異なるため、申立先の案内を確認します。

23.弁護士費用と期間は、依頼範囲や事件の条件による

弁護士に依頼する場合の料金は公定価格(国などが公的に決めた価格)ではありません。相談料、着手金(依頼時に払う費用)、報酬金(結果などに応じて払う費用)、実費、日当(出張などの拘束に応じた費用)、海外法人対応、投稿数、追加のAP、削除手続、損害賠償請求まで含むかで変わります。

見積もりを比較するときは、次を確認します。

  • 裁判外請求だけか、CP・APへの裁判手続まで含むか。
  • 提供命令、消去禁止命令、仮処分、異議の訴えが含まれるか。
  • 投稿やアカウントが複数の場合の追加費用。
  • 発信者を特定できなかった場合にも発生する費用。
  • 開示後の示談(話合いによる解決)交渉、損害賠償訴訟、削除請求が別契約か。
  • 相手が海外法人の場合の翻訳・資格証明・送達費用。

所要期間も、裁判所、事業者、意見照会、争点、海外送達、異議の有無に左右されます。「最短何日」という広告的な数字を、すべての案件の見通しにしないことが重要です。時間の見積もりより先に、ログが消えるおそれへの対応を検討します。

24.開示命令の申立ては、2026年10月時点では書面で行う

2026年5月21日から民事訴訟の全面IT化(情報技術を使った電子化)が始まりましたが、東京地裁の2026年10月26日確認の案内でも、発信者情報開示命令事件は電子申立ての対象外です。従来どおり書面で申立書を提出します。

一方、開示命令申立てについての決定に対する異議の訴えは、電子申立ての対象と案内されています。電子申立ての可否(東京地方裁判所)

「民事裁判が電子化されたから、この申立てもオンラインで完結する」と考えると、期限や提出方法を誤る可能性があります。申立先の最新ページと書式の改訂日を確認してください。東京地裁では、2026年10月更新の書式・記載例が公開されています。

25.発信者への意見照会

開示関係役務提供者は、開示請求を受けたとき、発信者と連絡できない場合などを除き、開示に応じるかどうかについて発信者の意見を聴かなければなりません。発信者が開示に反対する場合には、その理由も聴く仕組みです。情報流通プラットフォーム対処法6条(e-Gov法令検索)

意見照会が届いた時点では、投稿の違法性も開示も確定していません。請求があったことを受け、事業者が判断するために発信者の説明を求めている段階です。

発信者側は、対象投稿、求められている情報、主張されている権利、回答期限を確認します。不同意なら、単に「同意しない」と書くだけでなく、対象者を特定できない、事実が真実で資料がある、意見・論評として前提事実がある、正当な引用であるなど、案件に応じた主張と証拠を整理します。

不同意の回答も判断材料の一つですが、最終的な開示の可否は法定の要件に基づいて判断されます。同意した場合や期限までに回答しない場合の扱いも、事業者の通知と手続状況を確認します。後の損害賠償や刑事事件につながり得るため、重要な案件では早めに法律相談を検討します。

26.開示命令への異議と、その後の訴訟

開示命令の申立てについて裁判所がした決定に不服がある当事者は、法14条に基づく「異議の訴え」を提起できます。情報流通プラットフォーム対処法14条(e-Gov法令検索)

異議の訴えは、決定をした裁判所へ起こす訴訟手続です。期間は決定の告知を受けた日から1か月の不変期間(裁判所が伸ばしたり縮めたりできない期間)です。不適法として却下(手続き上の理由で退けること)された決定は法14条の対象から除かれます。提起できる期間、当事者、管轄、決定の効力との関係を確認する必要があります。開示命令事件が非訟手続として設けられていても、争いが強ければ訴訟による審理へ移る仕組みがあるため、すべての案件が短期間で確定するとは限りません。

開示要件についての判断と、投稿者に対する損害賠償請求の判断も別です。開示後の訴訟では、投稿者性、違法性、故意(わざと行うこと)・過失(注意を怠ること)、損害額、因果関係(行為と結果のつながり)などが争われ得ます。

27.投稿削除とは別の手続き

東京地裁は、発信者情報開示命令事件の中で投稿記事の削除を求めることはできないと明記しています。投稿削除との違い(東京地方裁判所)

削除を望む場合には、主に次の方法を別に検討します。

  • サービスの通報機能・利用規約に基づく削除依頼。
  • 法務省の書式等を用いた送信防止措置(投稿を削除するなどして届かないようにする対応)の依頼。
  • 法務局の人権相談と、事案に応じた削除要請。
  • 裁判所に投稿削除を求める仮処分や訴訟。

法務局の救済措置は、任意の協力を前提に自主的改善を促すもので、強制力がある裁判所の命令とは性質が異なります。人権相談の調査・救済(法務省)

投稿を急いで消す必要と、特定に必要な証拠・通信記録を残す必要が同時に生じることがあります。削除依頼をする前に証拠を保存し、発信者特定も希望する場合はログ保存の対応を確認します。

28.開示後の賠償請求や刑事手続は、別に進める

開示は、発信者を特定して被害回復に進むための手段です。開示された後、必要に応じて、通知書の送付、交渉、民事調停(裁判所を通じた話合い)、損害賠償訴訟などを検討します。

損害賠償では、慰謝料(精神的苦痛に対する賠償金)だけでなく、調査費用・弁護士費用の一部、営業損害などが主張されることがありますが、認められる項目と金額は個別に判断されます。開示にかかった全費用が自動的に全額相手負担になるわけではありません。

投稿が名誉毀損、侮辱、脅迫、業務妨害などの犯罪に該当すると考える場合、警察への相談や告訴(犯罪被害を捜査機関へ申告し処罰を求めること)等が問題になります。ただし、民事の発信者情報開示請求と警察の捜査は別制度です。刑事手続を望む場合も、URL、画面、日時、被害状況などの証拠を整理し、時効(一定期間の経過で訴追などが制限される制度)や告訴期間(告訴するための法定の期限)を含む期限を確認します。SNS被害への主な対処(法務省)

29.開示された氏名・住所の利用には制限がある

法7条は、開示を受けた者が発信者情報をみだりに用いて、発信者の名誉または生活の平穏を害する行為をしてはならないと定めています。情報流通プラットフォーム対処法7条(e-Gov法令検索)

損害賠償請求、削除交渉、裁判手続など、開示を受けた正当な目的に沿って扱う必要があります。氏名や住所をSNSで公開する、家族や勤務先へ嫌がらせをする、支援者に拡散して攻撃を促すといった行為は、開示を受けた側の新たな責任につながり得ます。

発信者情報を報道・発信で扱う場合も、「開示された人物」「回線契約者」「実際の投稿者」「違法性や賠償責任が確定した者」を正確に区別します。

30.開示されない、または特定できない主な理由

理由何が起きているか
権利侵害の明白性が認められない対象者を特定できない、社会的評価を下げない、違法性を妨げる事情がある等
正当な理由が認められない開示目的が被害回復と結び付かない、情報を不当に利用する目的が疑われる等
対象が法の「特定電気通信」に当たらない特定の相手だけへの通信など、制度の対象外となる可能性
相手方を誤っているその事業者が対象情報を保有・媒介していない
求める情報が省令の範囲外法定の発信者情報に当たらない情報を求めている
ログが残っていない保存期間経過、サービス設計、閉鎖等で情報がない
通信を一人に結び付けられない共有IP、ポート番号不足、時刻のずれ、複数段の中継等
契約者と投稿者が異なる家族・会社・共有Wi-Fi・端末利用者等の追加確認が必要
海外事業者への手続きが進まない法人特定、資格証明、翻訳、送達、準拠手続等の問題

開示請求の結果を読む際は、認められた理由や認められなかった理由を確認します。ログの消失、相手方の誤り、証拠不足が理由の場合もあるため、開示の不認容(認めない判断)を投稿の適法性の最終判断として扱うことはできません。情報が開示された場合も、損害賠償額や刑事責任は別に判断されます。

31.海外SNS・匿名化サービス・共有回線

海外法人がSNSを運営している場合、相手方の正確な法人名・所在地、国内代表者の有無、資格証明書、翻訳、送達方法が問題になります。日本向けサービスだから、必ず日本法人が発信者情報を保有しているとは限りません。

VPN、プロキシ(通信を中継する仕組み)、ホスティング事業者(サイトなどを置くサーバを貸す事業者)、CDN(各地のサーバから情報を配信する仕組み)等が間に入る場合、得られたIPアドレスが投稿者の契約回線を直接示さないことがあります。共有IPではポート番号や正確な時刻が欠けると照合できない場合があります。端末時刻、画面表示時刻、事業者ログのタイムゾーンがずれていないかも確認します。

通信の経路が複雑なほど、「どの事業者が、どの通信について、どの情報を持つか」を調べ、請求先と求める情報を組み立てる必要があります。投稿内容の違法性の検討と併せて進めます。

32.本人が申し立てることもできるが、専門的な準備が要る

発信者情報開示命令は、本人が申し立てることもできます。東京地裁は申立書、チェックリスト、各種目録の記載例を公開しています。申立書式・記載例(東京地方裁判所)

ただし、投稿ごとの権利侵害の説明、相手方法人の特定、特定発信者情報の補充性、ログ保存、海外送達、異議への対応は専門的です。期限が迫る案件では、書式を読み始めてから判断する間にもログが消える可能性があります。

費用面で弁護士依頼が難しい場合は、法テラスの情報提供・法律相談、自治体や弁護士会の相談、法務局の人権相談、違法・有害情報相談センターなど、目的に合う窓口を確認します。窓口ごとに、削除支援、一般的な助言、代理手続、費用援助の範囲が異なります。インターネット上の書込みに関する法テラスFAQ

33.2025年施行の大規模プラットフォーム規制

2025年4月1日施行の改正で、一定規模以上の「大規模特定電気通信役務提供者」(法律に基づいて指定された大規模なサービス事業者)に、権利侵害情報への対応の迅速化と運用状況の透明化に関する義務が導入されました。

主な枠組みは、削除申出を受け付ける方法の公表、必要な調査を行う体制、専門員の選任、申出者への判断結果の通知、削除基準の公表、運用状況の公表などです。対象事業者の指定や具体的な義務は法20条以下、施行規則、総務省ガイドラインで確認します。大規模事業者の義務に関する総務省ガイドライン(関連情報サイト経由)

この改正後も、発信者情報開示には法定の要件が必要です。大規模事業者の削除対応と、発信者情報開示請求は別の制度です。削除の申出を受け付けた後には削除の判断があり、投稿者情報の開示は、さらに別の要件と手続きに基づいて判断されます。

34.2027年施行予定の選挙情報対策との関係

2026年に成立した改正では、大規模プラットフォームに、選挙の公正に悪影響を及ぼす情報への対応方針や措置等を求める規定が加わり、主要部分は2027年3月1日から施行されます。公布された令和8年法律58号の第2条と附則でも確認しました。2026年10月26日現在、この主要部分はまだ施行されていません。改正後の施行日を含む法令情報(e-Gov法令検索)

国会審議では、サービスの性質に応じた措置を求める制度であり、個々の情報について一律の削除義務を直接課すものではないこと、表現の自由への配慮が説明されています。衆議院特別委員会議録・2026年6月25日

この選挙情報対策も、匿名投稿者を特定する法5条の開示要件とは別の論点です。施行前の規定と現行制度を混同せず、今後の政省令・ガイドラインと指定事業者の運用を確認する必要があります。

35.被害を受けた側の実務チェックリスト

  1. 生命・身体への危険、脅迫、ストーカー被害がある場合は、安全確保と警察相談を優先する。
  2. 個別投稿URL、本文、画像・動画、日時、アカウントID、前後関係を保存する。
  3. 削除依頼前に証拠を確保する。
  4. 誰のどの権利が侵害されたかを投稿ごとに整理する。
  5. 内容が虚偽なら、虚偽と示せる一次資料を集める。
  6. CP、AP、サーバ管理者など通信経路を整理する。
  7. 事業者の現行の開示窓口、保存要請窓口、利用規約を確認する。
  8. ログがいつ消えるかは一律でないと考え、早期に対応する。
  9. 裁判外請求、開示命令、従来型手続のどれを使うか検討する。
  10. 投稿削除、発信者特定、損害賠償、刑事手続の優先順位を決める。
  11. 海外法人、共有IP、複数投稿など、追加費用の条件を確認する。
  12. 開示された個人情報は被害回復の目的に沿って厳重に扱う。

36.意見照会を受けた側の実務チェックリスト

  1. 通知を放置せず、回答期限と送付元を確認する。
  2. 本物の事業者からの通知か、連絡先を公式サイトで照合する。
  3. 対象投稿、URL、日時、アカウントが自分のものか確認する。
  4. 開示を求められている情報の範囲を確認する。
  5. 投稿全文、前後の文脈、引用元、根拠資料を保存する。
  6. 自分が投稿していないなら、回線・端末の利用状況や乗っ取りの可能性を整理する。
  7. 不同意の理由は、法的な争点と証拠に沿って書く。
  8. 元投稿を削除・編集する前に、証拠保全と今後の影響を検討する。
  9. 公開の場で請求者の個人情報や通知書を拡散しない。
  10. 損害賠償、刑事手続、勤務先・家族への影響が見込まれる場合は早めに専門家へ相談する。

37.よくある質問

アカウント名を変えたり、投稿を消したりすれば特定されない?

事業者側に投稿情報、登録情報、通信記録が残っていれば、名前の変更や投稿の削除後でも特定につながる可能性があります。一方、被害者が画面を保存していても、必要な通信記録が事業者に残っていなければ特定できないことがあります。

鍵アカウントの投稿も対象になる?

フォロワー数、承認の仕組み、実際の公開範囲などから、不特定の者による受信を目的とした通信に当たるかを個別に検討します。「鍵付き」という設定名だけで一律に決まりません。

リポスト、引用、まとめ転載は誰が発信者?

元投稿者だけでなく、再投稿・引用・転載をした者の行為が独立した権利侵害になるかを、追加した文言、表示のされ方、到達範囲などから検討します。対象となる投稿と通信を分けて特定する必要があります。

開示請求されたと公表されたら、違法投稿が確定した?

いいえ。請求は当事者の手続行為です。意見照会、裁判所の開示命令、開示命令の確定、特定後の損害賠償判決は、それぞれ違う段階です。

開示されたら必ず高額な賠償になる?

いいえ。特定後に、投稿者性、権利侵害、故意・過失、損害、因果関係などが改めて問題になります。示談額と裁判所が認める額も同じとは限りません。

投稿削除と開示請求を同時に進められる?

手続きとしては別ですが、並行して検討できます。ただし、先に証拠を確保し、削除とログ保存の両方を見落とさないことが重要です。

費用倒れになることはある?

あり得ます。特定に要する費用と、見込まれる損害賠償額、謝罪・削除・再発防止など金銭以外の目的を比較します。相手に資力があるとも限りません。費用を損害として請求し、全部または一部が認められる場合がありますが、全額回収を前提にはできません。法務省の2026年4月調査報告書(35〜38頁)でも、調べた裁判例には全部認容(全て認めること)、一部認容、全部棄却(請求内容を認めないこと)があり、範囲が分かれています。

38.政経プラスの視点:被害救済と表現の自由を、手続きで両立させる

ここからは、制度を踏まえた政経プラスとしての評価です。

匿名性には、内部告発、少数者の発言、権力への批判を支える役割があります。同時に、匿名の中傷、差別、個人情報の暴露、脅迫による深刻な被害もあります。制度の評価では、この両方を考える必要があります。

発信者情報開示制度の役割は、声の大きい側の要求で身元を明かすことではなく、権利侵害の明白性と正当な理由を手続きの中で確認し、必要な被害回復につなげることです。発信者に意見を述べる機会を設け、取得情報の不当利用を禁じているのも、その均衡のためです。

政治・行政をめぐる言論でも、判断の基準は投稿内容、根拠、文脈、対象となる権利です。請求者の影響力や「権力批判」という位置づけだけで結論を出さず、裁判所が何を判断したかを資料から確認します。

政経プラスは、発信者情報開示をめぐる出来事を報じる際、少なくとも次を分けて記載します。

  • 開示請求をしたという当事者の発表。
  • 事業者から意見照会が届いた段階。
  • 裁判所が開示要件を認めた決定と、その確定の有無。
  • 開示された情報が示す契約者と、実際の投稿者の認定。
  • 特定後の示談内容、民事判決、刑事処分。
  • 制度に関する一般論と、個別事件への編集上の評価。

開示請求という言葉自体を威嚇に使わず、被害を受けた人が記録の消失前に救済へ進めること。正当な批判を行う人が、請求の存在だけで違法と決めつけられないこと。その両方を支えるのは、結論を急がず、各段階の資料を確認する姿勢です。

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本記事は、2026年9月5日を調査基準日とし、10月26日に現行法と裁判所の案内を再確認した一般解説です。法令、裁判所・法務省等の公的資料、情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会の実務資料に基づいています。個別の投稿の違法性、請求先、必要な情報、期限は事案ごとに異なります。具体的な手続きでは、申立先裁判所と事業者の最新案内を確認してください。

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