黒く塗られているはずの個人情報が、電子ファイルの扱い方によって読める状態になっていた――。
兵庫県の公文書公開をめぐり、2026年7月31日付の申入書で、公開資料のマスキング処理に問題があったとして県の調査を求める動きが明らかになりました。
今回確認した公式ページでは、県の調査結果や、同じ方法で過去の公開資料が閲覧できた件数は確認できていません。したがって、県が意図的に個人情報を公開した、あるいは過去の資料が一斉に流出したと断定する段階ではありません。
ただし、申入書の指摘が事実であれば、問題は担当者のPDF操作だけではありません。県民が安心して公文書公開請求や県政への意見提出をできるのかという、情報公開制度の土台に関わります。
申入書が指摘した内容
政経プラスの直近動画で紹介された申入書と、公開された記者会見映像によると、匿名希望者が兵庫県に対して、2026年6月3日の知事会見に関する第三者の意見などを含む文書の公開請求を行いました。
申入書によると、県は氏名・住所・メールアドレスを非公開とし、それ以外の部分を公開する決定をしました。その後にデータ形式で交付された文書について、申入書は黒塗りや白色化された部分が、一定の操作によって閲覧できる状態だったと指摘しています。
申入れを行った中道一政弁護士は、同様の事態が県の過去の公文書公開でも起きていないかを精査し、その結果を公表するよう県に求めています。
ここで分けて考える必要があります。
- 申入書が示したのは、個人情報が読める状態だったという指摘です。
- 県がその指摘を認めたのか、原因をどう判断したのかは、県の調査結果を待つ必要があります。
- これまでに何件の資料が同じ状態で交付されたのかも、現時点では不明です。
この3点を混ぜてしまうと、確認されていない被害まで事実のように広がります。一方で、県の調査結果が出るまで何も問題がないかのように扱うこともできません。
「黒塗り」と「情報を消すこと」は同じではない
PDFの画面上で文字が見えなくなっていても、元の文字データの上に黒い図形を重ねただけなら、情報そのものが消去されたとは限りません。
個人情報保護委員会は2026年3月の監視・監督事例で、地方公共団体がウェブサイトに掲載した文書について、黒塗りや白地処理が不十分だったため、文字部分をコピーして文書作成ソフトなどに貼り付けると閲覧できた事案を公表しています。原因として、ウェブサイト掲載時の確認が不十分だったことを挙げています。
また、2025年6月の事例でも、非公開にする個人の住所について黒塗りに不備があり、複数職員による確認体制が整っていなかったことが原因と考えられた事案が示されています。
つまり、今回の申入書が指摘する問題は、特殊な話ではありません。行政が電子データを公開するとき、画面で見えないことと、データとして復元できないことを区別できているかが問われます。
兵庫県の情報公開制度は何を前提にしているのか
兵庫県は、県が保有する公文書について、誰でも公開請求できると案内しています。一方で、個人のプライバシーを侵害するおそれのある情報、法人の正当な利益を害する情報、公共安全に関わる情報などは、公開できない情報として整理しています。公開・非公開の決定は、原則として請求から15日以内です。
制度の考え方は、必要な情報は公開し、守るべき個人情報は守るというものです。今回のように、非公開と決めた情報が公開用データの中に残っていたとすれば、問題は「公開するか、しないか」の判断だけではありません。公開すると決めた後のデータ処理まで含めて、行政の責任が問われます。
兵庫県の「さわやか提案箱」も、県政に関する意見や提案を受け付け、寄せられた提案を個人情報保護法に基づき適正に管理すると案内しています。県民が行政に意見を送るためには、自分の名前や連絡先が不用意に外へ出ないという最低限の信頼が必要です。
県の調査で確認すべき5つの点
県が調査結果を公表する場合、単に「担当者の操作ミスでした」「再発防止を徹底します」と説明するだけでは足りません。少なくとも、次の点を明らかにする必要があります。
1. どの資料が対象だったのか
今回の1件だけなのか、同じ担当課の資料全体なのか、過去何年分を調べたのか。調査対象の範囲が示されなければ、結果の意味を判断できません。
2. 何が、どの程度見える状態だったのか
氏名、住所、メールアドレスなど、閲覧可能だった情報の種類を示す必要があります。ただし、個人情報そのものや、再現に使える手順を公表する必要はありません。
3. 作成・処理・確認の責任分担はどうなっていたのか
誰が公開用データを作り、誰が確認し、どの記録を残したのか。チェックが一人だったのか、複数人で行ったのかも重要です。
4. 閲覧やダウンロードの範囲を確認したのか
ウェブ公開ならアクセス記録、個別交付なら交付先や交付日時を確認する必要があります。漏えいのおそれがある場合に、対象者への説明や通知をどう行ったのかも問われます。
5. 過去の公開資料をどう点検するのか
今回のファイルを差し替えるだけでは、同じ方法で作られた過去の資料が残ります。過去分の点検期間、対象件数、発見した問題、点検後の公開方法を示すべきです。
兵庫県で続く情報管理の問題とどう比べるか
兵庫県は2026年7月、分収林契約地の情報が林業関係団体に漏えいした事案を公表しました。県の発表では、豊岡市内の173契約地、契約者114者分の情報が対象となり、そのうち8件は個人情報を含んでいました。県は、職員が支援業務と誤認して情報を提供したと説明し、資料の破棄・データの消去を確認したうえで、全職員への研修を行うとしています。
また、県は「はばタンPay+」をめぐる個人情報漏えいとメール誤配信について、2026年3月に検証結果を公表しています。
これらの事案と今回のマスキング問題は、原因も情報の種類も同じとは限りません。したがって、複数の事案があるから直ちに一つの組織的原因が証明された、とまでは言えません。
しかし、情報を渡す判断、システムの設計、公開用データの処理、公開後の確認という別々の場面で問題が起きているなら、個別の担当者を注意するだけでなく、県庁全体の情報管理を横断的に点検する必要があるのかを検証すべきです。
県民が「公開請求しても大丈夫」と思えるか
情報公開制度は、行政を監視したい人だけのための制度ではありません。県が何を決め、どの資料を持ち、どのように説明しているのかを、県民が確認するための制度です。
その請求をした人の名前や住所、メールアドレスが、非公開のはずなのに電子ファイルから読める状態で交付されるなら、次に請求しようとする人はためらいます。意見を送ることにも不安を感じるでしょう。
今回の問題で、意図的な漏えいがあったのか、実際に何人の情報が外部に出たのかは、まだ分かっていません。だからこそ、県に求められるのは、抽象的な謝罪ではなく、調査範囲と方法、確認された事実、被害の有無、過去資料への対応を具体的に公表することです。
黒塗りは、見た目を黒くするための作業ではありません。公開してはいけない情報を、復元できない形で取り除くための行政手続です。その最後の確認ができていなかったとすれば、問われているのは一つのPDFではなく、県民が県政を確認するための入口そのものです。
まとめ
今回の申入書が指摘したのは、兵庫県が公開した電子ファイルのマスキング処理に、個人情報が読める状態があったという問題です。今回確認した公式資料の範囲では、県の調査結果や過去資料への影響は不明であり、意図的な漏えいと断定することはできません。
一方、個人情報保護委員会が同種の自治体事例を公表している以上、「画面で見えないから大丈夫」という管理では不十分です。兵庫県は、今回の1件だけでなく、過去の公開資料、確認体制、交付後の影響まで含めて調査し、県民が検証できる形で結果を示すべきです。


