この記事は、横浜市と秋田県鹿角市が公表した第三者調査報告書を比較したものです。自治体ごとに調査対象・期間・証拠の量が異なるため、認定件数だけで問題の深刻さを順位づけるものではありません。
横浜市の山中竹春市長をめぐる第三者調査報告書は、7つの事項を調査し、個々の細部を区別しながら、全体として重大なパワーハラスメントがあったと評価しました。
似た構図を持つ事例として、秋田県鹿角市の関厚市長をめぐる第三者調査があります。鹿角市の報告書は、17件を調査対象とし、そのうち12件をパワーハラスメントと認定しました。
数字だけを見ると、横浜市の7事項より鹿角市の12件のほうが多く見えます。しかし、重要なのは件数の大小ではありません。二つの報告書は、どのように事実を選び、どの段階で制度を整え、首長を含む特別職を誰が調べるのかという点で、比較する価値があります。
まず、調査結果の数字を並べる
| 比較項目 | 横浜市 | 鹿角市 |
|---|---|---|
| 報告書 | 2026年7月30日公表 | 2025年1月24日公表 |
| 調査対象 | 7事項 | 17件 |
| パワハラ評価 | 7事項に関する行為を総合し、重大なパワハラと評価 | 17件のうち12件をパワハラと認定 |
| 調査委員 | 弁護士3人 | 弁護士3人 |
| 主な調査 | 現職・元職員へのアンケート、情報提供、57人へのヒアリング、記録確認 | 無記名アンケート、関係者ヒアリング、録音記録、市長の弁明 |
| 制度面の提言 | 特別職を含む条例、独立通報窓口、第三者委員会など | 特別職を含む条例の周知、相談体制、厳正な対処など |
横浜市は、幹部職員・元幹部職員・その他職員を重複除去後746人に調査し、294人が回答しました。情報提供窓口には244人が回答し、ヒアリングは57人に実施されています。
鹿角市は、対象職員273人に無記名アンケートを実施しました。報告書は、パワハラを受けたことがある、または目撃したことがある職員の割合を、全職員で29.5%、管理職で51.6%と記載しています。さらに、録音記録を客観証拠として重視し、市長本人にも弁明の機会を設けました。
このように、横浜市は広い情報収集と複数の情報経路を組み合わせ、鹿角市は個別事案を録音や関係者の供述で詰める設計が目立ちます。
横浜市は「広がり」と「組織への影響」を分析した
横浜市の報告書が調べたのは、怒鳴る、机を叩く、書類を投げつける、切腹発言、銃撃ポーズ、人格を否定する発言、勤務時間外の連絡、市長室への出入り禁止、人事権を背景にした職員支配などです。
個別の細部には、認定できないものもありました。2023年6月16日の場面で机を叩いたか、切腹発言が前人事部長だけに向けられたか、写真展で特定の侮辱語を発したか、私用メールが情報公開を避ける目的だったかは、報告書が認定に至らなかった点です。
それでも報告書は、個々の言葉を単体で見るのではなく、圧倒的な優位に立つ市長が、多岐にわたる不適切な言動を日常的・継続的に行ったことを総合評価しました。さらに、職員の萎縮、幹部の牽制機能の不全、人材流出への懸念、行政運営への影響まで分析しています。
横浜市の特徴は、パワハラを「ある会議で怒鳴ったかどうか」という個別の場面だけで終わらせず、組織全体の意思決定と職員の心理的安全性にまで広げて評価したことです。
鹿角市は「録音と個別事案」で12件を認定した
鹿角市の報告書には、録音記録を軸にした個別事案が並びます。部長会議での強い叱責と机を叩く行為、職員の家族に500万円を出してもらうよう求めた発言、給料や退職金をめぐる脅し、職員を違法行為の主犯のように扱う発言、自殺を連想させる発言、報道関係者がいる前での大声の叱責などです。
報告書は、17件のうち12件をパワハラと認める一方、アンケートに寄せられたすべての不適切な言動をパワハラとしたわけではありません。パワハラの定義に必要な職場環境への支障や、特定の職員への直接性などが足りないものもありました。
ここは横浜市と共通しています。どちらも、強い言葉があったというだけで全件を認定したのではなく、業務上の必要性・相当性、職員への精神的負担、周囲への影響を見ています。
大きく違うのは「条例をいつ整えたか」
鹿角市の報告書で注目すべきなのは、最終報告書が出る前の2024年12月20日に、特別職を含むハラスメント防止条例が成立していたことです。報告書は、この条例について、市長、議員、職員の責務や禁止行為を定め、相談員、第三者相談窓口、対策委員会、審査会を置き、事実確認後の人事上の措置や一定事項の公表を可能にする仕組みだと説明しています。
一方、横浜市の報告書は、従来の職員向け指針に市長などの特別職を明確に含める文言がなく、特別職を対象にした調査体制も整っていなかったと指摘しました。そのうえで、特別職を含む条例、外部の第三者通報窓口、独立した第三者委員会、市長本人が対象の場合に副市長が権限を代理する仕組みを提言しています。
つまり、鹿角市は問題が表面化した後、調査と並行して特別職を対象にした制度を先に作った例です。横浜市は、報告書が制度の不足を明確にし、これから条例化と独立機関の整備を求める段階にあります。
条例があれば、パワハラは防げるのか
ここで、鹿角市の条例成立を過大評価してはいけません。条例が成立したからといって、首長の不適切な言動が自動的に止まるわけではありません。鹿角市の報告書自身も、相談体制を整え、同種事案が起きたときは早期に把握・解明し、厳正に対処することが抑止になると提言しています。
必要なのは、次の三つが同時に機能することです。
- 市長や副市長を含む対象範囲が、規程や条例に明記されている
- 調査対象者の人事権から距離を置いた相談・調査経路がある
- 相談者や証言者への不利益取扱いを禁じ、調査結果と対応を公表する
横浜市の報告書が「一個人の決断と犠牲がなければ事案が表面化できなかった」と指摘したのは、まさにこの入口の問題です。声を上げる人の勇気だけに依存する制度は、再発防止の仕組みとは言えません。
政経プラスの評価――件数競争ではなく、調査の再現性を見る
横浜市の7事項と鹿角市の12件を比べて、どちらが重いかを決めることはできません。調査対象の切り方、出来事の期間、証拠の有無、報告書に載せる範囲が違うからです。
比較から見えてくるのは、首長のパワハラ問題では、事後の謝罪だけでは足りないということです。誰が調査を始められるのか、首長本人が調査を妨げられないか、証言者をどう守るのか、結果をどう公表するのかを、問題が起きる前に決めておく必要があります。
鹿角市の条例化と、横浜市の報告書が示した制度提言は、異なる段階にある二つの事例です。横浜市が報告書を受けて条例と第三者機関を実装できるか。そこを追わなければ、7件・12件という数字を紹介しただけで終わってしまいます。
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横浜市の第三者報告書を起点に、他自治体の調査制度と通報者保護を比較しています。
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