政府答弁書と斎藤知事の説明はどこが食い違うのか|通報者探索をめぐる3つの立場を原文で比較

政府答弁書 vs 知事説明 通報者探索をめぐる3つの立場 兵庫県政

兵庫県の告発文書問題で、いまも決着していない論点があります。文書の作成者を特定しようとした県の対応が、公益通報者保護法の考え方に照らして許されるのか、という点です。

2026年6月26日、この論点に関わる政府答弁書が閣議決定されました。石垣のりこ参議院議員が提出した質問主意書に対する、内閣参質二二一第五四号です。その5日後の7月1日、斎藤元彦・兵庫県知事は定例会見でこの答弁書について問われ、これまでの説明を維持しました。

この記事では、答弁書が何を述べ、何を述べていないのかを原文で確認したうえで、第三者調査委員会の認定、知事の会見での説明と並べて、どこが食い違っているのかを整理します。

この記事の要点

  • 政府答弁書は、公益通報をしたか問う行為や端末の確認が「通報者を特定する目的の行為」に当たり得ると、消費者庁の説明を引いて示した
  • 表向き別の目的を掲げても、実際に通報者探しが目的なら「正当な理由のない探索」に当たり得るとした。一方、個別事案の当てはめは避けている
  • 斎藤知事は7月1日の会見で、真実相当性を確認するための作成者特定は「法律上禁止されていない」と説明を維持した。第三者委の「違法」評価との隔たりは残る

答弁書の基本情報

項目 内容
件名 公益通報者保護制度における三号通報者の探索行為に関する質問主意書
提出者 石垣のりこ・参議院議員
提出日 2026年6月15日
答弁書 内閣参質二二一第五四号(2026年6月26日)
答弁者 内閣総理大臣 高市早苗
出典 参議院「答弁書」本文

質問主意書とは、国会議員が内閣に文書で質問し、内閣が閣議決定を経て文書で答える仕組みです。答弁書は政府の公式見解として扱われます。

なお、斎藤知事が会見でこの答弁書について問われたのは7月1日です。7月1日は答弁書の日付ではありません。答弁書の閣議決定は6月26日です。

質問は「三号通報者の探索」を7項目で尋ねた

「三号通報」とは、報道機関など事業者の外部への公益通報を指します(公益通報者保護法3条3号)。質問主意書は、改正法で新設される11条の3(公益通報者を特定することを目的とする行為の禁止)をめぐり、次の7点を尋ねました。

番号 質問の要旨
一 改正前の法律で、三号通報者を特定する目的の行為は許容されていたか。許容されていなかったなら、その法的根拠は何か
二 11条の3は、既存の指針の内容を法定化したものか、新たな義務の創設か
三 「特定することを目的とする行為」と「正当な理由」の具体的内容
四 法令違反の調査と、通報者を特定する調査は区別されるか
五 違反調査の際の聞き取りなど、特定につながる行為はどこまで禁止されるか
六 調査の結果として通報者が判明した場合と、特定を目的とした場合の区別
七 三号通報者の探索が通報を萎縮させるおそれについての政府の認識

出典:参議院「質問主意書」本文

答弁書が述べたこと|原文で確認する

現行の指針でも「通報者の探索を防ぐための措置」が求められている

一の問いに対し、答弁書は現行の法定指針(令和3年内閣府告示第118号)を引用しました。指針は、事業者がとらなければならない措置として、やむを得ない場合を除いて「通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる」こと、探索が行われた場合に行為者へ「懲戒処分その他適切な措置をとる」ことを定めている、という内容です。

ここで注意したいのは、答弁書は「改正前に三号通報者の探索が許容されていたか」という問いに、許容・不許容の言葉で直接は答えていない点です。現行指針の規定を示すにとどめています。

11条の3は「法律上明確にしたもの」

二の問いについて、答弁書は趣旨が明らかでないとしつつ、改正後の11条の3は、公益通報者を特定することを目的とする行為は正当な理由がない限り禁止される旨を「法律上明確にしたもの」と述べました。指針のレベルで求められていたことを、法律の条文に書き込んだという説明です。

具体例は消費者庁の説明を引用

三の問いについては、個別事案で判断すべきで一概に答えられないとしたうえで、消費者庁ホームページの説明を引く形で例を示しました。

区分 答弁書が挙げた例(消費者庁ホームページの説明を引用)
特定を目的とする行為に当たり得る例 公益通報をした可能性がある人に、公益通報をしたか否か問う行為。公益通報者を特定するために、従業員の端末やサーバーの内容を確認する行為など
「正当な理由」に当たり得る例 匿名の通報で、通報者がどのような局面で不正を認識したかを特定しなければ必要な調査や是正ができない場合に、守秘義務を負う従事者が特定につながる事項を問うこと

「別の目的」を掲げていても、実態が探索目的なら該当し得る

兵庫県の問題に最も関わるのが六の答弁です。答弁書は消費者庁の説明を引き、別の目的を掲げているのが表面上のみで、実際には通報者探索目的で調査していたのであれば「正当な理由」のない通報者探索に該当し得る、としました。

他方で、真に通報者探索を目的としない調査の結果、意図せず通報者が判明した場合は、一般論としては「正当な理由」のない探索には当たらない、とも述べています。

個別事案への当てはめはしていない

五の問い(違反調査時の聞き取りで三号通報者を特定しようとする行為)については、個別具体の事案に即して判断すべきで一概に答えられない、としています。答弁書は兵庫県の事案に言及していません。

七の問いには、自分が通報したことが知られる懸念があれば、公益通報をためらうことが想定される、という消費者庁の説明を引いて答えています。

第三者調査委員会は何を認定していたか

兵庫県が設置した文書問題に関する第三者調査委員会は、2025年3月19日に報告書を公表しました。報告書は、告発文書の作成・配布を外部への公益通報に当たり得るものと評価し、作成者を特定しようとした県の対応を公益通報者保護法に反すると指摘しています。経緯は兵庫県の第三者委員会報告はなぜ争点に?で整理しています。

また、知事は2024年9月6日の県議会百条委員会で、調査の目的について問われた際、文書を誰が作成したのか、なぜ作成したのかを挙げていたと報じられています。7月1日の会見でも、関西テレビの記者がこの点を指摘しました。

7月1日の知事会見|説明は変わらなかった

2026年7月1日の定例会見で、毎日新聞の記者は答弁書に触れ、告発された側が公益通報に当たらないと判断すれば、その段階で通報した可能性がある人を探索してよいという理解か、と尋ねました。

知事は答弁書の詳細は承知していないとしたうえで、文書は誹謗中傷性が高く、多方面に不利益を及ぼす内容だと判断したと説明しました。そして、県の正当な利益が不当に害されるおそれや、真実相当性が不明確な場合に、作成者を特定してさらなる事実関係の調査・確認を行うことは、法律上禁止されているとは考えていない、と述べています。

関西テレビの記者は、答弁書の六の考え方に照らせば、百条委員会で調査目的の第一に「誰が作成したのか」を挙げたことは「正当な理由のない探索」に当たるのではないかと重ねて質問しました。知事は、先ほどの答えのとおりだとして、同じ説明を繰り返しました。

出典:兵庫県「知事記者会見(2026年7月1日)」

3つの立場を並べると、どこが食い違うのか

論点 政府答弁書(6月26日) 第三者調査委員会(2025年3月) 斎藤知事(7月1日会見)
作成者の特定は許されるか 正当な理由がない限り禁止(改正法11条の3で明確化)。現行指針でも探索防止措置を求める 公益通報者保護法に反すると評価 真実相当性の確認などのための特定は法律上禁止されていないとの認識
目的の判断 表面上別の目的でも、実態が探索目的なら該当し得る 作成者の特定を目的とした調査と評価 目的は真実相当性の確認と説明
兵庫県の事案への当てはめ していない(個別事案に即して判断) している(違法と評価) 県の対応は適正・適切・適法との立場

整理すると、答弁書は「兵庫県の対応は違法だった」と述べたわけではありません。一方で、知事の説明は、答弁書が示した「目的の実態で判断する」という考え方に正面から答えていない、というのが筆者の見方です。

知事の説明は「真実相当性を確かめるため」という目的を前提にしています。しかし答弁書の六は、掲げた目的ではなく実際の目的で判断するとしています。そうであれば問われるのは、2024年3月当時、県が実際に何を目的に動いたのかです。百条委員会での「誰が作成したのか」という発言をどう位置づけるのか。知事にはその説明が求められていると考えます。

12月1日の改正法施行で何が変わるか

改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号)は2026年12月1日に施行されます。11条の3により、正当な理由のない通報者特定目的の行為は、指針ではなく法律上の禁止になります。

ただし、法律は原則としてさかのぼって適用されません。2024年の兵庫県の対応に改正法を直接当てはめることはできず、評価の基準は当時の法律と指針です。答弁書の一が、当時から指針で探索防止措置が求められていたことを確認した点は、その意味で重要です。

改正の全体像は公益通報者保護法の改正前・改正後を比較、探索禁止の範囲は公益通報者探索とは?で解説しています。

よくある質問

Q. 政府答弁書は、兵庫県の対応を違法と認めたのですか?

いいえ。答弁書は個別の事案について、具体的に判断すべきもので一概に答えられないとしています。兵庫県の名前は出てきません。示したのは一般的な考え方と、消費者庁の説明の引用です。

Q. 支持者の間で「答弁書は知事の主張を裏付けた」という見方があるのはなぜですか?

答弁書の六が、真に別の目的で調査した結果として通報者が判明した場合は、一般論として正当な理由のない探索に当たらない、と述べているためです。ただし同じ答弁は、別の目的が表面上のみで実態が探索目的なら該当し得る、とも述べています。どちらに当たるかは、当時の実際の目的の認定にかかっています。

Q. 「三号通報」とは何ですか?

報道機関など、事業者の外部への公益通報です。保護されるには、真実相当性などの要件があります。詳しくは3号通報とはをご覧ください。

まとめ

  • 政府答弁書(内閣参質二二一第五四号、2026年6月26日)は、改正法11条の3が通報者特定目的の行為の禁止を「法律上明確にしたもの」と説明した
  • 現行の指針でも、事業者には通報者の探索を防ぐ措置が求められていることを確認した
  • 別の目的を掲げても、実態が探索目的なら「正当な理由」のない探索に当たり得るとした。個別事案への当てはめは避けた
  • 斎藤知事は7月1日、真実相当性の確認のための作成者特定は法律上禁止されていないとの説明を維持。第三者委の評価との隔たりは解消していない

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更新履歴:2026年9月25日 公開

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