改正公益通報者保護法(不正を知らせた働き手などを守る法律)が、2026年12月1日に施行(法律が効力を持つこと)されます。2026年10月25日に改正法と現行法を再確認し、施行後の変更点を整理しました。
今回の改正でいちばん大きいのは、保護要件(法律で保護されるための条件)を満たす公益通報(法律に定める不正を知らせること)を理由に解雇(雇用を打ち切ること)や懲戒(職場の規則などに定めた制裁)をした場合の刑事罰(犯罪への処罰)と、一定期間内の解雇や懲戒を「通報が理由だった」と推定(いったんその理由だったと扱うこと)する規定の2つです。
民間労働者について、推定の期間は原則として通報日から1年以内ですが、行政機関や報道機関等への通報を事業者が知って処分した場合は、事業者が通報を知った日から1年以内です。これまでは解雇の無効や不利益取扱い(降格など不利な扱い)の禁止という民事上(労働者と事業者の権利関係)のルールが中心でしたが、そこに刑事罰と、事業者側が反証(推定を覆すための証明)をする仕組みが加わります。一般職の公務員(知事などの特別職を除く、通常の行政職員など)には別の規定があります。
「推定」とは、一定の条件を満たすと、まず通報が解雇・懲戒の理由だったと扱う仕組みです。事業者は、通報と無関係の理由を証明して覆せます。以下、罰則と推定規定を条文に沿って確認します。

改正の基本情報|いつから、どの法律が変わるのか
まず前提を確認します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法律名 | 公益通報者保護法の一部を改正する法律 |
| 法令番号 | 令和7年法律第62号 |
| 成立 | 2025年6月4日 |
| 公布(成立した法律を公に知らせること) | 2025年6月11日 |
| 施行 | 2026年12月1日 |
新しい刑事罰は、施行前にした行為には適用されません。一方、民事上の推定規定には経過措置があります。改正法附則3条3項は、施行前の解雇にも、旧法3条の解雇無効の判断において新法3条3項の推定規定を適用すると定めています。解雇以外の不利益取扱いへの推定は、施行後に懲戒としてされたものが対象です。また、改正後の規定は、罰則を除き、特別の定めがなければ施行前の公益通報にも適用されます。罰則、解雇・懲戒、通報の時期を分けて確認します。
変更点1|通報を理由にした解雇・懲戒に刑事罰
今回の改正の中心は、刑事罰の新設です。
改正後の21条1項は、3条1項の保護要件を満たす公益通報を理由として、解雇等特定不利益取扱い(ここでは解雇と、就業規則などで定めた懲戒)をした個人に6か月以下の拘禁刑(刑事施設に収容する刑)または30万円以下の罰金を科すと定めています。民間労働者では、解雇と、就業規則(職場で働く条件や守る決まり)や労働契約で定めた制裁としての懲戒が対象です。
刑事罰の対象は、条文が定める解雇・懲戒などです。ほかの不利益取扱いは、その禁止規定と救済方法を別に確認します。23条1項1号の両罰規定(行為者に加え、その法人なども処罰する定め)により、法人には3000万円以下の罰金が定められています。
一般職の公務員には9条の読替え(対象に合わせて条文の言葉を置き換えること)により、分限免職(勤務実績や心身の故障など法律の理由で職を失わせる処分)または懲戒処分について個人への罰則が適用されますが、国・地方公共団体にはこの両罰規定は適用されません(23条2項)。
ここで注目したいのは金額の差です。個人は30万円以下、法人は3000万円以下で、100倍の開きがあります。組織的な判断で行われた不利益取扱いを、担当者個人の問題として処理させないという設計だと読めます。
そのほかの罰則
- 公益通報対応業務従事者(通報者を特定できる情報を扱い、通報対応を担う指定された人)を定める義務に関する命令に違反した場合:30万円以下の罰金(改正後の21条2項1号)
- 16条1項の立入検査を拒み、妨げ、または忌避した場合:30万円以下の罰金(改正後の21条2項2号。法人等への両罰は23条1項2号)
- 公益通報対応業務従事者または従事者であった者が、正当な理由なく、業務で知り得た通報者を特定させる情報を漏らした場合:30万円以下の罰金(改正後の12条・22条)
- 16条1項の報告をせず、または虚偽の報告をした場合:30万円以下の罰金(改正後の21条2項2号)。16条2項の報告をせず、または虚偽の報告をした場合:20万円以下の過料(刑罰ではない金銭上の制裁。改正後の24条)
罰則が並ぶと厳しく見えますが、裏返せば、これまでは行政が事業者に動いてもらうための手段が乏しかったということでもあります。
変更点2|1年以内の解雇・懲戒は「通報が理由」と推定される
実務でいちばん効くのは、こちらかもしれません。
改正後の3条3項は、3条1項各号の保護要件を満たす公益通報に関し、原則として通報日から1年以内にされた解雇または懲戒を、民事上の無効を判断する際に、公益通報を理由としてされたものと推定します。ただし、2号・3号の外部通報がされたことを事業者が知って処分した場合は、事業者がその通報を知った日から1年以内が対象です。この推定は刑事裁判に適用する規定ではなく、一般職の公務員にも適用されません(9条)。
これまでは、通報を理由に不利益な扱いを受けたと主張する側が、通報と処分のつながりを立証する必要がありました。しかし人事評価や処分の理由は事業者の内部にあり、通報した本人が証拠を集めるのは簡単ではありません。裁判で争っても、この立証の壁で終わってしまう例が指摘されてきました。
推定規定が入ると、この関係が入れ替わります。上の要件と起算日に照らして1年以内の解雇や懲戒であれば、民事上はまず「通報が理由だった」と扱われ、そうではないと言うためには事業者の側が通報と無関係の理由を立証して推定を覆す必要があります。
事業者は、処分理由と判断の経過を記録する必要がある
事業者は、通報とは無関係の処分理由があるなら、それを立証できるようにする必要があります。通報者への処分を一律に禁じる規定ではありません。
具体的には、処分の理由、評価の経過、判断に関わった人、時期といった記録を残しておくことが、これまで以上に重要になります。12月1日までに整えておきたいのは、この記録の運用です。
変更点3|通報の妨害と通報者探しの禁止
改正後の11条の2は、正当な理由なく公益通報をしない旨の合意を求める行為などを禁止しています。あわせて、そうした行為が法律行為(合意など、法的な効果を生む行為)である場合は無効になるとされています。誓約書にサインさせても、その部分は効力を持たないという意味です。
改正後の11条の3は、正当な理由なく通報者を特定しようとする行為を禁止します。通報があった事実を調べること自体が禁止されるわけではなく、禁じられるのは「誰が通報したか」を突き止めようとする行為です。この線引きは実務で迷いやすいところなので、別記事で詳しく整理しています。
変更点4|フリーランスも保護の対象に
改正後の2条1項3号により、特定受託業務従事者(従業員を使わない個人の受託者など、法律の条件に合う働き手)、いわゆるフリーランスが、公益通報者として保護される範囲に加わります。
これまでの保護対象は労働者と派遣労働者、役員、退職後1年以内の人が中心でした。業務委託(雇用契約ではなく、仕事を請け負う契約)で現場に入っている人は、同じ職場で同じ不正を目にしても、法の保護の外に置かれやすい状態でした。改正後は、法定の「特定受託業務従事者」が対象に加わります。すべての業務委託を一律に扱う制度ではなく、本人の働き方と契約が法定の条件に当てはまるかを確認します。
変更点5|体制整備義務と行政の権限が強まる
内部通報の窓口を整える義務は、常時使用する労働者が300人を超える事業者に課されています。この枠組み自体は変わりませんが、改正後の11条2項で、労働者等への周知(制度を知らせること)その他の必要な措置が法律上の義務として明示されます。窓口を作るだけでなく、その存在を知らせるところまでが義務だということです。
行政の側も手段が増えます。改正後の15条の2第2項は命令権、16条1項は立入検査権を定めています。条文上の権限は内閣総理大臣にありますが、19条により原則として消費者庁長官へ委任されます。
従事者を定める義務への違反では、勧告(是正を求めること)に正当な理由なく従わない事業者へ命令を出せます。この義務を確認する報告や立入検査の権限も強まります。すべての通報対応の不備が、同じ命令・検査・罰則の対象になるわけではありません。
企業と自治体が施行前に整えておきたいこと
企業と自治体で、優先順位は少し違います。
企業でまず必要なのは、処分の理由を記録する運用の整備です。推定規定が入る以上、説明できる状態を作っておくことが最大の備えになります。あわせて、通報窓口の周知方法と、業務委託先や協力会社の人からの通報をどう受けるかを決めておく必要があります。
自治体の場合は、首長部局(知事・市町村長側の行政組織)だけでなく、議会や外郭団体(自治体が設立や運営に関わる法人など)を含め、どこへ通報するか整理することが課題になります。通報を受けた部署が調査を担当してよいのか、独立性をどう確保するのかという設計も、改正の趣旨に照らして見直す時期です。
それぞれのチェック項目は、企業向け・自治体向けに別記事でまとめています。
兵庫県の過去の対応には、新刑事罰と民間向け推定規定は適用されない
兵庫県の告発文書問題では、通報者の特定と処分が先行したことが第三者委員会(県と利害関係のない弁護士らの調査組織)などで検証の対象になりました。この件は改正前の出来事であり、新しい刑事罰は施行前の行為に適用されません。また、一般職の公務員には新法3条3項の推定規定は適用されません。民間労働者の施行前の解雇に関する経過措置と混同しないことが必要です。
ただ、制度がどこを変えようとしているのかを考えるうえで、参考になる点はあります。正当な理由のない通報者探索が法律で明確に禁止されたこと、民間労働者について一定期間内の解雇・懲戒の理由を民事上推定する規定が設けられたこと。この2つは、これまで実際に争点になってきた部分に手を入れた改正だといえます。
12月1日以降、同じような場面が起きたときにどう扱われるのか。今回加わった条文を使って、対象となる行為と保護の条件を確認する必要があります。
よくある質問
改正法はいつから適用されますか
施行日は2026年12月1日です。新しい刑事罰は施行前の行為には適用されません。ただし、民事上の推定規定には経過措置があり、施行前の解雇についても旧法3条の解雇無効の判断に適用されます。解雇以外では、施行後に懲戒としてされたものが対象です。一般職の公務員には推定規定は適用されません。
通報したら必ず1年間は解雇されないということですか
通報と無関係の正当な理由がある場合は、事業者がその理由を立証して推定を覆せます。民間労働者について、保護要件を満たす通報の日から原則1年以内、外部通報を知って処分した場合は事業者が通報を知った日から1年以内の解雇・懲戒を、民事上「通報が理由」と推定する規定です。事業者が通報と無関係の理由を立証すれば、推定は覆ります。
従業員が300人以下の会社は何もしなくてよいですか
体制整備は努力義務ですが、通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰や推定規定には、事業者の規模による区別がありません。窓口の有無にかかわらず、不利益取扱いの禁止は全ての事業者に及びます。
刑事罰と民事推定は、対象・条件・経過措置が異なる
- 改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号)は2026年12月1日施行。新しい刑事罰は施行前の行為に適用されず、民事推定には施行前の解雇に関する経過措置がある
- 保護要件を満たす公益通報を理由とする解雇・懲戒に刑事罰。個人は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人は3000万円以下の罰金。一般職公務員には読替えがあり、国・自治体は両罰の対象外
- 民間労働者の解雇・懲戒は、保護要件を満たす通報日から原則1年以内、外部通報を知って処分した場合は事業者が通報を知った日から1年以内に、民事上の推定が働く
- 正当な理由なく、通報しない旨の合意を求めたり、通報者を特定しようとしたりする行為が禁止される
- フリーランスが保護の対象に加わり、行政には命令権と立入検査権が与えられる
- 企業が今から備えるなら、処分理由を説明できる記録の運用整備が最優先
消費者庁は、12月1日施行に対応する指針・解説・自治体向けガイドラインを公開しています。施行前の現行資料と施行後の資料を分けて案内しているため、準備する方は対象の版を確認してください。追加の更新も確認していきます。
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主な確認資料
- 消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」
- 国立国会図書館 日本法令索引「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年6月11日法律第62号)」
- 東京弁護士会「公益通報者保護法が改正されました」
- 大江橋法律事務所 ニュースレター「公益通報者保護法の一部を改正する法律について」


